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コロナ禍で孤立する医療的ケア児と家族 “早くワクチンを”

  • 2021年2月25日

「基礎疾患がある子どもや同居する親もワクチンを早く打てるのでしょうか?」
難病で日常的なケアが必要な娘を持つ母親から、こんな質問がNHK首都圏ナビの特設サイトに届きました。
母親は、コロナから娘を守るため、そして娘をケアしてくれる人たちに感染が広まるのを防ぐために、この1年徹底したステイホームの生活を送ってきましたが、1日3時間の睡眠を確保するのも難しく、もう限界だと言います。
「早くワクチンを打って、息詰まる暮らしを終わらせたい」
親子の声を聞いてください。
(首都圏局/ディレクター 熊谷百合子)

生まれてからずっと睡眠3時間のケア

特設サイトに声を寄せてくれたのは、埼玉県在住のまきこさん(46)です。夫と、娘のさなさん(12)の3人で暮らしています。さなさんは、指定難病の「チャージ症候群」で、生まれつき心臓と呼吸器に疾患があります。気管支が弱くて喉に溜まる唾液やたんを自力では排出できず、呼吸も不安定になりやすいため、分泌物の吸引や酸素吸入といった「医療的ケア」が欠かせません。さなさんのような「医療的ケア児」は全国に約2万人いると推計されています。母親のまきこさんは、装着している酸素モニターが鳴るたびにケアに追われるため、夜中の3時に寝て朝6時に起きる生活を、さなさんが生まれてからの12年間続けてきました。

オンラインのインタビューで描いてくれた図

それでも去年春の最初の緊急事態宣言が出るまでは、この生活を続けられたと言います。平日の日中は、訪問看護師とヘルパーのサポートがあったからです。医療的ケアを支援者に分担してもらっている間に、まきこさんは、買い物や、仮眠の時間を確保していました。

コロナで一変 身体も心も限界に

しかし、新型コロナの影響で生活は一変しました。きっかけは地元の複数の病院でクラスターが発生したことです。まきこさんの家にはこれまで、訪問看護師などあわせて11人が自宅を訪れ、さなさんのケアをしてきましたが、こうしたサービスをすべて中止することにしたのです。 “自主隔離”は大きな負担を伴うと分かっていましたが、感染者数が落ち着くまでの間であれば何とか乗り切れると考えました。

まきこさん
「親としては訪問看護やヘルパーが来てくれたら楽だけど、1回来てもらったために、うつって命に関わったらと思うと、やっぱり自分の楽さと、娘の命とを天秤にかけたときに、娘の命優先になってしまったんですね。なんとか感染者数が下がるまでは家族だけで乗り切りたいという結論に至ったんです」

自主隔離を決めたもう一つの理由は、娘のケアのために自宅を訪れる多くのスタッフの間で、感染が拡大してしまうことへの懸念でした。自分たちの家からスタッフの人たち、その人たちが関わるさらに多くの人たちに感染が広まることはあってはならない。“自主隔離生活”は、我が子のためだけではなく、まわりの人への影響も考えた上での決断だったのです。

ただ、その決断は家族を追い詰めました。

隔離生活を始めてから1年がたちましたが、コロナが収束する兆しは見えず、今も、サービス利用を再開できていません。まきこさんは、日中の仮眠すらできない日々が続いています。

まきこさん
「もう心身ともに限界な時が多くて、娘の前では明るく楽しくっていうのをモットーにやっていますけど、やっぱりきれいごとじゃ済まないというか。正直もう逃げたくなったり、お母さんやめたいなって思うときはあります」

第3波で起きていた家族内感染 誰が看病するのか

1月初旬、第3波の真っ只中に、まきこさんたち医療的ケア児を育てる家族=医ケア家族が最も恐れていた事態が起きていました。東京都内に住む医療的ケア児が発熱して新型コロナ陽性となり、濃厚接触者の母親もその後、陽性と判明したのです。約2週間にわたって母子はコロナ病棟の同じ病室で過ごすことになりました。

子どもとともにコロナに感染した母親
「私自身がコロナ患者であっても、気管切開をしている子どものケアをしなければならなかったのが辛かったです。看護師さんの負担が大きいので仕方ないと思いますが、嗅覚や味覚がなくなり、食欲が出なかった期間は本当に苦しかったです。コロナ病棟は完全隔離で、加湿器が使用できないため室内の乾燥がひどく、ぬれタオルを干してしのぎました。喘息がある子どもにネブライザー(喘息用吸入器)を使用したかったのですが、蒸気を出すため飛沫感染のリスクが高いとのことから当初は許可が下りず、認められるまでに3日かかりました。普段通りのケアができず、不安やストレスを感じました」

