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ゴミ捨て場じゃなかった!? 千葉県の加曽利貝塚が伝えるSDGsの精神とは

  • 2021年6月10日

今から5000年前、縄文時代の人々にとって大事な栄養源だったのが貝です。その貝殻の山が「貝塚」ですが、千葉県におよそ2000年利用されたとみられる「日本一の貝塚」があります。
しかも、最近の研究で「SDGs=持続可能な開発目標」に通じる役割を持っていたことがわかってきました。貝塚から見えてくる持続可能な暮らしのヒントとは?
(千葉放送局/喜多賢治 アナウンサー)

圧巻! 2000年分の貝殻の山

千葉市にある「加曽利(かそり)貝塚」は、貝塚として唯一、国の特別史跡に指定されています。
    
加曽利貝塚博物館の学芸員、長原亘さんに案内していただきました。
南北300メートルを超える全国最大級の規模!なのですが…。

喜多アナ

見渡す限り草原で、正直ちょっと地味ですね…。

長原さん

ぱっと見た限りでは何もない場所に感じますが、貝塚のすごさは地下にあるんですよ!

敷地内に、貝塚の一部を当時の姿のまま見学できる施設がありました。

喜多アナ

これが貝塚ですか!私の体が埋まってしまうほど厚さがあります。どれほど貝を食べたらこうなるのか、想像もつかないですね。

長原さん

加曽利貝塚では、およそ2000年にわたって生活が営まれたと考えられています。

喜多アナ

2000年!!

長原さん

その期間の長さも全国一とされていて、「持続可能な暮らし」があった証拠が貝塚なんです。

ゴミ捨て場ではなくリサイクルの拠点だった

貝塚からは、イボキサゴやハマグリなどの貝殻や、動物の骨などがたくさん見つかっています。それが意味するところは、「貝塚は単なるゴミ捨て場ではなかった」ということだそうです。

喜多アナ

縄文時代の人たちも、自分たちのゴミ捨て場が、何千年もあとまで残って研究されるとは思っていなかったでしょうね。

長原さん

貝殻にはカルシウムが豊富なので、まるでタイムカプセルのように、骨や土器などが良い状態で残っています。最近の研究で、単なるゴミ捨て場ではなく「リサイクル」の拠点だったことが注目されているんですよ。

喜多アナ

えっ!私が学校で習ったことと違いますね。

長原さん

そうなんです。我々が子どもの頃は、単なるゴミ捨て場だと習いましたし、狩猟採集社会で移動しながら生活していると考えられてきました。でも、実際に貝塚ができるということは、定住をしないとそれはあり得ない話で、発掘調査を継続的にやってきた中で、少しずつ認識が改まっているのが現状です。

加曽利貝塚のイメージ図

貝殻をセメント代わりに? 縄文リサイクル術

当時の人たちは、貝塚の骨をリサイクルして、釣り針や装飾品に加工していました。博物館では、貝殻をリサイクルした「魚のうろこ取り」なども展示されています。

うろこ取りなどに使われたとみられる貝刃 端がノコギリのようにギザギザしている

さらに近年の研究で、貝殻を意外なものにリサイクルしていたことが明らかになったといいます。
それがこちらです。

喜多アナ

なんだかコンクリートの塊のように見えますね。

長原さん

その通りです。貝殻をセメントのような建築資材に加工して、住居の炉の周りなどを塗装していた跡が見つかったんです。縄文人にとって、貝塚は資源をためておく「倉庫」のような場所でもあったと考えられます。

喜多アナ

さまざまな形で、リサイクルを実践していたわけですね。

また、貝塚の貝を調べたところ、最初のころは貝殻の大きさがバラバラなのに対し、あとの時期になると一定の大きさにそろっていることも、最近の研究で注目されています。

喜多アナ

なぜ一定の大きさなのですか?

長原さん

あまり小さな貝を採り過ぎてしまうと、あとで困ってしまうということに気づいて、大きな貝だけを採るようになった可能性があります。現代でいう「資源管理」にも通じる部分があると言えるかもしれませんね。

喜多アナ

まさにSDGsですね!

加曽利貝塚で実践されていた「共生」

加曽利貝塚で実践されていたとみられる、もう1つのSDGsが「共生」です。
貝塚で見つかった人骨からは、足に障害のある人が集落の一員として生活していたことがうかがえるといいます。

長原さん

いま以上に、1人では生きていけなかった時代ですから、「支えあいの精神」が縄文の暮らしにあったのではないかと考えています。

さらに、人間だけではなく、犬も、骨折したあと、治ってから埋葬されていることがわかっているそうです。

長原さん

犬も、人間も、村の中で共に生きていく、1つの大きな構成要素として存在したと考えていいと思います。

貝塚での「共生」の精神を現代に

貝塚で実践されていた「共生」精神を受け継ごうという動きが、地元で広がっています。

千葉市内の飲食店では、障害のある人たちがスタッフとして働いています。
この店で人気なのが、縄文時代に食べられていたドングリを材料にした「どんぐりクッキー」です。

喜多アナ

おいしい!クリのような優しい甘さが口の中に広がりますね。渋さは全然ないですよ。

2年前にクッキー作りを始めた「加曽利貝塚ともに生きるプロジェクト」の小島嘉子さんは、加曽利貝塚での暮らしのあり方に共感して、活動を始めたといいます。

小島さん

最初は、加曽利貝塚のことは有名な縄文の遺跡ということくらいしか知らなかったんですけど、障害のある人もない人も共に暮らしてきたっていう痕跡があることを知って、とても感銘を受けたんですね。今の時代も、誰もとりこぼさない社会づくりをしていきたいなというところで、加曽利貝塚が私たちに良いヒントを与えてくれるんじゃないかなって思っています。

どんぐりクッキーは、貝塚の地元にある13の福祉作業所で作られています。地域の人たちと障害のある人たちが力を合わせてクッキーを作っていて、活動の輪が広がっています。

小島さん

2000年も続いた加曽利貝塚での支えあう暮らしをヒントに、どんな立場の人も生き生きと暮らせる地域を目指して活動していきたいです。

貝塚が伝えるSDGsの精神。
持続可能な暮らしのヒントは、縄文の暮らしにもあるかもしれないと感じました。

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