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コロナに感染したからこそ伝えたい~家族5人感染 “退院しても終わりじゃなかった”~

  • 2021年7月1日

東京都内で3世代6人で暮らす40代の男性は、自身も含め家族5人が新型コロナに感染しました。
このうち70代の父親は重症化し、家族が一時は死を覚悟しました。
3か月の入院を経て自宅に戻りましたが、常に酸素の吸入が必要な状態になり、今も生活への影響が続いています。
(首都圏局/記者 浜平夏子)

家族5人が感染 5か月たって

東京都内で70代の両親と40代の夫婦、それに小学生の子ども2人の3世代6人で暮らす家族です。
ことし1月、家族5人が相次いで感染し、過酷な自宅療養の実態について取材に応じてくれました。あれから5か月がたち、改めて話を伺いました。

父親の死も覚悟した

家族で最も深刻な状況だったのは70代の父親です。
ことし1月5日に感染が確認され、3日後に入院しました。
感染前から肺気腫を患っていましたが、入院するときは比較的元気だったといいます。

しかし数日後、容体が悪化しました。

当時のLINEのやりとりです。

父親「医者から経過報告行きます。かなり悪くなっている様だ」
40代の男性「薬は効いてないの?」
母親「今先生から電話ありました」
父親「アビガンは後10日間飲む 部屋かわりました 重症患者用」

40代の男性
「医師から『この数日わからない状態だ』と言われました。たしか金曜日だったんですけど『土日もうだめかな。覚悟しないといけないね。仏壇はリビングのここに置こう』と話をしていました」

父親は人工呼吸器をつけながら治療を受けて一命をとりとめ、3か月ほど入院して自宅に戻りました。

テレビ電話で入院中の父親を励ました

助かってよかった。
ほっとしたのもつかの間、家族には厳しい現実が待っていました。

医療費の負担がボディーブローのように

最初に直面したのは、経済的な負担でした。
父親が退院したときに支払った医療費は、63万円にのぼりました。

新型コロナは国の指定感染症のため、入院などにかかる医療費は全額公費で負担されます。
しかし、父親は陰性と確認されたあとも、肺の機能が元に戻らないことなどから入院を続けたため、その分が自己負担になったということです。

父親は退院しても肺の機能が低下したままでした。
このため、家に戻っても、常に鼻にチューブを装着して酸素を吸入する治療が必要になりました。この治療にひと月に2万3000円かかります。

長期間の入院で体力が落ちたため、リハビリにも3万円。
薬代なども含めると、毎月5万円以上にのぼります。

さらに、体力が落ちた父親が生活しやすいように、自宅のトイレやベッドの周りに手すりを設置しました。介護用のいすも購入して風呂場に置いたため、費用はかさみました。

父親だけでなく、70代の母親と40代の男性自身も定期的な通院をしているため、家計に重くのしかかります。

40代の男性
「医療費の負担がボディーブローのように家計に響いています。コロナの影響に苦しむだけでなく、医療費などの支払いは続くので、そこが不安です」

常に酸素の吸入が必要な生活になった

精神面にも影響 「生きていてもしょうがないと…」

なかなか元どおりにならない生活は、精神面にも影響を及ぼしています。
父親は去年9月まで仕事を続け、趣味のゴルフも楽しんでいました。活動的でしたが、今は携帯用の酸素ボンベを使用して外出するのがやっとだといいます。

70代の父親
「生きていてもしょうがないと思うときがある。出かけるときに酸素ボンベを引きずって歩かないといけない。面倒くさいし、世間の見る目が気になる。マスクをはずしたら鼻にチューブしているんですよ。恥ずかしい」

70代の母親
「お父さんうつっぽいかなと感じます。酸素吸入している人はほかにもいるじゃないって言っていますが、本人はまだ受け入れられないし、いやなんだと思います。感染状況が落ち着けば、酸素ボンベを用意して旅行にも行けたらと思いますが、お父さんが『無理』ってなっているので、どうなるか…」

夜眠れなかった長女 甘えることが増えた長男

コロナに感染した長男と、感染はしていませんでしたが濃厚接触者となった長女は、当時、およそ1か月間、小学校を休みました。

長女は感染しないよう、たった1人部屋で過ごしました。口に出して「つらい」と言わなかったものの、「夜眠れない」と言うのでガラス張りのドアの前で顔をあわせて話をすることもありました。

ガラス張りのドアの前まで出てきた長女

久しぶりに学校に登校したとき、友達に「お帰り!」と声をかけてもらったことがとてもうれしかったということです。

一方、長男は一家団らんができない状態が続いたせいか、甘えることが増えました。

40代の妻
「家族がそろわない状況が長くなり、じいじはいないし、学校ないし。あまりよくないのかもしれませんが、オンラインゲームで友達と会話するのが心のよりどころだったようです。子どもたちにも少なからず負担がかかったかもしれない」

コロナの感染後も続く影響を知ってほしい

父親が早く元のような生活を送れるようになってほしい。
男性と家族の、いまの願いです。

40代の男性
「感染予防対策をしっかりとることが大切ですが、それでも感染してしまう場合があります。感染した場合どうしたらいいか、その後どうなるのかという情報はあまりないように感じます。私は感染して自宅療養中、有給休暇を30日以上使ったので収入があり助かりましたが、今も通院をしていて医療費がかかります。父と母はさらに医療費がかかっています。退院して自宅療養が終わって元どおりの生活になりましたとは、なかなかならない。感染して数か月たってからも、さまざまな影響が出てしまうことを知ってもらいたいと思います」

  • 浜平夏子

    首都圏局 記者

    浜平夏子

    2004年(平成16年)入局。宮崎局、福岡局、さいたま局を経て、2020年から首都圏局。医療取材を担当。 

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