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生理中のプール授業を考える “見学なら炎天下で筋トレ”の声も

  • 2021年6月9日

20年前、中学生だった私は、プールの授業がとても憂鬱でした。
なぜなら「プールの中では水圧がかかって経血は出ないので、見学の必要はない。生理中でも出席するように」と指導されていたからです。
取材をしてみると、今も「生理中でもプールに入るよう指示された」という声が。学校の指導基準はどうなっているのか?調べてみました。
(首都圏局/ディレクター 木村桜子)

“生理4日目から入りなさい” 指導された生徒

生理中のプール授業についてネットで調べてみると、SNSでもさまざまな声が上がっていました。

生理でプールに入れなかった子どもが、放課後居残りで校庭を走らされた。
見学をするためには生理何日目か申告が必要だった。
タンポンをつけて入れと言われた。

今も生理中のプール授業のあり方に疑問を感じている人は少なくないようです。

そのうちの一人、埼玉県内の高校に通う鈴木さやかさん(仮名・高2)が話を聞かせてくれました。
中学生の時、体育の女性教師から「生理4日目以降は経血量が少ないから、プール授業に参加しなさい」と指導されたといいます。

生理中でもふだん通りの水着で泳ぐことになっており、着替えにも特段の配慮はなかったそうです。タンポンを使ったこともなく、水着に着替える直前までナプキンをつけておくことしか対策のしようがなかったといいます。

プールサイドで体操をするときには、水着から漏れてこないか、不安で仕方がありませんでした。クラスメートに見られたらどうしよう。心配になった鈴木さんは保護者に相談。生理中はプール授業を見学したいと申し出ました。すると…。

中学生のころの鈴木さん(中央)

鈴木さん(仮名)
「先生からは『生理はつらいかもしれないけれど、病気じゃない。4日目以降は経血も少ないから、プールには入れる。参加しなければ成績にも影響するよ』と言われたんです。友人の中には、“成績を悪くつけられるのが心配”と無理をして泳ぐ子もいました」

さらに、鈴木さんがつらかったと話すのは、見学者が行わなければいけない課題です。
炎天下のプールサイドで、筋トレをするよう指示されたといいます。
課された筋トレは、腹筋・背筋・腕立て伏せを各20回×3セット。暑さや生理中の体調不良でふらふらになりながらも、プール見学が成績に影響しないよう必死にこなしたといいます。

しかし…。

鈴木さん
「ペーパーテストでは高得点をとったのに、通知表では保健体育の成績は思ったほどよくありませんでした。もしかしたら、生理中のプール見学が影響したのかもしれません。
当時は、自分の成績を握っている先生に“生理中の体調に配慮したルールに変えてほしい”ということは怖くてできませんでした。
生理中の経血の量や体調は、人それぞれのはずです。プールに入れないという生徒に強制するのはおかしいと思います」

“生理中のプール授業” 学習指導要領に記載なし

生理中のプールについて、学校での指導基準はどうなっているのでしょうか。

中学・高校の学習指導要領の水泳「健康・安全」についての項目をみると

「体調の変化に応じてとるべき行動や、自己の体力の程度・体調や環境の変化に応じてけが等を回避するための適正な運動量や取るべき行動を認識し、念頭に置いて活動することで、健康・安全を確保することにつながることを理解し、取り組めるようにする」(高校)

「自己の体力や技能の程度に見合った運動量で練習をすることを示している。そのため、体調に異常を感じたら運動を中止すること」(中学)

体調を考慮すべきと書いてはあるものの、「生理」や「月経」という記述はありませんでした。

水泳授業を管轄しているのはスポーツ庁です。担当者に尋ねると、学習指導要領には月経中のプール指導について記載はないものの、各都道府県の教育委員会に配布している「学校における水泳事故防止必携(2018年度版)」には記載があると教えてくれました。その内容を見てみます。

「これまで女子の月経中の水泳については、禁止する傾向が強かったが、最近では水泳によって月経に伴う諸症状が悪化することはないと考えられている。したがって、月経に伴う個々の症状によって適否を判断し、全面的に禁止するのではなく、症状によっては積極的に参加するような指導が大切である。また、月経中の水泳の心得については、事前に、保護者、保健体育担当教諭、養護教諭、学級担任及び学校医等と連携を図りながら指導しておく。
なお、健康相談等の内容については、プライバシーにかかわることなので取扱いに十分注意する必要がある」
(Ⅲ 水泳の安全管理「指導者の心得」より)

スポーツ庁政策課 学校体育室の担当者
「月経中に泳がせるかどうかの判断・指導は、各自治体の学校単位で任せている状況です。
国としては、この必携をもって「月経だから水泳を休みなさい」とも「月経でもプールに入
りなさい」とも言わない立場です。
生徒が嫌がっているのに無理に泳がせたり、成績に影響するから泳ぎなさいというような
指導をしているのであれば、問題だと思います」

指導内容については学校に委ねられていることがわかりました。しかし、生理中にプールに入る子どもたちにとってもう一つ大きな問題があります。経血が漏れることや、それを人に見られてしまうことへの不安です。

私も中学生のころ、友人の水着から経血が漏れているのを見たことがあります。そのときは女子生徒の数人で慌ててプールの水をかけて流し、タオルを巻いて更衣室に連れて行きました。友人がとても動揺していたことを今も覚えています。

水着への着替えをどうするかや、授業中にトラブルが起きた際の対応が考えられていないことは、子どもたちにとって過酷なことだと思います。

中学生のころの筆者

専門家は “子どもに寄り添わない学校のルールは人権侵害”

校則の問題に詳しい名古屋大学大学院の内田良准教授は「生理に対する教育現場の理解にばらつきがあり、生徒にきめ細かく対応できていないことが問題だ」と指摘します。

内田准教授
「学校現場では、『生理で見学すること=生徒個人のわがまま』だと捉えられがちです。
ルールが画一的で、なおかつ教師の生理に対する理解にもばらつきがあるため、『生理は病気ではないから参加しなさい』『プールに入れないならグラウンドを走りなさい』など個人を抑圧する指導が行われてしまっています。
子どもが性的に成長することに十分配慮したルールづくりや、『子どもの気持ちに寄り添わない校則は人権侵害である』という意識を学校側が持つべきです」

生理中のプール授業については、引き続き取材して専門家とともに考えていきます。
ぜひこの問題に対しての体験談やご意見をお寄せください。

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  • 木村桜子

    首都圏局 ディレクター

    木村桜子

    2012年入局。大阪局、神戸局などを経て2020年から首都圏局。保育や教育、ジェンダーの問題に関心を持ち取材中。

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