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國松医師の記事は“コロナの処方箋”「みんなすげーし、あなたもすげーよ」

  • 2021年2月16日

東京の医師・國松淳和さんが1月にネットに掲載した記事が話題になりました。コロナに感染しないために、感染を拡大させないために頑張っているのは医療従事者だけではなく、コンビニで働く人も、自粛を頑張っている若者たちも同じで、そうした人たちを「無名のコロナファイター」と名付け「みんなすげーし、あなたもすげーよ」とたたえたのです。
なぜ、この記事を書いたのか、そしてこの言葉がどう受け止められているのかを取材すると、ともすれば人々を分断する、コロナへの向き合い方が見えてきました。
(首都圏情報ネタドリ!/ディレクター 田淵奈央)

大きな反響を呼んだ すべての人への「お前ら、すげーわ」

國松淳和さんは、東京・八王子市にある総合病院・南多摩病院で働く内科医です。記事は、1月27日に大手ポータルサイトに掲載されました。タイトルは「無名のコロナファイターたちを、知っていますか?『お前らもすげーわ』」です。

記事ではまず、コロナ対策では医療従事者ばかりが目立っているものの、それ以外のオモテに出ない立役者がいるとした上で、保健所や自治体職員、医療機関の事務職員、病院の清掃担当者などを「皆さんもすげーわ」とたたえます。

続いて陽性患者を乗せて運ぶ民間救急車の運転手や家族知人、さらには、國松さんがふだん「あんまん」を購入する際に、その都度手を洗いトングでとって包んでくれるコンビニの店員を例にあげ「みんなすげーわ」と記しています。

そして、記事の最後に「ピンク色の髪の毛をしたピアスだらけ」の若者が病院に来たときのエピソードを紹介しています。

前日から高熱が出たといって病院にやってきました。咳もしていました。聞くと、最近仕事で都外遠方へ出張、会食もしているとのこと。
あーあ、と思うでしょうか。
しかしその患者さんは、夜間は学校に行って勉強しているそうです。マスクや手洗いは頑張っていて、会食も友人とはせずに我慢していたと。そして中学生からタバコを吸っていることも、ちゃんと正直に申告してくれました。
そもそも体調が悪くなって仕事をちゃんと休んで、きちんと病院に受診しているところが素晴らしいですよね。えらいです。
こういう、不自由ななか、感染に気をつけながら毎日を自分なりに生きてる人や、自粛を頑張る若者たちもコロナファイターだと私は思ってますよ。
今回は以上になります。
コロナに直接関わるお前らも、
そういう人たちを支えるお前らも、
みんなすげーし、あなたもすげーよ、なんです。

(「無名のコロナファイターたちを、知っていますか?『お前らもすげーわ』」より一部を抜粋)

きっかけは、“コロナと戦う子どもたち”からの1,000通の手紙

國松さんがこの記事を書こうと思ったきっかけは、病院に届けられた、都内の小中学生からの1,000通以上に及ぶ手紙でした。

去年2月から、新型コロナの中等症患者の入院や、発熱外来を担当してきたこの病院の医療従事者に向けて、感謝の言葉とともに、一人一人が自分なりに感染対策に取り組んでいることが書かれていたのです。

「ぼくたちもマスクつけてあついけど、がんばっています」

「私たちも感染しないようルールを守ったり注意したりしています」

「私たちにできることは少ないですが、毎日、手洗いうがいアルコール、しっかりして、なるべく、コロナの感染を防げるように頑張ります」

 

 手紙を読んだ國松さんは、子どもたちもさまざまなことを我慢しながら、ウイルスの感染を広げないように頑張っている“メンバー”だと強く感じたと言います。

國松さん
「医者や医療従事者は『今年は忘年会を見送ってください』とか、『不要不急の外出をしないでください』とか、どちらかというとお願いばっかりしちゃっていて、あたかも自分たちだけでやっているかのように錯覚することもあるかもしれない中で、子どもたちもすごい頑張っているなっていう感じがしました。感染対策の実践者、コロナをやっつけようっていうときの、コロナファイターとしてのメンバーという思いですね。医者側も、こういうことを気にしているというか、忘れていませんよっていうメッセージを伝えることで、分かり合いたいなっていう気持ちです」

