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ヤングケアラーの課題と求められる支援 専門家に聞く

  • 2021年4月5日

これまでその実態がよくわからず、十分な支援も受けてこなかったヤングケアラー。この問題を研究している大阪歯科大学医療保健学部の濱島淑恵教授に、背景や必要な支援について聞きました。
(さいたま放送局/記者 大西咲)

課題(1)  家庭内のことで見えにくい 

記者

ヤングケアラーの実態はこれまでよくわかっておらず、十分に支援されてこなかった。そもそも、どうして実態が把握されてこなかったのか?

専門家

実態が把握されてこなかった要因は2つある。1つは、家庭内のことで見えにくい。子どもたちの多くは、幼いころから家族の介護やケアをしているため、こうした生活が“当たり前”だと受け止めてしまう。
自分たちの生活をほかの家庭と比較することができないため、本来は子どもが担うことではないと認識できず、苦しくてもSOSを出せない。高校生ぐらいになって初めて“当たり前”ではないということに気づくケースが多い。

課題(2) 相談先がない

記者

私が取材する中でも、介護やケアをすることが当たり前だと思っていたと話す人が少なくありませんでした。もう1つの要因は?

専門家

2つ目は、SOSを出したいと思っても、相談先がないこと。ヤングケアラーの周りにいる大人は、主に学校の先生や家族の介護やケアを担当しているケアマネージャーなど、支援者に限られる。
学校は学業のこと、支援者は介護やケアの対象者、つまり子どもたちの家族についての相談を受けることはできるが、ヤングケアラーという視点がないため、家族の介護やケアをする子どもの悩みにまで積極的に相談に乗ったり、生活の実態に踏み込んだりすることができなかった。

課題(3) 公的サービス制度と実態のずれ

記者

介護保険制度や障害者福祉制度は、家族内での負担を減らすために、介護やケアを公的サービスを通じて受けられるようにした制度。こうした制度で支援できないのか?

専門家

公的サービスですべての介護やケアをカバーすることは難しいのが実情です。そして、公的サービス以外に必要となる介護やケアは、それぞれの家庭が福祉施設などに料金を支払い支援を受けることになる。
こうした制度の影響で、金銭的な余裕のない低所得の家庭では、家庭内で介護やケアをせざるを得なくなり、ひとり親の世帯などの子どもたちがヤングケアラーに陥るケースが多い。
さらに介護保険制度や障害者福祉制度は、父と母、それに子どもがいるという家族構成を前提にして作られている。制度が前提とする家族構成や世帯の経済力が実態とずれていることのひずみの1つが、ヤングケアラーの問題。今後、ヤングケアラーが増えることはあっても、減る要素はない。

どんな支援が必要?

記者

「ヤングケアラー」に、今求められる支援は?

専門家

学校関係者やケアマネージャーなどの支援者だけでなく、ヤングケアラーの子どもたちがいるんだという視点を、まずは多くの人に持ってほしい。
介護やケアを担って苦しんでいる子どもたちは確実にいて、支援はまったなしの状況。居場所づくり、学習支援、食事の支援は、今ある社会資源を使えば十分にできるので、いち早く対策を打つべき。

 

  • 大西 咲

    さいたま放送局 記者

    大西 咲

    2014年入局 熊本局、福岡局を経て去年夏から現所属。 介護福祉分野を6年取材。

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