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出口のない不妊治療~病院選びに苦悩する女性たち

  • 2021年4月15日

不妊治療の取材で出会った女性が見せてくれたのは、大量のカードでした。これまで不妊治療を受けるために通ってきた病院の診察券です。
なぜこんなにもたくさんの病院に通わなければいけなかったのか。
すべては、「子どもが欲しい」という願いを叶えるためでした。
(首都圏局/ディレクター 有賀菜央)

同じ治療を繰り返した3年間

「1、2、3、4、5、6…。いろんな病院に行って遠回りしたなと思います」

こう話したのは、関東地方に住む40代のかおりさん(仮名)です。
8年前から続けてきた不妊治療で数多くの病院に通ったといいます。
不妊治療を始めたきっかけは、結婚後、なかなか子どもを授からなかったことでした。

かおりさん
「28歳で結婚したんですけど。子どもがすごく欲しくってすぐにでもできたらいいなって思っていました。私自身は2人兄弟で、子どもがいる家族っていうのが当たり前のように想像していた部分はあります」

32歳のとき、かおりさんは地元の産婦人科に行き、「タイミング法」を試すことになりました。タイミング法とは、基礎体温を毎日測り、医師から排卵時期などの指導を受ける、初期の治療法です。

タイミング法を試して1年経っても妊娠せず、2年後には、子宮の中に直接精子を注入する「人工授精」を始めました。
しかし、人工授精を3回行いましたが、妊娠できません。

主治医からは、「体に問題はないので、いつか妊娠できるだろう」と言われました。
病院を変えれば何かが変わるかもしれないと、自宅の近くにある総合病院にも行きましたが、医師から言われることや治療内容は前の病院と同じでした。
このときすでに、治療を始めて4年が経とうとしていました。

かおりさん
「不妊治療について身近に相談する人もいなくて、地元の病院でも次のステップに進んだ方がいいという提案はしてもらえず、自分でどんな治療があるのか調べるしかありませんでした。もっと早く高度な治療を受けていれば、もしかしたら結果が変わったのかもしれないなと思います」

実績公開していない病院多く 頼りは口コミ

30代後半を目前にしたかおりさんは、このままでは妊娠できないのではないかと、新たな病院を探しました。病院の資料をいくつも取り寄せ、説明会にも参加しました。

しかし、かおりさんの前に壁が立ちはだかります。治療数や妊娠率などの実績を公開していない病院が多く、公開していても内容が病院によって異なるため、知りたい情報を得ることができなかったのです。

かおりさん
「不妊治療の病院はたくさんあるので、今度は逆にそこからどこを選ぶのかがものすごく大変でした。病院の特徴や実績についてまとまっているものはないので、病院の公式サイトを見て自分で病院の治療方針や成績を探すんですけど、成績の出し方も本当に病院によってそれぞれで、自分で読み解くことは難しかったです」

結局頼りにしたのは、不妊治療をしている当事者のブログでした。

かおりさん
「口コミとか個人のブログってどうしても個人の見解が入ってしまっていて、データとして自分で整理して病院選びに役立てるには、かなりの労力が必要でした。でも、相談できる人がいないのでどうしてもネットの情報に頼ってしまう状況でした」

よい治療求め 複数の病院を転々とするように

その後、かおりさんは自宅から1時間以上かけて都内の病院に通い始めます。
1年かけて、体外で卵子と精子を受精させ、できた受精卵を子宮に戻す「体外受精」を行い、2度妊娠しましたが、流産しました。

かおりさん
「治療しても流産したりうまくいかないことが続くと、本当に心が消耗してしまって、暗いトンネルの中でずっとどん底をはいつくばっているような気持ちが続いてしまう。でも何もしていないと時間はどんどん過ぎていくし、年はどんどんとっていくので、早くしなきゃという焦りの気持ちはあります」

自分は妊娠できると、一筋の希望を持てたかおりさんは、他の治療法を探してセカンドオピニオンを受けたり、不育症や、甲状腺の検査を受けたりするなど、複数の病院を転々とするようになります。

さらに口コミで評判の良かった漢方や鍼灸なども始め、これまでに不妊治療にかかった費用の総額は700万にのぼりました。

「どの治療がいいのか、自分の体で実験をしているみたいです」

かおりさんは、転院をすればするほど、どの治療が正しいのか分からなくなってきたといいます。

かおりさん
「治療に行き詰まってしまうとどうしたらいいのか分からなくて、少しでも何かいいものがあったらやってみたいという気持ちでどんどんチャレンジしていきました。治療をやめるという選択肢も考えるんですけど、まだ諦めたくないという気持ちもあるので・・・。
何かの選択をしないといけない患者の立場からすると、情報がないと選べないので、公的な機関が公平に治療法や病院の情報を整理して教えてくれたりアドバイスしてくれたりする場所が必要だなと思います」

7割が病院選びに悩む 半数が転院繰り返す

不妊治療では、かおりさんのようなケースは珍しくありません。
当事者を支援するNPO法人「Fine」の2020年の調査によると、不妊治療を受けた人の約7割が病院選びに悩んだ経験があり、その半数が転院したことがあると回答しています。

背景にあるのは、治療の選択肢が多様にあることです。
不妊治療を専門とする多くの病院では、不妊の原因はさまざまにあるため、患者の体に合わせた治療や薬剤を用いたオーダーメイドの治療を行ってきました。
不妊治療を行っている医療機関は全国に約600施設あり、治療方針はそれぞれの病院で異なりますが、ほとんどの治療が自由診療であることから、病院によっては、妊娠する確率を高めるために日本では認められていない海外製の薬品や、海外の論文に掲載されている治療法を試みることもあります。
一方で、病院の情報公開についての統一的な基準はなく、患者の戸惑いにもつながっているのです。

病院を審査し合う医師たちの取り組み

こうした課題に対して、全国の医師によって結成された「JISART」という民間団体では、オーストラリアの国の機関をモデルにして17年前から、所属する各病院の審査や評価を行っています。
病院の質や技術を高めるために、3年に一度、各病院の視察を行い、審査に通った病院のみこの団体に加盟することができます。

審査するにあたって、病院は200以上に渡る質問票に回答しなければなりません。
さらに年間の治療数や妊娠率などの成績を提出することも求められます。
調査の内容は公表していませんが、この団体に加盟している病院名は、ホームページ上で閲覧することができます。

しかし、全国に600ある病院のうち、現在、この団体に加盟できているのは31施設のみ。
団体の委員長の一人である小田原医師は、今後、全国の病院を審査する機関が必要であると考えています。

ファティリティクリニック東京 小田原靖医師
「国内には600近い施設があり、その中でどこを選ぶかというのは非常に難しいと思うんですね。学会や公的に準じた機関が、それぞれのクリニックでどういうことを開示しなければいけないのか、ガイドラインを作って安心して情報を得られるようなシステムを作ることが必要なのではないかと思っています」

取材後記

これまで不妊治療は、高額な治療費や、仕事との両立が大きな課題とされてきましたが、病院選びや治療のやめ時、誰にも相談することができないなど、課題は多岐に渡ることが今回の取材で見えてきました。
いま不妊治療は、来年4月からの保険適用の施行に向け動き出しています。治療費の負担を軽減させる以外にも、さまざまな悩みや負担を抱えてきた当事者を社会がどう支えていくべきなのか、保険適用の議論をきっかけに考えていかなければなりません。

  • 有賀菜央

    首都圏局 ディレクター

    有賀菜央

    2015年入局 名古屋局、静岡局を経て2019年から首都圏局。 これまで家族問題や不妊治療に関心を持ち取材。

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