コロナ禍での通勤や通学、電車やバスでつり革が気になったことはありませんか?実は、つり革に直接触れずに済む「マイつり革」があります。開発したのは、東日本大震災の津波によって被災した千葉県旭市のかばん製造会社です。震災やコロナ禍をなんとか乗り越えようという社長の思いを取材しました。
(千葉放送局銚子支局/記者 岡根正貢)
これが、自分専用のつり革「マイつり革」です。電車やバスなどのつり革に直接触れず、つり革に引っかけて使用します。
持ち手となる二つの輪はバッグに使われている牛革製で、ナイロン製のバンドでつながっています。
この「マイつり革」は、旭市のかばん製造会社の高野勤社長が、新型コロナウイルスの感染防止対策に役立ててもらおうと開発しました。
高野社長
「つり革は、コロナ禍で仕事が減ったので、かばん作りの技術をなんとか生かすことができないか考えました。つり革のイメージを大切にしたかったので、熟練した職人が丸みを出す工夫をしました。厳選した革を使っているので柔らかくて使いやすいと思います」
高野さんの会社がある旭市は、10年前の東日本大震災で16人が犠牲となり、会社も従業員の宿舎が津波によって被災しました。
2011年4月 津波でブロック塀がなぎ倒された千葉県旭市の民家
(高野さんの会社とは関係ありません)
当時、従業員として10人いた外国人技能実習生は帰国してしまい、かばんの注文も減り続け、会社の経営は岐路に立たされました。しかし、高野社長は「震災に負けたくない」として、新たにかばんの自社ブランドを立ち上げ、デパートに出店したほか、被災した宿舎近くにショールームを兼ねた直売店も開店させました。
コロナ禍で開発した「マイつり革」は、電車やバスを利用する幅広い世代から購入され、かばんの売上アップにもつながっているということです。
地元の旭市のふるさと納税の返礼品にも選ばれているほか、会社では販路を広げようと、従業員たちが、自らがインターネットでつり革を紹介。電車やバスを使う幅広い世代にアピールして、再び苦況を乗り越えていきたいと考えています。
販売を担当する閻煦さん
「若い人にも情報発信をして、マイつり革をきっかけに革製品の良さを伝えられればいいと思います」
ネット通販用の動画を撮影
さらに会社では、コロナ対策で利用される医療用のガウンの生産も半年前から始めました。革製品より薄い素材を扱うため、ミシンを改造する設備投資を行い、工場のライン3分の1をガウン作りにあてました。
高野社長
「技術があるからこそ、自社ブランドを立ち上げて、つり革を開発することができました。今後、コロナにも打ち勝っていけるような会社にしていきたい」