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ヤングケアラー 家族支援も必要 イギリスの団体の取り組みは?

  • 2021年7月12日

30年ほど前からヤングケアラーの支援に取り組んできたイギリス。実は、ヤングケアラーだけでなく、ヤングケアラーの家族も支援の対象とされています。どうして家族への支援も必要なの?イギリス中部で活動する支援団体の担当者に話を聞きました。
(国際部/記者 山本健人)

「家族プロジェクト」約10年前から家族支援

今回、話を聞かせてもらったのは、イギリス中部にある都市シェフィールドでヤングケアラーの支援を行っている「シェフィールド・ヤングケアラーズ」でヤングケアラーの家族への支援を担当しているヘレン・ボルトさんです。

この団体について紹介した記事はこちら
イギリスの17歳のヤングケアラーが語る ケアのリアルと支援

山本記者

「シェフィールド・ヤングケアラーズ」ではいつから家族支援を行っていますか?

ボルトさん

私たちの団体では、およそ10年前からヤングケアラーの家族への支援を行っています。私たちはそれを「家族プロジェクト」と呼んでいて、16人のスタッフのうち、3人が家族支援の専門チームとして、家族との直接のやりとりなどを行っています。

 

どうして家族支援をはじめたのですか?

 

活動をする中で、ヤングケアラーの負担を減らすためには、子どもへの支援だけでなく、家庭内の環境を改善する必要があることに気がつきました。支援団体への助成金などは使い道が指定されている場合がほとんどなので、ヤングケアラーを支援するための財源とは別に、家族支援のための財源を確保しました。

特に支援必要と判断した家庭にアプローチ

 

家族を支援するために、どんな活動を行っていますか。

 

私たちが支援しているヤングケアラーの中から、特に負担が深刻だと感じた家庭にアプローチしています。年間40組の家庭が対象となっています。
支援が必要だと判断した家庭には主に3つのメニューを用意しています。

メニュー 回数  内容
1対1の面談 約1か月に1回 

子どもや家族の負担減らす方法の相談

グループワーク  公共施設で毎月1回

日頃の悩みや不安共有

ペアレント・ネットワーク・サポート   年に約6回

アート教室、遠足、映画鑑賞会など

 

担当者と家族の1対1の面談
支援団体の担当者が支援が必要な家族と面談を行い、子どもや家族の負担を減らす方法について相談に乗ります。およそ1か月に1回行われます。
子どもの前だと親が心を開かなかったり、子どもに聞かれると適切ではない内容を含む場合があったりするため、原則、面談に子どもは立ち会いません。
また、面談は担当者が家庭を訪問して行います。家の中の状況を見ることで、その家庭が必要としている支援のヒントが得られることも少なくありません。
相談の内容は行政サービスを受ける方法や家計の運用の仕方、それに親子関係など多岐にわたります。

グループワーク
地域にある公共施設で、毎月、ヤングケアラーの親が集まり、日頃の悩みや不安を共有する場を設けています。グループワークには、精神的、身体的、それに薬物依存などの問題があり、さまざまな悩みを抱えている親が参加します。
コーヒーやおやつなどを用意し、できるだけ堅苦しくならないようにして、親が気軽に参加できる雰囲気にするよう心がけています。
「幸せとは何か」とか「学校との関わり方で困ったこと」など、毎回、テーマを決めて意見交換も行っています。

ペアレント・ネットワーク・サポート
ヤングケアラーの親どうしがつながり、仲を深めてもらうイベントを開いています。年におよそ6回開いています。親どうしで楽しめるアート教室などのほか、子どもを含む家族どうしで海や公園に出かける遠足も企画しています。
これまで映画館を貸し切って、映画鑑賞会をしたり、クリスマス会を開いたこともありました。身体的な理由や心理的な理由で公共交通機関の利用を嫌がる親も多いので、参加者のために送迎サービスも行っています。参加する上での心理的なハードルをできるだけ下げることが狙いです。

自分でSOS出せる力つけてもらう

 

家族への支援活動の狙いはなんですか?

 

支援が必要な状況に陥ったときに、問題を認識し、自分たちで適切な支援を求めることができるようにサポートすることです。ヤングケアラーの親の多くは、支援が必要な状況であっても、支援が必要だということを認めたがりません。また、家庭内の問題について外部に助けを求めることに抵抗を感じる人もいます。

 

自分たちの力だけでは解決できない問題に直面する可能性は、どの家庭にだってあります。支援を求めることは恥ずかしいことではないことを理解してもらい、問題に対応する自信と知識を身につけてもらうことが不可欠です。そのために、悩みを打ち明けられる仲間を持ってもらい、孤立させないことも非常に有効です。

いかに警戒心解き 心を許してもらうか

 

家族を支援する上で気をつけていることはなんですか?

 

私たちの支援に対する警戒心を解き、信頼してもらうことです。親が外部のサービスに対して強い警戒心を抱くことは少なくありません。私たちは、とがめるために来たのではなく、手助けをするために来たことを根気強く伝えます。
そして、決して強制的に連れ出すのではなく、あくまでも自主的に来てもらうことが大切です。

 

支援を通して、親にどんな変化がありましたか?

 

多くの親が活動を通して、親としての自信を取り戻しています。ヤングケアラーの親であっても、「悪い親でいたい」と考えている人はいません。ほとんどは「良い親」でいたいのです。ただ、病気や障がいなどが原因でその自信をなくして、自分ではどうすることもできなくなってしまっているのです。
問題を抱えている親であっても、家庭を支える役目があります。
ヤングケアラーの親を支援することは、ヤングケアラーへの支援と同じくらい重要です。親を支援することで、家庭環境が改善し、それがひいてはヤングケアラーの負担を軽減することにつながるのです。

 

  • 山本健人

    国際部 記者

    山本健人

    2015年入局。初任地・鹿児島局を経て現所属。 アメリカ担当として人種差別問題などを中心に幅広く取材。

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