コロナで入院中、金属バットで殴られたような激痛を伴うせきに苦しみ、一時は死を意識したという60代の男性が、経験を語ってくれました。男性は、発症の2日前に同僚を会食に誘い、参加した5人のうち自分を含む4人の感染が確認されました。
「自分が同僚に感染させてしまったかもしれない。たまたま運が悪かったとは言えない」
いまも悔やみ続ける男性の証言です。
(首都圏局/記者 古市駿)
話を伺ったのは都内に住む劇団の演出家の60代の男性です。
ことし1月新型コロナウイルスに感染しました。
自分の体験を多くの人に知ってもらい感染予防に役立ててほしいとNHKに情報を寄せてくれたのです。
男性は発熱などの症状が出始めてから退院までのおよそ2週間の日々を、スマートフォンに記録していました。
1月9日(土)
19:00 夕食後37.6度
24:00 少し寒気を感じる
26:00 トイレで突然上下の歯がガチガチと音がするほど寒気に襲われたこれはかなりおかしい
1月10日(日)
10:50 クリニックにてPCR検査受診
11:15 同時に行ったインフルエンザ検査はすぐに陰性判明
1月11日(月)
10:00 カレーうどんが匂わず味がしない 歯磨きも苦く感じる 陽性を確信
16:13 クリニックから陽性反応連絡
当時の心境について男性はこう振り返ります。
「『やっぱり陽性か』ということと、『これからどう行動したらいいのか』という気持ちがありました。まずは自分なりに濃厚接触者をリストアップして片っ端から連絡しました。
そうしないと濃厚接触者からさらに第3者に感染させてしまうリスクが増えてしまうと思ったので」
持病があった男性は、保健所から入院先の病院を探すと伝えられました。
しかし当時は都内で連日1000人を超す感染者が確認されていて、入院先が見つかるのか不安を覚えたといいます。
「自宅待機していた感染者が亡くなったという報道を見ると、自分もそっちのほうに当てはまるのではないかと恐怖感がありました」
保健所の車で病院へ
男性は2日間の自宅待機を経て入院することができました。
入院中は40度近くまで熱が上がり血液中の酸素の値が低下します。
激しい頭痛やせきが止まらず、病状は短時間で急速に悪化しました。
1月14日(木)※入院2日目
12:05
39.6℃の高熱でSPO2(血液中の酸素の値)が92に低下
酸素吸入1リットル開始
深呼吸すると頭が金属バットで殴られたような激痛を伴うせき込み
18:00
治療薬レムデシビルとステロイド投与を告げられる
不安で気が動転する
19:00
緊急連絡先の妹とマネージャーに万が一の場合の指示をメール
どうしても先に覚悟を決めておきたかった
24:00
酸素吸入2リットルに増量
死を覚悟した男性は親族や同僚に身辺の整理を依頼し、病室から動画でメッセージを送りました。
「この病気は『えっ、えっ、どうなっちゃうの』と思いながら死んじゃうのかなって。ここまで短時間で病状が進むなんて思ってもいなかった。いつ急変するか分からない未知のウイルスだけに、中等症になったときには完全に死を覚悟しました」
投薬治療などの結果、男性の容体は徐々に回復。
幸い入院から10日目に退院することができました。
しかしいまも後悔していることがあります。
発症の2日前、年明けの初稽古を終えた同僚の劇団員らを会食に誘ったことです。
「検温したうえで消毒をして店内に入りました。『焼き肉店はダクトがあって換気があるので個室だったら大丈夫だろう』と大きめのテーブルでソーシャルディスタンスを取りながら5人で会食したのですが、このうち4人が感染してしまいました。私が最初に症状が出たので、すでに感染していてほかの人に感染させてしまったのだと思います」
店内では1メートル以上の間隔を空けて座り、食事を取る時以外はマスクをつけるなどの対策を取っていました。
しかし男性の感染が確認されたあと、会食に参加していた劇団員ら3人の感染が次々と判明したのです。
「私が食べながらマスクを外して喋っていたのが原因としか考えられないです。これから1年どうしようかとか、ウィズコロナでどのような戦略を練っていこうかとか、話が弾みました。アルコールが入ると声が大きくなるし、身を乗り出して喋っていたと思います。大声を出さないとか距離を保つといった意識が薄れていました」
感染が確認された劇団員の1人は、回復後もけん怠感や声を出しづらいといった症状が続き劇団の活動に支障が生じているといいます。
「感染した3人に対してはとても申し訳ないと思っています。ご家族に感染をさせてしまう可能性もあったし行動が制限され仕事もできなくなってしまった。年明けで『ほんのちょっとの時間の会食だけなら』と油断して誘ってしまった私の責任は重いと思います」
退院から1か月以上たったいまも男性は味覚やきゅう覚が半分ほどにしか戻っていません。
原因不明の足のしびれにも悩まされていて仕事にも影響が出ています。
男性がいま伝えたいことはー。
「新型ウイルスは100%防衛するというのは不可能ですよね。でもたまたま運が悪かったとは言えないです。当時を振り返ると『大声を出さなければ』とか『ある程度のディスタンスを守っていれば』とか、自分が安心したいために安易な決めつけをしていたことが原因だと思っています。私の甘かったところで後悔しています」