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コロナ禍で登場「オンラインスナック」 おひとりさまの女性客も

  • 2021年2月23日

コロナ禍で苦境に立たされている夜の繁華街。カラオケにお酒が定番のスナックも、客足が遠のいて久しい店が少なくありません。こうした中で登場したのがオンラインスナック。山梨県甲府市の、ある店をのぞいてみると、スナックの明かりを守ろうとする思いと新たな可能性が交錯していました。
(甲府放送局/記者 山下忠一郎)

甲府市の繁華街 2階から漏れる明かりは…

武田信玄公の銅像がどっしりとにらみをきかす甲府駅南口から、徒歩10分程の繁華街。

午後10時過ぎにもなると、人影はほとんど見当たりません。ところが、とある建物の2階からは、わずかに明かりがこぼれています。階段をのぼると、女性の笑い声が漏れてきます。

扉を開けると、オンライン会議でよく見るようになった丸い照明を自分に向け、楽しそうに話す女性が1人。目線の先にはスマホが置かれています。

スマホの声「ママはそれは何を飲まれているのですか?」

女性  「これは、カルピスソーダ」

スマホの声「(グラスの)下の方がおしゃれに光っていますけど」

女性   「光るようになっていま~す」

そう。ここは今、スナック好きの間で注目されているという「オンラインスナック」。
もう少し、ママさんとお客さんの声に耳をそばだててみましょう。

弾む会話 自宅で楽しむスナック

ママ「ご自宅からですよね」

客 「そうなんです、よけいリラックス。よくネコちゃんが登場したりとか、あっはは」

ママ「ふっふふ」

客 「あまり、スナックに自宅のネコ連れていかないですものね。そういう面白いハプニングが…」

ママ「ありますよね。やっぱり、ご自宅ならではですよね、オンラインって」

客 「お子さんが入ってきたりとか、そういうのも楽しいなと思います」

この方、今夜初めてこのお店を“訪れた”そうですが、オンラインスナックはこれまでも何店か経験済みだそうです。ちょっと話を聞かせてもらいました。

「オンラインでサイトがあるので、そこでママの写真見て楽しそうだったのと、あと、山梨に行ったことがなかったので、ちょっと入ってみようかなと思いました。イヤホンをつけているので、いい意味で集中できます。酒席ってがやがやしがちなので、そこが大きく異なるかなと。あとリラックスですかね、家にいるので」

この男性は1時間、スナックに“滞在”しママとの会話を楽しんでいました。

オンラインスナック 北海道から沖縄まで

「オンラインスナック」は、スマートフォンやパソコンの画面越しに、店と客がそれぞれ自分たちで用意したお酒を飲みながら会話を楽しむサービスです。決済もオンラインで行われ、1回の利用料金は2000円から4000円程度です。

そして、オンラインスナックをやっているお店を紹介しているのが「オンラインスナック横丁」というサイトです。

スナックの愛好家でIT企業の元社員の女性が去年5月に立ち上げたもので、北海道から沖縄まで、さらには海外のニューヨークやモスクワも含めて40以上の店が加盟しています。

客は、それぞれのスナックを紹介するページから店を選び、空いている時間と1時間コースなどを選んでチケットを購入。時間になったらオンラインでの会話を楽しむというシステムです。

これからの矢先に、コロナ

このサイトに登録しているのが、先ほどお客さんとの会話を見させていただいた甲府市にあるスナックのママ近藤正美さんです。

近藤さんは、母親が昭和50年代に始めたというこの店を20代の頃から手伝い始め、30代になって母親が亡くなると店を継ぎました。

以来、地元の公務員や出張のビジネスマン、同級生など地域の人に支えられて30年以上続け、シングルマザーとして2人の子どもたちを育てあげました。

「ちょうど子どもたちが巣立って、やっとここからお客さまに恩返しができるなと思ってですね、もっとお店を、仕事をもっともっと頑張ろうと思っていた矢先のコロナだったんです。緊急事態宣言が出た去年4月、5月です。すぐに元に戻るのかなという気持ちも少しはあったんですけど、なかなかそういうふうにはならなかったじゃないですか。不安は募りました」

去年4月と5月は休業を余儀なくされ、夏に店を再開したものの売り上げは以前の2割程度まで落ち込みました。家賃などが重荷になり、スタッフにも4月からずっと休んでもらっています。最近も去年のクリスマスの頃から予約が入らず、店は自主的に閉めています。そうした中でふとテレビで目にしたのがオンラインスナックでした。

