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  • 2021年5月12日

SOSが出せないヤングケアラー そのわけは?

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このイラストは、元ヤングケアラーだった女性が描いたものです。ヤングケアラーについては、放送やネットの記事で取り上げるたび、さまざまな疑問の声をお寄せいただいています。そうした疑問に、取材した記者や専門家を通じて少しずつ答えていきたいと思います。 
今回は「どうして本人たちは誰かに相談しないの?」という疑問について、取材に当たっているさいたま放送局の大西咲記者に聞きました。

「当たり前」だと思い 相談できることだと認識できず

Q ヤングケアラーは精神的にも体力的にもかなりの負担を感じているように思いますが、誰かに相談するのは難しいのでしょうか?

ヤングケアラーの多くは、幼い頃から家事や家族の介護を担うことが日常となっていて、そうした生活が「当たり前」だと思っています。このため、誰かに助けてもらえるということに気づかず、介護の悩み、自分の生活への影響を、誰かに相談できることだと、そもそも認識していないケースが多く見られます。

 

Q 学校などで、周りの友だちと自分の生活の違いに気づくことはないのですか?

小学生といった幼いヤングケアラーの場合、自分の家庭が周りとは違う状況にあると気づくのは非常に難しいのが実情です。実際に取材した、かつてヤングケアラーだった男性は、中学生の頃まで、同級生も学校から帰ったあとは、家事や親の介護をしていると思っていたと話していました。中学、高校と年を重ねていく中で、少しずつ自分の家庭環境が周りと違うということに気づいたそうです。

自分の気持ちを自然と抑え込んでしまう傾向

Q 幼くしてヤングケアラーになった人にはどのような傾向があるのでしょうか?

専門家に聞くと、幼少期から家族の介護を始めた子どもたちは、「家族に元気になってほしい、喜んでもらいたい、役に立ちたい」という気持ちで長く介護にあたるため、どんなに精神的・体力的に負担を感じても、自分の気持ちを自然と抑え込んでしまう傾向があるということです。また、お互いの精神的なつながりが深くなっているため、介護を負担に感じていることを誰かに言うことで、家族を傷つけてしまうのではないかと考えるといいます。

 

Q 高校生くらいで介護やケアを始めた子どもたちは、どうなのでしょうか?

そのくらいの年になると、ほかの家庭との違いに気づき違和感を覚え、誰かに助けを求めるという発想を持てる子どもたちもいます。一方で、大人と違い、誰に相談したらいいのか、連絡先はどこなのかといったことを十分に知らないため、支援につながらないケースの方が多いのが現状です。また、取材した高校生から祖父母の介護を始めた女性は、「誰かに相談しようと考えた時もあったが、毎日の介護をこなすことに精いっぱいで、精神的な余裕が無くなり、何も考えられなくなってしまった」と話していました。

“学校は家庭の相談をすべき場所ではない”

Q 友だちや先生に相談するケースはないのですか?

子どもたちの多くは、学校は勉強をする場所で、家庭の相談をすべき場所ではないと考えているといいます。かつてヤングケアラーだった人たちが口をそろえて言うのは「家のことを学校に持ち込みたくなかった」ということばです。介護のある生活がつらくても、友だちの前では元気にふるまい、普通に接したいとも話します。このため周りから見ると、介護の生活に追われているようには見えず、学校を休んだり学習に遅れが出たりしないかぎり、先生たちも気づきにくいのです。

 

Q 本人たちがSOSを出さないと、周りは気づくことが難しいのが現状なんですね。

取材した中には、学習支援を行っているNPOが、精神疾患の母親と、母親の介護をする子どもの2人暮らしの家庭に訪問した際、憔悴した状態の2人を見つけ、ようやく支援につながったというケースもありました。一部の地域では、行政が積極的にヤングケアラーを見つけ出す取り組みを始めたところもありますが、多くのケースでは、子どもたちが精神的・体力的に限界を超えて体調を崩すなどして初めて、支援につながるというのが現状です。

子どもたちのサインを見逃さないことが重要

Q 大人たちや社会が、ヤングケアラーを見つけ出すことが重要なんですね。

そのとおりです。ただ、子どもたちの心情に寄り添い、慎重に手を差し伸べる必要があります。子どもたちの中には、支援を受けることで、より自分の負担が増えるのではないかと、不安に感じるケースもあるからです。専門家は「相談したい子どももいれば、隠しておきたい子どもたちもいる。きょうは言いたくなかったけれど、あすは言いたくなるかもしれない。個々の事情を見極めながら、子どもたちのサインを見逃さないことが大事だ」と話しています。

 

Q 私たちに何かできることはありますか?

ヤングケアラーは「クラスに1人」という割合でいるとされ、決して遠い存在ではありません。スーパーで子どもが1人で抱えきれないような食材の買い出しをしていたら、その子どもはもしかしたらヤングケアラーかもしれません。また、かつてヤングケアラーだった人たちの多くは「相談できる人が誰か1人でもいればよかった」と振り返っていて、今も相談したいと思っているヤングケアラーがいるかもしれません。ヤングケアラーが相談したい時に相談できる環境が必要だと思います。

 

記事冒頭のイラストは、本人も元ヤングケアラーだった、チアキさんによるものです。チアキさんは、ヤングケアラー向けの情報発信を行う団体「ぷるすあるは」で活動を続けています。

NPO法人ぷるすあるは「ヤングケアラーのみなさんへ」のページhttps://kidsinfost.net/2020/09/19/carer-2/

NHKではこれからも、ヤングケアラーについて皆さまから寄せられた疑問について、一緒に考え、できる限り答えていきたいと思っています。 
ヤングケアラーについて少しでも疑問に感じていることや、ご意見がありましたら、自由記述欄に投稿をお願いします。 
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