WEBリポート
  1. NHK
  2. 首都圏ナビ
  3. WEBリポート
  4. “SDGs × eスポーツ” ゲームで環境問題を攻略する兄弟の挑戦

“SDGs × eスポーツ” ゲームで環境問題を攻略する兄弟の挑戦

  • 2021年5月7日

対戦型のゲームを競技として行う「eスポーツ」。オリンピック競技種目にも検討されるなど、世界中で注目を集めています。このeスポーツを通して環境問題を楽しく伝えようというイベントが4月中旬、横浜で開催されました。
立役者となったのは、ゲームに熱中しながら育った兄弟です。兄が難病を患ったことで、兄弟にとってゲームは単なる遊びから、社会とつながり、環境問題を“攻略”する希望のツールに変わりました。
(首都圏局/ディレクター 関根幸千代)

生きる希望を与えてくれたゲーム 

「幼稚園のころにはゲームに夢中になっていました」と語るのは、高木伸夫さん(33)、光治さん(26)兄弟です。
両親を含め、家族全員が各自のゲーム機をもつほどのゲーム一家。2人にとって、物心ついたときから、ゲームは大切なコミュニケーションツールとして存在していたといいます。そのゲームが、さらに“生きる希望”となったのには理由がありました。

兄の伸夫さんが、18歳の時に「線維筋痛症」という難病を発症したのです。慢性的に全身に痛みが伴う原因不明の病気です。当初は病名もわからず、横になりながら、死への恐怖と戦う日々を過ごしていました。そんな中で、家にいながらでもできるゲームは、伸夫さんの救いとなりました。

伸夫さん
「明日がみえない状態がやっぱり一番辛い。ゲームで気持ちが少しでも楽になったり、集中してたりすると紛れるんで。ちょっと心に余裕ができて、その余裕が出てくると、ちょっと希望が持てるようになったりとか。そういうのはすごい大事だと思いますね。ゲームってありがたいなと思いますね」

世界チャンピオンになって気づいた“自分にもやれること”  

闘病生活が始まってから半年、症状は体が動かせる程度には落ち着いてきました。
そこで伸夫さんは「生きた爪痕を残したい」とカーレースゲームのオンライン世界大会に挑戦します。そして、各国の競合プレイヤーが名を連ねる中、見事初優勝を果たしたのです。

その後、通算6回の優勝を成し遂げ、プロゲーマー「NOBUO」としての活躍が始まります。
ファンからの、「伸夫さんのプレイは見ているだけで楽しい」という言葉に、病気の自分にもやれることがあると感じるようになりました。

さらに、3年ほど前には、自身の病気をカミングアウト。すると、自分も病気や悩みを抱えていると打ち明けるファンが数多くあらわれました。

伸夫さん
「人に元気を与えられるかどうかってやっぱり大事だと思うんで。今の僕にできるのはそれかなと。病気で苦しんでいることを家族だったり、色んな人に伝えていって。そこから諦めない姿を伝えていけたらなと思います」

“兄不幸”はしたくない 脱サラしてともにゲームの世界へ

伸夫さんが病に倒れたとき、弟の光治さんは中学生でした。
それまで光治さんにとって、伸夫さんは楽しい時間を与えてくれる唯一無二の存在でした。家で友達とゲームをするときも、友達の家にゲームをしに行くときも、伸夫さんはいつも光治さんを仲間に入れてくれました。厳しい闘病生活を送る伸夫さんの姿を見ながら、いつか力になりたいと思い続けて光治さんは成長しました。

大学卒業後、光治さんは商社で働いていましたが、1年ほど前、伸夫さんから「一緒にゲームの仕事をしていかないか」と誘われた時には、二つ返事で応じました。

光治さん
「兄を支えないって、親不孝というか、兄不幸だなって思って。兄から一緒にやろうといわれた時に、そういう風に言ってもらえるなら信頼されているということだし、必要とされているんだと思ったから、すぐにサラリーマンを辞めて、兄とゲームで事業をはじめようと思いました。迷いはなかったです」

2人はまず、自宅の一室をスタジオ化し、兄弟の動画チャンネルをはじめました。
自ら対戦ゲームをプレイしながら、その様子を実況するゲーム実況動画をアップします。生配信は木曜日の夜8時から。伸夫さんの体調がすぐれず、参加できない時も、光治さんが毎週コンスタントに配信を続けることで活躍の場を守っています。

