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消防の働き方改革 “日勤救急隊”~育児しながら救急救命士を続けたい~

  • 2021年5月24日

24時間体制で私たちの命を守ってくれる消防ですが、女性隊員を見かけたことはありますか?実は消防は女性職員の割合がわずか2.9%で(※消防庁H31年4月現在)、国は女性職員の割合を5年後までに5%にする目標を掲げています。そうした中で、群馬県高崎市などを管轄する消防では、女性隊員が出産後も働き続けられるようにしようと、「日勤救急隊」を作りました。
(前橋放送局/記者 岩澤歩加)

新潟県中越地震で消防隊員の救助活動を見て

高崎市などを管轄する高崎市等広域消防局で救急救命士として働く美澤幸恵さん(31)です。

去年4月に出産し、1歳の男の子を育てています。ことし5月、育児休暇から1年4か月ぶり職場に復帰しました。

美澤さんは、中学生のときに経験した新潟県中越地震で、消防隊員の救助活動を目の当たりにし、将来、消防で働きたいと思うようになりました。

2004年10月 新潟県中越地震で救出活動にあたる消防隊員

しかし、消防士は男性の採用が大半でした。
そこで美澤さんは、救急車に乗って現場に駆けつけ、けが人や病気の人の応急処置などをする救急救命士になろうと決意します。大学に進学し、資格を取得しました。

「市民の命を守る」
仕事への誇りを持って、現場に出動してきました。

下の列の中央が美澤さん

24時間体制の勤務 救急救命士116人中女性は9人

しかし、救急隊員の勤務体系はハードです。
24時間体制の「隔日勤務」が一般的で、仮眠を挟んで朝8時半から翌日の朝8時半まで働き、次の日は1日休むというシフトを繰り返します。土日祝日もあまり関係ありません。1日に多いときには10回、現場に出動することもあります。

この消防局の救急救命士は116人、そのうち女性は美澤さんを含め9人です。
出産を機に現場を離れてしまう隊員がいるなか、美澤さんは仕事を続けたいとの思いを強く持っていました。

夫も救急救命士 子どもは1歳 両立への不安

しかし、夫も別の消防に勤務する救急救命士です。まだ子どもは1歳になったばかりで、体調を崩すなど、スケジュール通りにいかないこともしばしばです。
夫婦でお互いに仕事を調整しながら子育てと仕事を両立していくことができるのか、復帰前の4月は不安を感じていました。

美澤幸恵さん
「子どもが突然、体調悪くなることがあると思うので、そういうときにやっぱり現場に出る救急隊になると、突然お休みというのがなかなか難しい。それに夫も私も『隔日勤務』だと、夜中2人がいないことが必ずあり、そういったときは夫の両親に預かってもらわなければならず、夜に自分で子どもの面倒をみられないという不安はありました」

「日勤救急隊」女性が働きやすい職場へ

消防にとっても、女性隊員が出産を機にやめていくケースも多く、いかに働き続けられる環境を作っていくかが課題になっていました。

そうした中、高崎市等広域消防局では、育児をする女性隊員も働き続けることができるよう、新しく女性中心のチームを立ち上げることにしました。それが、「日勤救急隊」です。

平日の朝8時半から午後5時15分までの勤務で、隊長を女性が務め、隊員は子育て中の女性などに加え、一度退職した再任用の職員によって構成されています。

ことし6月からの本格的な運用を目指し、美澤さんは日勤救急隊に所属することになったのです。

美澤幸恵さん
「日勤で働けるなら子どもにも家族にも負担が少ないので、ありがたいです。私が日勤で毎日家に帰れるので、夫がいない日でもしっかり子どもの世話ができるので、働きやすいなと思います」

日勤救急隊 多くのメリットも

日勤救急隊の導入によって、多くのメリットがあります。

▼メリット(1) 多様な人材の登用
日勤救急隊は4人で編成されていて、女性の隊長と美澤さん、それに定年してから再任用されたベテラン男性隊員2人が所属しています。

▼メリット(2) 日中の時間帯の業務軽減
高崎市等広域消防局の管内では10年前に比べて、日中の救急出動は去年1年間で1万件余り。高齢化の影響で10年前に比べ、およそ20%増えています。日勤救急隊が主に日中の対応をすることで、他の隊員の業務の軽減にもつながります。

▼メリット(3) 女性隊員“より安心”

救急で対応する患者の7~8割は高齢者や女性です。女性隊員がいることで、搬送される女性などから、より安心するといった声も多くあるということです。

日勤救急隊 伊藤真吏佳隊長
「現場では男性隊員にはなかなか話しづらいということを女性隊員には話しやすいという声も多くもらっています。育児休暇明けの職員とか、これから介護が必要な職員など、泊まりの勤務が難しいという職員が出てきた時、日勤救急隊は、非常に効果を発揮すると思っています。働き方の選択肢が広がるという部分で、日勤救急隊は期待されています」

サポート体制も充実

日勤救急隊では、子どもの発熱など急な欠勤にも対応できるよう人員を増やすなどサポート体制も充実させました。定時より1時間早く帰ることができる制度も活用してもらい、救急隊全体で支援していきたいと考えています。

伊藤隊長

不安は何かあるかな?

美澤さん

夜間、活動できない時間帯の救急出動の体制はどうなるのかなというのがわかっていないのですが…

伊藤隊長

救命士なのでどの人が乗っても、全然大丈夫なような体制は組んであるので大丈夫。お子さんが突発的に風邪引いちゃったとか、仕事中でも、熱とかがいつ出たりするかは分からないので、そういうときでも、みんなでその都度その都度、柔軟に対応していくんで、その辺は心配しなくても大丈夫です

美澤さん

ありがとうございます

伊藤隊長

申し訳ないとかそういうのは思わないようにね。体力維持と子育て、仕事と家庭の両立を目指して頑張っていきましょう

美澤幸恵さん
「現場で女性がいると安心すると言われたときに、子どもがいてもこのまま仕事を続けたいという気持ちが強くなりました。子育てを経験して、子どもの救急の時の親の気持ち、例えば慌ててしまう気持ちが私も分かるので、出動した際に、気持ちに寄り添えるような救急隊になりたいと思っています」

取材後記

消防ほどではありませんが、記者の職場も、以前より女性が増えてきたとはいえ、まだまだ男性中心なのが現状です。この取材の中で、私自身も「将来子どもを産んだら、今の働き方のまま仕事を続けつつ、育児と両立できるだろうか」と何度も考えさせられました。「女性活躍」と言われ続けていますが、いまだにどちらかを諦めざるを得ない女性は、残念ながらまだまだいるのだろうなと思います。

高崎市等広域消防局では、日勤救急隊を子育て中の女性隊員のほかにも、介護などを抱える職員などにも広げていくということです。

消防に限らず、さまざまな職種で、多様な働き方を可能にする取り組みが広がっていってほしいと思います。

  • 岩澤歩加

    前橋放送局 記者

    岩澤歩加

    2020年入局 警察・司法担当 火災現場や家畜盗難事件などを取材

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