「ある時にテレビのニュースで、オンラインでスナックができるという特集をやっていたんですね。『ああ、もしかしたらこれは、わたしにもできるかもしれないな』と。最初はちょっと不安もあったんですけど始めてみて、コロナにならなければ、こういう機会もなかったと思います」

おひとりさまの女性客が常連に

オンラインスナックを始めて意外だったのは、女性1人のお客さんが話し相手を求めて来ることです。

取材に伺ったこの日も、東京・大田区に住む40代の女性が、近藤さんのオンラインスナックを訪れました。
近藤さんは、おもむろにスマホの画面に向けて非接触の体温計を向けました。

「ちょっと、入室ってことで検温です。検温でーす。低いですね。あと、消毒でーす。はい、シュッシュッと。これ今、大事ですから」

お得意のエアー検温で出迎えです。

イベント関係の仕事が減っているという客の女性は、外出の機会も減り、先が見えない中でストレスを抱えていると言います。

ママ 「全然、出ない?」

女性 「全然、出ないけど1人カラオケは行きますよ」

ママ 「はーい、じゃあ良かった!何を歌います?カラオケ」

女性 「天城越えがちょー気持ちいいですね」

ママ 「わたしもね、天城越え、たぶん歌手の皆さん本人よりもわたし歌っていると思います」

女性 「はは、マジですか。いやあ、天城越え、めっちゃいいですよね。でもあれ、飛沫の飛ばしあいですけどね」

横で聞いていても楽しい会話が続きます。

この女性は、明るく気さくな近藤さんにひかれて3回目の訪問だそうです。以前は、スナックを利用しようとは考えたこともなかったと言いますが、自粛生活が続く中、会話を求めて、オンラインスナックの扉を開けたそうです。

「やっぱり、おしゃべりというのはすごくストレス発散になりますよね。最初すごいガチガチに緊張していたんですけど、ママが突拍子もないことをどんどん言ってくるので緊張を通り越してしまってもう爆笑、爆笑の連続という形で大笑いしました。自粛でクサクサしていた時期だったので、気が晴れたというかすごく楽しい気分になりました。ちょっと山梨は距離があるんですけど、ぜひいつか実際に会ってハグして、笑って飲んでということができたらいいなと思っています」

中高年の男性客のイメージが強いスナックですが、オンラインという気軽さからか、近藤さんのオンラインスナックも半数が女性だということです。

サイト「オンラインスナック横丁」全体でも、利用者の半数以上が女性だということです。

代表を務める五十嵐真由子さん
「長い自粛生活の中でさびしさや退屈さを感じている女性がオンラインという手軽さもあって、安心感や共感を得るために利用しているのではないでしょうか。スナックに接点がなかった人たちがオンラインになったことでスナックというカルチャーに触れるきっかけができたら、それがスナックのママたちの支援にもつながります」

スナック文化を絶やさないように

近藤さんが手探りで始めたオンラインスナックでしたが、これまでに地元の常連のほか、遠くは北海道からも含めおよそ20人に利用してもらっているといいます。こうした中で近藤さんは、スナックという場所は、会話を通じて客と店のママがお互いに元気になれる場所だということに気づいたと言います。

「コロナで殺伐としてしまっている今、ちょっとでもいいから誰かと少しそういう場所があったらなということで来て下さったと思うんです。『元気になった』とか『勇気をもらったよ』とか、『楽しくてまた来ますね』というお言葉を頂いた時に『あ、やって良かったな』と。わたし自身もそれで逆に勇気づけられて。いつか実店舗の方でもお話をできる日を信じて、オンラインも続けながらやっていきたいと思っています」

私自身、初めてスナックに行ったのは、10年以上前に青森県で勤務していた頃だったと思います。先輩や同僚と訪れたこともありますが、時には知らない店の扉を1人で勇気を出してたたいてみたこともありました。今回も、自宅からオンラインスナックを利用させていただきましたが、九州など遠い地域のママさんと思いもかけずに話ができました。都道府県をまたぐ移動がしにくい昨今ですが、久しぶりに旅情を感じることができました。

自粛が続く街のどこかで夜、店の奥から女性の笑い声を耳にする機会があれば、それはオンラインスナックという新しい営業形態を模索するママさんたちの声かもしれません。

  • 山下忠一郎

    甲府局 記者

    山下忠一郎

    2004年入局 青森局・大阪局などを経て現在甲府局で経済の取材を担当。 スナック探しが趣味の1つ。

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