社会問題も ゲームで攻略!? 環境問題とのコラボイベント初開催

ゲームに救われた2人は、ゲームのいい側面、「楽しさ」と「人を沸かせる」要素を最大限に生かし、社会問題を解決していこうと考えるようになりました。

長期入院をしている子どもにゲームを通じたコミュニケーションの機会を提供するなど、さまざまな取り組みを検討する中で、環境保全活動を行う団体と一緒にイベントを行うというプランが生まれました。

対戦型のゲームを競技として行う「eスポーツ」と「ゴミ拾い」を融合させた「eスポGOMI」というイベントです。「eスポーツ」は、オリンピック競技種目にも検討されるなど、世界中で注目を集めていることから、多様な人たちに環境問題に意識を向けてもらえるきっかけを作れるに違いないと考えたのです。

光治さん
「楽しみの延長線上に、ゴミ拾いがあった。楽しみの先に、環境問題や社会問題の解決があれば、義務じゃなくなると思うんですよね」

環境保全団体の代表も、高木兄弟に期待を寄せていました。 

馬見塚健一さん
「僕らが全然、今まで接することがなかった人たちとふれ合う機会ができたのは、高木さんが今までやってきたゲームの影響がすごく大きいと思います。環境問題とゲームの化学反応をすごく期待しています」

イベント当日、地元の小中学生から大人まで36人が集まりました。3人1組、全12チームにわかれ、独自のルールに従って競い合います。

まず、前半と後半30分ずつ「ゴミ拾い」をします。ペットボトル100グラムで40ポイントなど、得点はゴミの種類と重さごとに決められています。

ハーフタイムにはゲーム対決。「パズルゲーム」と呼ばれるジャンルのゲームで対戦し、勝ったチームには「ゴミ拾いの助っ人」や「トング」など、ゴミ拾いが優位に進められるアイテムをゲットできます。

その他にも、会場周辺の決められた区域のみを拾う、ゴミは分別も適切に、走るのは禁止、時間に遅れたらマイナスポイントなど、緻密にルールが決められていました。

“楽しく!”が子どもたちの“ゴミ拾い”への意識を変えた

この日、伸夫さんの体調がすぐれず、1人で実況を担当することになった光治さん。参加した子どもたちの想像通りの反応を目の当たりにしました。

「ゴミ拾い?めんどくさい」「ゲームだけが楽しみ」
この言葉に、光治さんのやる気スイッチが入ります。
ゲームの実況では、チーム名を覚え、それぞれの技とレベルを口にしながら、対戦を盛り上げます。子どもたちの応援にも熱が入りました。

参加者のひとり、徳永芽衣ちゃん(8)は、両親に連れられて参加しました。
イベントが始まる前は「めんどくさい」としか言わなかった芽衣ちゃんも、ゲームに夢中になりました。「勝ちたい」という気持ちが強くなったのか、最終的には、ゴミも必死に拾っていました。

「ポイント稼いだ!」といいながら拾って回る姿は、別人のようでした。結果は12チーム中5位でしたが、とても満足そうでした。

芽衣ちゃん
「楽しかったです。ポイントがあったから、ゲーム感覚でいっぱいできたかなって」

ゲームの力を信じる高木兄弟。「どんなことも楽しく!」2人の思いが子どもたちに届きました。

光治さん
「やっぱりゲームって、ただのゲームじゃないというか、ゲームはもう娯楽の域を自分は超えているんじゃないかなって考えています。未来を生きるのは自分たちなので、ゲームを通して、社会課題、環境問題の解決に取り組んでいくことができたらなって考えてます」

伸夫さんも、体調が良い時には参加して、「eスポGOMI」を盛り上げていきたいと意気込みをきかせてくれました。

伸夫さん
「社会問題にゲームが加わることで、やっぱり一緒にやり遂げる喜びの共有だったり、達成感だったりっていうのが加味されていくんじゃないかと思います。今は本当にがんばって生きて、自分もまたゲームに力をもらいながら、少しでも力になりたいと思います」

「僕がいたから治ったって言ってほしいですし、僕を動かすきっかけをくれたのは伸夫なんだよって言いたい。治った時にこういう話ができればいいなと思っています」

光治さんが最後に語ってくれた伸夫さんへの思いです。
ゲームに力をもらい、ゲームの力で社会貢献に関わり、またそれも自分たちの力に変えていく…2人の歩みを今後も見守り続けたいと思います。

  • 関根幸千代

    首都圏局 ディレクター

    関根幸千代

    2006年入局。福井局、制作局、大阪局、さいたま放送局などを経て現所属。 主に生活情報番組を担当

ページトップに戻る