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国の支援策 どう見た?(1)元ヤングケアラーの男性は

  • 2021年6月8日

国はヤングケアラーをめぐり、5月、学校や地域などで早期に把握して支援につなげる体制を強化することなどを盛り込んだ支援策を報告書にまとめました。この支援策について、9歳から38歳になるまで祖母と母親の介護を担った元ヤングケアラーの男性に、どのように受け止めているか聞いてみました。
(さいたま放送局/記者 大西咲)

9歳から30年近く介護を担った男性

今回話を聞いたのは、9歳から38歳になるまで、祖母と母親の介護を担ったカズヤさん(仮名・42歳)です。

カズヤさんについての記事はこちらから

それぞれのヤングケアラーの事情に理解を

大西記者

国の支援策が発表されたことについて、率直にどのように感じましたか?

カズヤさん

純粋にうれしかったです。現役のヤングケアラーの子どもたちに支援が届くのであれば、とてもうれしいと感じました。一方で、もちろんもっと早くにこうした支援があれば、もっと救われる子どもたちがいたのになという残念な気持ちもあります。

 

国は、ヤングケアラーへの理解を促進するため、子どもと接する時間が長く、日々の変化に気付きやすい教職員や、家族の介護に関わるケアマネージャーなど、教育と福祉現場の関係者を対象に研修を行うことを決めました。

 

ヤングケアラーと一口に言っても、それぞれの事情は異なっています。私は、祖母と母の介護をしましたが、祖父母の介護や精神疾患の家族をケアする子どもたちもいます。また、それぞれの子どもたちがふだん感じていることが異なるということは、当事者が集まる会に参加して、私自身も初めて知りましたので、支援に関わる方の理解が研修を通して深まるといいと思います。

相談したい時に相談できる場があることで安心感に

 

これまでヤングケアラーの子どもたちが相談できる公的な専用窓口はありませんでしたが、支援策では、相談体制を強化しようと、過去にヤングケアラーだった人たちが対面やSNSで相談に乗る事業を始めることにしています。

 

元ヤングケアラーだからこそ、当事者の気持ちや苦しいこともわかる部分があると思います。私は介護を終えてから、自分の経験を初めて語りましたが、同じ立場だった人たちに共感してもらえたことで、気持ちがとても楽になりました。相談しなければならないわけではありませんが、「相談したい」と思った時に相談できる場があること、そして相談相手がヤングケアラーの経験がある人だと安心できると思います。私も力になれるのであれば、やりたいと思います。

 

学校で子どもたちがヤングケアラーかもしれないと気付いた際に必要な支援先につなげられるよう、支援策では、学校にスクールソーシャルワーカーやカウンセラーを配置できるよう支援することにしています。

 

ヤングケアラーを見つけ出すためには、日頃からのコミュニケーションが大切だと思うので、相談に乗るだけではなく、一緒に遊んだり、雑談をしたりする中で、本音が出てくることもあると思います。相談先の人を配置したから、それで終わりではなく、その先の関わり方が何より大事で、スクールソーシャルワーカーやカウンセラーの方たちには、おせっかいでもよいので、積極的に関わってもらえたらと思います。

ヤングケアラーが自分の生活に余裕が持てるように

 

ヤングケアラーのいる家庭には、子どもが介護やケアを担うことを前提とせず、在宅向けの介護サービスを提供することを十分に検討するよう、国は自治体などに周知するとしています。

 

私はこれが一番大事だと思っていて、積極的に進めていってほしいです。子どもたちに少しでも自分の時間ができると、自分の生活に余裕がもてるようになります。そして、学校のことなどにもう少し集中できるようにもなります。自治体に周知するだけではなく、国が先頭に立って、大きな仕組み作りを進めてほしいです。

 

支援を進めていく上で、気をつけてほしいことやお願いしたいことはありますか?

 

自分自身もそうでしたが、家事の負担や介護について、相談するという発想自体無かったので、SOSを出せない子どもたちもたくさんいると思います。ただ、学校を休みがちになる、お風呂に入れていない、着ている服が毎日同じといったようなサインがたくさん出ているかもしれません。1人1人の子どもたちの変化をよく見て、気付いたらすぐに声をかけてあげてほしいと思います。

家庭の環境で、夢を諦めずに済む社会を

 

支援が広がっていくことで、どんな社会になっていってほしいと思いますか?

 

ヤングケアラーについて注目が集まりうれしいのですが、支援が一時的なブームに陥ることなく、制度として定着するようになってほしいと思います。家事や介護に追われ、本当に苦しかった頃は、自分自身、体調を崩すこともありましたので、本人が体調を壊して生活が立ちゆかなくなるようなことが起きないように、1日でも早く、できることから支援を始めてほしいと思います。子どもたちが生まれた家庭の環境によって、自分のしたいことや夢を諦めずに済む社会になってほしいです。

NHKではこれからも、ヤングケアラーについて皆さまから寄せられた疑問について、一緒に考え、できる限り答えていきたいと思っています。 ヤングケアラーについて少しでも疑問に感じていることや、ご意見がありましたら、自由記述欄に投稿をお願いします。

疑問やご意見はこちらから

  • 大西咲

    さいたま放送局 記者

    大西咲

    2014年入局 熊本局、福岡局を経て去年夏から現所属。 介護福祉分野を6年取材。

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