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オーバードーズがやめられない 市販薬を大量摂取する若者たち

  • 2021年7月1日

「つらくてまた飲んでしまう」
「明日から学校。死にたい気持ちをごまかしたい」

いまSNS上では、大量の薬の画像を挙げる若者たちの投稿が相次いでいます。
市販の薬を過剰に摂取することで、精神的苦痛から逃れる「オーバードーズ」に走るとともに、自らの行為を明かしているのです。
時に命を落とす危険性もあるなかで、なぜ彼らは続けるのでしょうか。また、周囲の人たちは、どう対応したらいいのでしょうか。
(首都圏局/ディレクター 有賀菜央)

みなさんの体験やご意見をお寄せください。こちらから投稿できます。

オーバードーズ ある男性のケース

子どもたちの自殺をどうしたら防ぐことができるのか、取材をしていた中で「オーバードーズ」という言葉を知りました。

「オーバードーズ」とは、多幸感を得て精神的な苦痛から逃れようと、医師が処方した薬やドラッグストアで買えるせき止め薬などを大量に摂取することを言います。一方で内臓にも大きな負荷がかかり、機能低下を含めた悪影響が起こる可能性もあるほか、一度依存するとなかなか自身で離脱することは難しくなります。

こうした人たちの一つの大きな特徴は、自らの行為をSNSに投稿するケースが多いことです。
取材を申し込むと、30歳の男性がメールでの回答を条件に応じてくれました。

Q.オーバードーズをはじめたきっかけは?

ことし4月ごろ、妻と口論になったときです。怒りに任せて家にある常備薬を手当たり次第に飲んだのが始まりでした。家族とのトラブルや職場のストレスなど精神的苦痛に耐えられなくなると薬に手が伸びてしまいます。

Q.オーバードーズの知識はどこから得たのか?

SNSでこの自傷行為がオーバードーズと呼ばれていることを他の人の投稿を見て知りました。

男性は、日頃から、もやもやする思いや自殺願望をSNSに投稿しています。投稿した画像には、「いいね」のハートマークが多いときには30以上つきます。

Q. SNSに投稿しようと思った理由は?

最初はリストカットをSNSにあげていましたが、いまいち反応がよくなかった。オーバードーズについて投稿すると、すごく共感を得られたことがうれしくて、飲む量も増していきました。
オーバードーズを通じてすごくフォロワーが増えて、頻繁に交流する友人ができました。お互いに飲んだ量を教え合い、盛り上がるのです。

Q.SNSとオーバードーズの関係は切っても切れない?

共感することが多く、オーバードーズがやめられなくなりました。「その感覚めっちゃ分かります!」など、薬の効き具合や飲み方に共感を得たりするのです。リストカットをしていたときは孤独だったけど、オーバードーズをしているときは誰かと一緒にしている感覚があり、一人寂しく死んでいくわけじゃないと思えます。

SNSには積極的に投稿を続けている一方で、男性はSNS以外で心の苦しみを伝えることはないと言います。

Q.リアルな人間関係の中でオーバードーズをしていることを知っている人はいますか?

SNS以外で知る人はいないと思います。このアカウントは裏アカみたいなもので、誰にも教えていません。身近な人に、変に同情されたりするのが嫌なので。SNSなら、アカウントを消せばそれ以上関わることもありませんし。

Q.オーバードーズはどんな存在ですか?

私にとってオーバードーズは、最後の心の支えです。

リアルが苦しくてSNSのサークルへ

薬物依存の治療に詳しい精神科医の松本俊彦さんは、リアルな人間関係に苦しむ人が、自らを認めてくれるSNSの世界に居場所を見いだすケースも多いと言います。

松本俊彦医師
「現実世界でうまくいかない人たちが、SNSの世界でオーバードーズを繰り返す人のサークルに入る事によって、人とつながる事ができるんです。さらに、より多くたくさん飲む人がその世界のヒエラルキーの中で上にきて、崇められたり尊敬されたりするっていう事態も生じていて、リアルでうまくいかない人たちがそこで評価されて、承認欲求を満たしているところもあると思います。SNSの世界にはまり込んで、問題行動をどんどんエスカレートさせてしまうこともあります」

こうしたオーバードーズは、より若い人たちの間で増え続けています。

薬物依存で治療を受けた10代が何の薬物を使ったのか、その割合を見てみると、7年前の2014年までは危険ドラッグがもっとも高く、市販薬を使用する若者はいませんでした。
しかし、市販薬の割合が年々増加し、去年の調査では半数以上を占めていることが分かりました。

過剰摂取のリスク “一日中頭が支配される”

市販されている薬とはいえ、過剰に摂取することは体に大きな影響を及ぼします。
咳止めや風邪薬には麻薬に似た成分が含まれているものがあり、中には他の薬物と比べて依存性が強いものもあるといいます。

また、市販薬に含まれるカフェインの大量摂取による致死性不整脈や、アセトアミノフェンによる肝不全が原因で亡くなるケースも少なくありません。

オーバードーズによって依存が高まり苦しんだ人もいます。
現在29歳のかおりさん(仮名)は、小学5年生のとき、学校での人間関係に悩んだことがきっかけで、オーバードーズをするようになりました。

かおりさん
「学校とか家で嫌なことがあったり友達とうまくいかなかったり、本当に学校に行きたくないっていうときに飲むと、“今日はいつもの自分とは違うから、一日頑張れそう”って思えました。本当に死のうというよりは、飲んだら何か変わらないかな、この生きづらさが楽にならないかな、そういう感じでした」