記事に寄せられた声 読んだ人は…

この記事は、公開されてから3週間近く経っても拡散され、ネット上には多くの共感の声が寄せられ続けています。

「病んでたママ友に見せたら笑ってくれたよ」

 

「無名のコロナファイターとして、もう少し頑張ってみようと思えた」

 

「『すべての若者たちへ』でちょっと涙出てしまった… みんなで乗り越えたいね~!」

 

 この記事を読んで、「心が軽くなった」と語る人がいます。穴吹昌枝さんです。夫と、小学6年生の子どもと暮らしています。

穴吹さんは、コロナの感染が広まってから外食はせずに基本はテイクアウトで済ませ、帰宅後には必ず手洗いと消毒を徹底。1時間の距離に住む両親ともスマホでしか会わないようにしてきました。でも、「日々の感染対策はみんながしていることだから、頑張っているという自覚は全然持てなかった」と言います。

というのも、穴吹さんは3年前まで臨床検査技師として病院勤務をしていましたが、体調を崩して退職。現在は月に2回だけ、保健所でエイズや性感染症などの無料検査をする仕事にパートに出る日々です。

「自分は何も力になれていない」

コロナ禍で頑張る医療従事者の姿をメディアで目にするたびに、自分の無力さを感じていたそうです。そうした中、國松さんが投稿した記事をインターネット上でふと目にして、「あなたもすげーよ」という言葉に心が軽くなり、救われたのです。

穴吹さん
「家庭内でやっていることなんて、人の役に立っているかどうかもわからないです。それでも続けなきゃいけないっていうしんどさはあると思います。やって当たり前の社会になってしまうと、そういう日々の積み重ねを誰も認めてくれないです。でも記事では、そういう基本的なことをやってる『お前らがすごいよ』っていうことにも気づけたし、『それを続けていったらいいんだよ』って言ってもらえたから気持ちが軽くなりました」

“太陽”のように、認め合い、褒め合って、コロナ禍を乗り切る

それでも続くコロナ禍。
感染が疑われる患者を相手に日々、発熱外来で診察を行う國松さんは、こう言い切ります。

國松さん
「長期化するコロナ禍は『誰かが頑張れば解決する』『誰かを批判すればよくなる』という構図ではなく、どこかを凹ませてよいことなんて何もありません」

北風と太陽で例えれば、北風のように「出掛けるな・外食するな」というネガティブワードで締め付けるのではなく、太陽のように、いまの頑張りを続けられるように褒め合って、やり方が間違っていれば正しい頑張り方を伝えることが大切だと語ってくれました。

國松さん
「そもそも誰のせいでこうなったとか、完全に責任を問えるような次元の問題じゃないと思っています。この問題の構造は複雑なはずです。だから、ある箇所だけ良くすればいい、あるいは、ある問題のある人たちを直したり、どいてもらったりさえすれば、社会がよくなるものじゃないと思っています。個人プレーより組織プレーというか、全体が心がける。小さな努力というか、個々の努力は微々たるものかもしれないですけど、集まったときにウイルスの流行を押さえ込めると思います。頑張っているっていうことを、認め合うというか、褒め合うっていうのがすごく大事ですね」

ことばの処方箋を広めたい

取材の中で、國松先生の言葉を“処方箋”のようだと語る人がいました。

そのことを実感したのは、記事を読んだ穴吹さんに取材していたときのことです。インタビューを終えようとした時に、穴吹さんは、自分に言い聞かせるように、こう語りました。

穴吹さん
「日々の、基本的のことをただやっているだけで、私たちすごいんですよね。ふふふ」

國松さんの記事は、読んだ人の多くをこんな笑顔にしたのだろうと想像しました。そして、長引くコロナ禍で心がささくれ立ちそうになったら、心の中でこう言いたいと思います。

「みんなすげーし、あなたもすげーよ」

オンラインでのインタビュー 笑顔で語ってくれた穴吹さん

関連動画

コロナ自粛に頑張る人たちを応援する動きは他にもあります。去年の年末には都内の商業施設を中心にあるポスターが貼り出されました。詳しくはこちらの動画をご覧ください。

  • 田淵奈央

    首都圏局

    田淵奈央

    2014年入局。松江局・おはよう日本を経て、2020年から首都圏局。人口減少問題や里親支援、新型コロナの医療現場などを取材。

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