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「ねずみくんのチョッキ」夫婦で歩んだ絵本の道 最新作に込めた思いとは

  • 2021年6月14日

47年前に一作目の「ねずみくんのチョッキ」が出版され、累計で400万部を超えるベストセラーとなった「ねずみくんの絵本」シリーズは、作者のなかえよしをさんと上野紀子さんの夫婦2人で制作し続けてきました。上野さんは2年前に亡くなりましたが、ことし4月、上野さんが書き残したイラストを元に、37作目の最新作が出版されました。そこには、コロナ禍のいま、子どもたちに伝えたいメッセージが込められていました。

主人公は小さなねずみくん

「ねずみくんのチョッキ」の主人公は赤いチョッキを着た小さなねずみくんです。

一作目では、お母さんに編んでもらったお気に入りのチョッキを、自分より大きな動物たちが代わる代わる着ていって伸びてしまいます。

ねずみくんは落ち込みましたが、最後はチョッキがブランコになるという、ユーモアがある温かいオチが特徴です。

作者のなかえよしをさん(80)は、コロナ禍のいまも精力的に絵本を制作しています。

なかえよしをさん
「自粛で家でみなさんステイホームなんて言っていますけれど、絵本をつくること自体が家にいなきゃできないんで、あんまりそういうことは苦にならない、家にいればいるほど作品ができるような感じがするので、僕にしては楽しい感じがする。だから今はラクチンです」

デザイナーの仕事をしながら絵本制作をはじめて

なかえさんが絵本と関わり始めたのは20代のころです。大学卒業後、広告代理店でデザイナーの仕事をする傍ら、同じ大学の同級生だった妻で画家の上野紀子さんと自費出版で絵本をつくりはじめました。

「ねずみくんのチョッキ」を出版したのは、なかえさんが34歳のときです。
物語の構成や文をなかえさんが担当し、なかえさんがかいたラフ画を元に上野さんが絵を描くというスタイルでした。

なかえよしをさん
「僕がけっこう漫画家志望だったので無茶苦茶なラフを描くんです、そうするとそれを上野は面白がって『このラフがいいのよね』なんて言ってね、その上からまた自分なりにきれいに描き起こしてくれるわけです」

左が上野さん作 右がなかえさん作

「想像力」と「オチ」を大切にして

「ねずみくんの絵本」シリーズの特徴は、大胆な余白と短い文章です。シンプルだと読み手の「想像力」が広がると考えているからです。

動物はどのページでも同じ大きさで描かれている

その一方で、動物たちの表情はとても豊かです。緻密に鉛筆で描かれた上野さんの絵が、子どもたちをひきつけます。

なかえよしをさん
「ねずみくんに関しては、これ以上削ったら文章にならないくらい文章を削っているんですよね。ねずみくんはただギャーっていうだけで、顔の表情とか、そんなので表現できてると思う。すごく余韻があるというか、想像力の塊みたいな絵本ですからね。シンプルだが意外とシンプルではない、頭の中をかきまぜてくれるんじゃないかという気がしますけどもね」

絵本制作のなかで、最も重要なのが、物語の最後にくるオチです。シンプルだからこそ、あっと驚くオチで、こどもたちの予想を裏切りたいと考えています。

なかえよしをさん
「オチから一番離れたストーリーを考えていけばいい、考えるのが一番楽しいですね。24時間絵本の世界にいないとオチに気が付かないですよね、見逃しちゃうわけ、ですから普通の人が見逃しても、僕は頭の中で絵本のオチないかなって思ってますから」

上野さんが残した35冊分のイラスト

こうして40年以上、ねずみくんの絵本を作り続けてきましたが、2年前の2019年、絵を担当した上野さんが病気で亡くなりました。

当時、2人は新たな絵本の制作にとりかかっていましたが、上野さんが亡くなったことで、このまま絵本作りも終わってしまうのかなと考えていたといいます。
しかし、上野さんが残したあるものを見て、なかえさんの思いが変わりました。
それは、上野さんが保存していた、これまでの35冊分のイラストのデータでした。

なかえよしをさん
「パソコンで絵をいじっているうちに、今までの絵をいじれば何かできるかなと思って。今までの動物を右向かすとか左向かすとか、そういうのはパソコンで全部できますんでね。ラフを見ながら今までの絵を使えばできるかもしれないと」

なんとか絵本を完成させたいと、なかえさんは膨大なイラストから、ストーリーに合う絵を探し出したり、必要な小物を上野さんの絵に描き加えたりして新たなイラストを描いていきました。

その中で、生前は気づかなかった上野さんの仕事ぶりを見ることになりました。

なかえよしをさん
「パソコンで上野の絵を拡大してみるわけです。ねずみくんを画面いっぱいに、よくこんなに丁寧に描いていたなと思って。こんないうと涙が出てきちゃうんですけれど、当時はよく見ずに入稿していたから悪かったなあと思って。小さな絵だけれどもものすごい丁寧にひげ一本一本書いてくれていたんでね、頑張って描いてくれたなって今頃思います」

妻亡きあとも続く2人での絵本制作

こうしてつくられたのが、最新作の「ねずみくんのピッピッピクニック」です。

ねずみくんと仲間の動物たちが、一緒にピクニックへ行こうとしますが、お弁当を食べる場所がなかなか決まらないという物語です。

物語の最後、ごはんを食べるのにいい場所があると、ちょうちょうに連れてこられたのは、いつもの公園でした。

桜の幹は上野さんのイラスト、花はなかえさんが描いた

「とおくへいかなくてもたのしいね」
なかえさんは、コロナ禍の子どもたちへ、このひとことを贈りました。

なかえよしをさん
「ねずみくんみたいに隅っこでこちょこちょしていても楽しいことがいっぱいあるっていうことを、ねずみくんのシリーズで毎回言っているつもりです。想像力は目をつぶっていても見えるんです、想像力は人間の最大の武器ですもんね。外に(遠くに)行かなきゃ楽しいことがないというのはあんまり幸せに思えない、幸せはどこにあるって、そんな感じがしますけれどもね」

半世紀近く、上野さんと絵本を紡いできたなかえさんは、遠くに行けない今こそ、絵本の力を信じています。

なかえよしをさん
「絵に描いていないことも想像したり、お母さんがことばを増やして、絵本と関係ないことを付け加えたりですね、いろいろ楽しめると思うんですよね。絵本というのは15見開きしかない本ですけれども、いろんなものが詰まっているような気がしますね。だから絵本は、かえってコロナ禍では活躍してるんじゃないかと思いますし、活躍してほしいです。ねずみくんはいま37冊だけれど、切れ目が悪いので40冊を目指したいですね」

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