その後も、つらいことがあるたびに自宅にある風邪薬や、ドラッグストアで自分で購入した頭痛薬を飲みました。
市販薬は、若いかおりさんでも手に入れることができ、周囲に気付かれることもなかったため、どんどん頻度が増えていきます。

高校生になるころには、何軒もドラッグストアを回って薬を買い求め、おびただしい量を飲むようになっていました。薬を飲まずには一日を過ごせなくなっていたのです。

かおりさん
「飲むと一瞬だけ気持ちが晴れるような感じがするんですけど、そのあとに今までにないくらい落ち込むというか、ひどいうつ症状みたいになります。薬が切れてうつになるのが怖くて、飲むのを止められない。一日じゅう薬に頭が支配されているような感じでした」

●業界の対策は
ドラッグストアを運営する企業が加盟する日本チェーンドラッグストア協会では、オーバードーズへの対策として、風邪薬などの市販薬は1人につき1つしか販売しないという注意書きを全国およそ2万軒の店舗で掲示していています。さらに10代の客に対しては、購入の際に学生証などの提示を求めるようにしていますが、それでも有効な対策につながっていないのが現状です。

子どものオーバードーズに気づいたら

オーバードーズに依存する若者たち。親など、周囲の人が気づいたらどう対応したらいいのでしょうか。
佐藤さん(仮名)夫妻の娘は、中学生のころいじめを理由に不登校になり、オーバードーズに手を出すようになりました。娘のSNSの投稿を見て気づいた佐藤さん夫妻は、オーバードーズをやめるよう何度も娘を説得しましたが、娘は聞く耳を持ちませんでした。

佐藤さん夫婦
「いくら私たちが“間違っている”とか、“SNSで言われていることは違うんだよ”と諭しても、娘はSNSでつながっている人たちの言うことが正しくて、親の言うことはすべて間違っていると思っていたようで、何を言っても聞いてもらえませんでした」

どうにかしてやめさせようと、娘の手元に薬を置かないようにしたところ、その反動で、親が見ていない隙に薬を大量に飲み、病院に搬送されたこともありました。佐藤さん夫婦は誰にも相談できず追い詰められていきました。

佐藤さん夫婦
「気に入らないこととか何か気分の悪いことがあると、親の顔を見るのを避けてずっと部屋にこもってしまう。機嫌を損ねることでひどいオーバードーズをされるのが怖くて、とにかく娘の機嫌をとりながら接していました。その時できることはそれだけでしたね」

そんなとき、出会ったのが、娘が通院していた病院の家族会でした。
それまでは、親が責任を持って指導するべきだと考えていた佐藤さん夫婦。しかし、家族会を支援する専門家からはこうアドバイスされました。

「親子の間に一定の距離を置くこと」

親が協力できる範囲はどこまでかを伝え、娘の行動は本人に責任をとらせることが大切だというのです。夫婦にとっては思いもよらない言葉でした。

それからは、これまでは干渉していたことも口を出さないように努め、言われてもできないことは断る姿勢を見せるようにしました。そうすると、想像以上に娘の機嫌が悪くなる頻度が少なくなり、お互いに気を張らずに過ごす時間が増えていったといいます。

佐藤さん夫婦
「いま思うと娘の気持ちを置き去りにしていました。娘が何を言っても“それは間違っている”とこちらの考えを押しつけていたんです。家族会で“もう一切そういうのをやめてみたら”って言われて、やめたとたんにお互いに本当に楽になった。家族だけで解決しようとせず、第三者に助けを求める。しっかりとした専門家や経験者に相談して、頼ることが大切だと思います」

19歳になった娘は、まだ完全にオーバードーズを止めることはできていませんが、少しずつ家族の関係性を修復しています。

“否定しないで” 相談できる関係性を

オーバードーズをする若者たちとの向き合いかたについて、精神科医の松本俊彦さんは、次のように指摘します。

松本俊彦医師
「やってはいけないのは、“そんなことはやめなさい”と言うことです。それを言われてしまうと、もうそこから話ができなくなってしまいます。市販薬を乱用する子たちは、心の底では”やっぱり分かってもらえないな”っていう主観的な孤立感がすごく強い。これまで相談したり悩みを打ち明けても、説教されたり、根性論や正論をぶつけられるばかりで、意味が無かったと思っています。だから、むしろ急にはオーバードーズをやめられないんだろうな、でも薬が必要となるような何かつらい事情があるんだろうと思って、そこに注目しながら相談できる関係性をつくっていくことが大事だと思います。本人と悩みごとについて話し合える関係を継続しつつ、どこかで“そんなに飲んでると体が心配だな” “1回ちょっと病院に行ってみない?”という形にできれば理想的です」

オーバードーズの先にある若者たちの苦しみ

いま、長引くコロナ禍が若者たちの生きづらさをさらに深刻なものにしています。
去年、国立成育医療研究センターが715人の児童・生徒を対象に行った調査では、1週間のうち「死にたい」「自分を傷つけたい」と思ったことがあると答えたのは、およそ4人に1人。
オーバードーズに至るリスクも高まっている事態に危機感をおぼえます。

オーバードーズをどうやめさせるかではなく、孤立している人たちが抱える苦しみにどう気付き、支えていくか。周囲の人がどう寄り添っていくのかを考えなければならないと感じました。

  • 有賀菜央

    首都圏局 ディレクター

    有賀菜央

    2015年入局 名古屋局、静岡局を経て2019年から首都圏局。 これまで家族問題や不妊治療に関心を持ち取材。

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