「『何もできない』という物理的なことだけでなく、自分が家族を苦しめているという精神的なストレスが大きかったです」
こう話すのはことし1月に新型コロナウイルスに感染し、自宅療養を経験した30代の女性です。
同居する夫への感染を防ぐため神経をすり減らしたという女性の証言です。
(千葉放送局/記者 松尾愛)
都内のマンションで夫と2人で暮らす30代の女性が体調に異変を感じたのはことし1月19日でした。
38度の発熱に加え、強いだるさで布団から起き上がるのも難しくなりました。
「ただ事ではない」と感じたといいます。
病院で処方された薬を飲んでも症状は治まりません。
「骨の痛み」や「味覚・嗅覚の異変」といったこれまで感じたことのない症状も現れました。
女性は「体じゅうの骨がずっと痛くて、それから味覚が薄くなってきたのでコロナだと思った」と振り返ります。
PCR検査を受けて1月23日に感染が判明。
医師の診断では軽症で、保健所からは「自宅療養」と「ホテル療養」、どちらを選択するか聞かれたといいます。
女性はこのとき、体調が悪いなかで荷物をまとめてホテルに移動するのはつらいと感じ、自宅療養を選びました。
女性は「直感的に『2部屋あるので(同居する家族がいても)大丈夫です』と答えてしまったんですけど、あとからちょっと後悔しました」と当時の選択について振り返ります。
自宅療養を選択した女性にとって最も大きな課題となったのは、同居する夫への感染をどう防ぐかでした。インターネットなどで情報収集をしながら、できる限りの対策をとることにしました。
(1)生活する部屋を分ける
夫婦は2LDK・55平米の広さのマンションで、それぞれ生活の拠点を分けることにしました。
女性は玄関近くの寝室を、夫は玄関から離れたリビングを拠点にしました。
女性は必要なものがあれば夫に頼んで持って来てもらい、部屋を出ないようにしました。
(2) 鉢合わせを防ぐ
一方、トイレや洗面所、風呂場、廊下など、一緒に使わざるを得ない場所もあります。
こうした場所での接触を避けるための対策として、女性が寝室を出るときには夫の携帯電話にメールなどで連絡を入れるようにしました。
こうすることで、2人が同じ空間に居合わせることを防ぐことにしました。
(3) 接触による感染を防ぐ工夫
接触による感染のリスクを減らす工夫もしました。
女性はトイレや風呂場のドアノブにひもをくくりつけました。ひもを引っ張って開け閉めできるようにし、ドアノブを通じた接触による感染のリスクを抑えました。
さらに、トイレや洗面所などは消毒を徹底し、トイレの使用後は必ずアルコールで便座などを消毒しました。
(4)食事の受け渡し
食事は夫が調達し、女性の部屋の前に置く方法をとりました。
使い捨ての容器はそのまま捨て、食器を使った場合はそれぞれが自分で洗うことにしたといいます。
自身の体調の変化に不安を感じながら、見えないウイルスを相手に神経をすり減らす生活。
幸い、女性の症状は10日ほどで快方に向かって自宅療養は終わり、夫は感染しなかったということです。女性と夫は同居家族がいるなかでの自宅療養の難しさを感じたといいます。
妻ができるだけ接触しないよう気を遣ってくれました。ただ、ウイルスは目に見えるものではないので対処はしているけれど、どれぐらい有効かわかりませんでした。
『何もできない』という物理的なことだけでなく、自分が家族を苦しめているという精神的なストレスが大きかったです。私がホテルに行けば夫に不自由な思いをさせなかったかなと、後悔しました。自分の中でどういう対策ができるかを考えておくことが必要だと感じました。みなさんにも感染対策に真剣に取り組んでもらいたいです。
厚生労働省によりますと、新型コロナで自宅療養をしている人は6月はじめの時点でも1万8000人以上にのぼっています。
東京都は自宅療養者向けに、何に気をつけるべきかをまとめたハンドブックを作成し、ホームページ上で公開しています。
https://www.fukushihoken.metro.tokyo.lg.jp/iryo/kansen/zitakuryouyouhandbook.html