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注目の日本茶「萎凋茶」とは? 巣ごもり需要の新たな動きを紹介

  • 2021年4月28日

「日本茶らしいフレッシュな香りの次に、バニラのような甘い香りが鼻を抜ける」
そんな味わいの日本茶をご存じですか?「萎凋茶(いちょうちゃ)」と呼ばれ、これまではあまり注目されてきませんでした。
ところが、コロナ禍による巣ごもり需要で、低迷してきた日本茶の消費が増加する中、若い世代が好む萎凋茶を広めようという動きがあります。萎凋茶とはどんなお茶なのか、産地の取り組みとあわせて紹介します。
(アナウンサー 内藤雄介)

巣ごもり需要 日本茶の消費増加

夏も近づく八十八夜~♪

ことしは3月に気温の高い日が続いたことなどから、各地で1週間から10日前後、新茶の収穫が早くなっています。茶どころ、静岡市の静岡茶市場では、新茶の初取引が4月14日と史上最も早くなりました。

そうした中、長年にわたって消費が低迷していたお茶業界に、久しぶりに明るいニュースが流れました。家庭で急須やティーバッグで飲む「リーフ茶」の消費が去年、久しぶりに上向いたのです。総務省家計調査によると、長く減少傾向にあった1世帯当たりのリーフ茶の「消費量」と「年間支出金額」が、令和2年の統計結果で増加に転じました。
その理由はコロナ禍の「巣ごもり需要」。外で活動する際はペットボトル茶などを飲んでいた人が家の中で過ごすようになって、リモートワーク中や家族団らんでお茶を飲む機会が増えたことが背景にあるとみられます。

もちろん、ペットボトルでもお茶であることに変わりはないのですが、リーフで消費されるお茶の中心は春に収穫される「一番茶」。ペットボトル茶の原料として出荷される二番茶以降のお茶より単価が高いため、業界全体の売り上げアップにつながるのです。

若い世代が日本茶に注目

さらにお茶の関係者を喜ばせたのは、お茶をリーフで飲む人が、去年、特に若い世代で増加したという調査結果です。

農林水産省が、去年の10月中旬から11月上旬にかけて18歳以上の1000人を対象に行った調査で、コロナ前後でお茶の飲み方に変化があったか尋ねたところ、18歳から29歳までの若い世代で、コロナ前と比べてリーフ茶の消費が「増えた」と答えた人が26%に上りました。これは、すべての世代の中で一番高い割合でした。

どうして若者が日本茶に興味を示しているのか。
川崎市で日本茶カフェを営む正垣克也さん(40)は、店を訪れる若い人が想像以上に多いとした上で、「若い人にとっては新しい飲み物と感じるのでは」と分析しています。

お茶をいれる正垣克也さん

日本茶カフェ経営 正垣克也さん
「いまの若い人は急須になじみがない方も多く、リーフで飲む日本茶が身近ではありません。そのため、急須でいれたお茶を店で飲んで感動される方もいます。『日本人でありながら日本茶のことを知らなかった』と話す方もいて、日本茶を新しい飲み物として興味を持ってくださるのを感じます」

萎凋茶を知っていますか?

こうした日本茶の新たな動きの中でいま、注目されているのが「萎凋茶(いちょうちゃ)」。もちろん銀杏(イチョウ)の葉から作るお茶ではありません。下の写真がその「萎凋茶」です。ぱっと見には普通の日本茶と変わりません。

「萎」というのは「萎(しお)れる」と読みます。草花が水分を失い、元気がなくなることです。
「萎凋」というのは、摘み取った茶葉を風通しのよい場所などに放置し、葉を萎れさせて香りの発揚を促す工程のこと。この萎れる過程で茶葉がほんの少し発酵し、お茶として仕上げた時にその品種茶が持つ独特の香りが際立つものになります。いうなれば「微発酵茶」です。

バニラやクチナシの花の香り!?

注目はその香りで「バニラ」や「クチナシの花」などと表現されます。私も飲んでみましたが、口に含むとまず日本茶らしいフレッシュな草の香りが感じられ、次にバニラアイスのような甘い香りが鼻を抜けていき、驚きました。

品種茶「ゆめわかば」の萎凋茶

他にも「ブドウのような」「熟した桃のような」「はちみつのような」など、品種によって様々な香りが感じられる萎凋茶が作られています。

日本茶は本来、全く発酵させない「不発酵茶」です。これまで、萎凋香がついてしまう状況は、茶摘みの最盛期で製茶機械が満杯になってしまい、摘んだ茶葉をすぐ処理できずしばらく放置せざるを得ないときなど、どちらかと言うと「ついてはいけない香り」とされてきました。緑茶の品評会でも、「萎凋香がある」はマイナス評価とされていました。
しかし若い世代にとっては逆にその香りが新鮮で、「日本茶にこんな香りのものがあったんだ」と注目を集めているのです。

若い生産者が取り組む萎凋茶づくり

萎凋茶作りに熱心に取り組んでいるのが、お茶の産地・狭山です。埼玉県茶業青年団が毎年行っている茶の品評会「フレッシュ グリーン ティー コンペティション」(※去年はコロナ禍で中止)では、3年前に萎凋茶部門を新たに設けました。これは、静岡や鹿児島など、他の茶産地ではほとんど例のない取り組みです。

2018年 初めて萎凋茶部門の審査が行われた時の様子

中心になっているのは狭山茶の若手農家。茶業界で「日本茶らしくない」と長年嫌われていた香りを積極的に取り入れようとしています。

萎凋茶づくりに取り組む茶農家 奥富雅浩さん(41)
「萎凋茶部門は、これまで日本茶とは縁が薄かった若い世代を取り込めると感じ、反対を押し切って導入しました。コロナ禍で若い人たちがお茶に興味を示してくれている状況を追い風に、萎凋茶の良さをもっと多くの人に広めていきたい」

狭山茶の萎凋茶を手に入れるには、狭山茶を多く扱う小売店や、農家からインターネットを通じて直接などの購入方法があります。また、一般社団法人 埼玉県茶業協会でも問い合わせを受け付けています。

巣ごもり需要を追い風に、「萎凋茶」が日本茶の消費拡大の切り札となるか。
見かけたらぜひ飲んでみてください。きっと、あなたの日本茶のイメージが変わりますよ! 

  • 内藤雄介

    アナウンサー

    内藤雄介

    2002年入局。静岡・岡山・神戸・広島での勤務を経て2019年からアナウンス室。初任地の静岡局でお茶にハマり、日本茶インストラクターの資格も取得。 ライフワークとしてお茶の取材を続けている。

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