医療的ケアが必要な子どもの家族を支援する団体「Wings」が、全国の287家族を対象に去年4月に実施した新型コロナウイルスに関する不安や困りごとのアンケートでも、「保護者感染時の子どもの預け先の確保」が86.4%と最も多い結果になっています。

「もし自分が感染したら、子どものケアを誰が代わってくれるのか」という問題は、解決されないまま医ケア家族に重くのしかかっています。

“ママ、ともだちを検索して”  自主休校が生む孤独

長引く自主隔離生活で、まきこさんは、もう一つ懸念していることがあります。

娘のさなさんは、学校も自主的に休んでいます。通っている特別支援学校には、重度障害でマスクができない児童もいることから、濃厚接触のリスクを避けるための、やむを得ない選択でした。今は週に1度、30分のオンライン授業だけが、学校との唯一のつながりですが、人と直接関わることができず、刺激の乏しい生活を続けることが、子どもの発達の機会を奪っているのではないかと不安を感じています。

まきこさんは最近、さなさんのある言動が気にかかっています。オンラインでの授業に慣れたさなさんは、タブレット端末をまきこさんに渡し、「学校の友達を検索して」とせがむようになったことです。好きなキャラクターの名前を検索すれば、すぐに画像や動画が見られることを理解したさなさんは、学校の友達の名前も、検索すればすぐに会えるのではないかと考えたようなのです。

まきこさん
「毎日、私に『検索して』って来るんですけど、それで『お友達を検索して』とか『先生に会わせてほしい』って言われたときは、なんて説明したらいいのか。この子にとって何が幸せなのかなって悩んでしまいました」

日常取り戻したい…医ケア家族にもワクチンを

ワクチンの先行接種 2月17日川崎市

今の状況を少しでも改善できるのではと、まきこさんが期待しているのが、医療従事者への接種が始まったワクチンです。ワクチンを打ってもらえれば、娘と家族の暮らしを以前のように戻すことができるかもしれないと思うからです。しかし、現段階では、16歳未満の子どもはワクチンの接種対象に入っていません。また医ケア家族も先行接種の対象には含まれていません。

まきこさん
「医療的ケアが必要な子どもを育てる家族は、皆さん以上に厳しい自粛をしているし、行事にも参加せず、学校にも行っていないお子さんが多いです。本当に孤独です。ワクチンを打てば、万が一かかったとしても命に関わることにはならないというのであれば、普通の生活に少しずつ戻してあげられるかもしれない。娘の心のバランスも崩れてきているし、私もどこまでもつかわからない。少しでも早く打って、日常を取り戻したいっていうのが今の願いです」

医ケア家族に社会の理解を

医療的ケア児と家族のワクチン接種について、支援団体「Wings」代表の本郷朋博さんに聞きました。本郷さん自身はワクチンの早期接種を医ケア家族で一律に求めることについては、慎重な立場です。しかし、まきこさんのように家族だけでもワクチンを打ちたいと希望する人は優先接種の対象に含めてほしいと考えています。

本郷朋博さん
「家族は医療従事者ではないかもしれないですが、子どもたちを医療従事者に準じるようなかたちで毎日ケアをしているわけで、早く優先的に受けさせてほしいという期待は大きいと思っています」

同時に、こうして医療的ケアが必要な子どもの家族の訴えが、社会からどう受け止められるのかも、少し気がかりだと、本郷さんは言葉を慎重に選びながら語ります。こうした訴えが、自分勝手なわがままだと捉えられてしまう風潮が、今の社会に少なからずあると、日々感じているからです。

本郷朋博さん
「障害がある、医療的ケアがあるから優遇してくれ、ということではないんです。いま医療が逼迫しているのに、自分たちが感染したら子どもも一緒に入院する可能性があるわけですよね。そうするとさらに医療資源を使ってしまうので、迷惑をかけないためにも早めに接種をしたいという気持ちなんです。ただ平穏に暮らすことができればと。普段から迷惑をかけている、申し訳ないっていう感覚を持ってる方がすごくいらっしゃるので、エゴで言っているわけではないということを知ってほしいと思います」

まきこさん一家のように、医療福祉サービスの利用や、登校を自主的に控えたりするケースが、全国でどれほどあるのか、その実態は把握されていません。本郷さんの支援団体では、コロナ禍の長期化によって医ケア家族がどのような不安や困りごとに直面しているのか、今後、改めて調査をする方針です。

まきこさんの投稿に出会うまで、“自主隔離生活”を送っている医ケア家族が存在することを知りませんでした。コロナ禍といういわば災害時のような状況になると、私たちは多くの人に共通する関心事を伝えることに追われます。めまぐるしい動きの中で、かき消されてしまいがちな小さな声を聞き逃さないようにしたいと改めて感じています。

  • 熊谷百合子

    首都圏局 ディレクター 

    熊谷百合子

    2006年入局。福岡局、報道局、札幌局を経て2020年から首都圏局。

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