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大田区の町工場 “仲間まわし”でコロナ禍ならではの新製品開発

  • 2021年5月16日

エレベーターのボタンなどに直接触れずに操作できるタッチレスツール、足踏み式の消毒液ポンプ…。厳しいコロナ禍でも、世の中のニーズを捉えて次々と新製品を生み出し、生き残りを目指している地域があります。ものづくりの街、東京・大田区の町工場です。新製品開発のカギは“仲間まわし”という独特の文化でした。
アナウンス室 比田 美仁

“仲間まわし”が可能にする製品化

大田区にある創業60年という金属加工会社が開発したタッチレスツールです。エレベーターのボタンやドアノブなどに直接触れずに操作できる道具です。

去年7月に販売を開始しましたが、製品化にかかった期間は、発想からわずか2か月でした。

なぜ、そんなに早く製品ができたのか、この会社で社長を務める渡辺美仁さんに尋ねると、「”仲間まわし”があるからですよ」と教えてくれました。

“仲間まわし”とは一体何なのでしょうか?
実際に見せてもらいました。

タッチレスツールを作るには、まず渡辺さんの会社で材料のアルミ板を金型で打ち抜きます。

打ち抜いた素材を持って社長の渡辺美仁さんが向かったのは、樹脂加工を手掛ける会社です。

こちらでアルミの素材にやわらかい樹脂をコーティングしていきます。

つまり、“仲間まわし”とは、自社が持たない技術を知り合いの会社に補ってもらうという、独自の文化のことだったのです。

自転車でも行き来できる距離の“仲間”と話をしてすぐに試作したり、改善点を話し合ったりできるという距離感が、規模は小さくともスピード感のあるモノづくりを支えていました。

手書きスケッチもとに“仲間まわし”で製品に

こうした“仲間まわし”で生まれた新製品の中で、現在、特許を申請しているのが、一人暮らしの部屋でも使える懸垂器です。

床と天井を”突っ張り棒”の原理で支える斬新なアイデアで、これまでにない省スペースを実現しました。コロナ禍での巣ごもりもあって、一人暮らしの男性を中心に人気を集め、すでに250台が売れました。

床と天井を”突っ張り棒”の原理で支える

この懸垂器を企画したのが、小熊將太さん(31)です。自らの趣味も筋トレで、2年前に大田区で健康器具の企画・販売を手掛ける会社を立ち上げました。

小熊さんのオフィスは、古い民家の1階にあります。中はパソコンが置いてあるデスクワークスペースのほか、がらんとした物置のみです。工場を持たず、企画・販売に特化したビジネスモデルです。

起業当初は中国で足踏み式の運動器具などを製造していましたが、わずか半年で新型コロナウイルスの感染拡大の影響を受け、製造はストップし、行き来すらできなくなってしまいました。

そうしたなか、小熊さんは多くの人の生活が変わったコロナ禍ならではの、新製品のアイデアが思い浮かびます。

「コロナ禍で自宅で過ごす時間が増え、筋トレ器具のニーズがあるのではないか」

しかし、健康器具は場所をとるものが多く、一人暮らしで狭い部屋に住む人はなかなか買う決断ができません。そこで小熊さんは、床と天井で支えるこれまでにない発想で大幅な省スペースを実現できないかと考えたのです。

小熊さんは手書きのスケッチをもとに、大田区内の中小企業を回って、アイデアをカタチにできないか交渉することにしました。

小熊さんのスケッチ

その中で知り合ったのが、大田区で半世紀以上の歴史がある町工場の4代目の社長・玉川大輔さん(42)でした。

玉川さんは、小熊さんの話を聞いたときのことを「すごい熱意を感じたのと、商品のコンセプトがしっかりしていたので力になれると思った」と振り返ります。

小熊さんは玉川さんと話し合いを重ね、アイデアを少しずつ設計図に落とし込んでいきました。そしてできたのがこちらの試作1号機です。小熊さんの自宅に設置して安定感などを確かめました。

試作1号機

玉川さんの会社は金属パイプを100分の1mm単位で加工できる高い技術力を持っています。この加工ができるのは都内に2社しかないそうです。

この技術こそが、小熊さんのアイデアをカタチにするのに欠かせなかったのです。小熊さんの懸垂器のコンパクトな作りを可能にした、床と天井の突っ張りになる柱。この”柱”の部分は3つのパイプを重なり合わせてスライドさせ、長さを調整する仕組みになっています。

3つのパイプを重ねて長さを調整

このパイプが互いに密着しないと懸垂器に欠かせない安定感がなくなってしまいます。玉川さんはパイプの塗装の厚みまで計算して、密着しつつも、スムーズにスライドするパイプを作り上げたのです。

玉川パイプ 玉川大輔社長
「タッグを組んで、1つのものを仕上げていったほうがスピード感もありますし、余計な投資をする必要もないというふうに思いますので、そういった意味で“仲間まわし”というのは非常に魅力的だなって」

TEDDY WORKS 小熊將太さん
「町工場の方と一緒にものづくりをすることで、頭の中でずっと考えているよりも早く、アイデアとしてプラスになっていきます。たくさんの町工場の方を巻き込んで新しい価値ある商品を作っていくっていうのが僕のやりたいことです」

小熊さんと玉川さんは、”町工場企画第2弾”となる新たなトレーニング機器をすでに開発しているということです。大田区の中小企業は”仲間まわし”でポストコロナを見据えて前を向いています。

  • 比田美仁

    アナウンサー

    比田美仁

    2003年入局。名古屋局などで経済を中心に取材。趣味は野球観戦と昆虫採集。

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