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富士山登山鉄道って何? “ふもとから5合目までの路面電車“構想まとまる

  • 2021年2月12日

「富士山に路面電車」「往復運賃を1万円とした場合、およそ300万人が見込まれる」
2月8日のNHKニュースで、富士山登山鉄道の構想がまとまったことを報じたところ、「そんな計画が進んでいるの」という驚きの声のほか、賛否を含めた様々な意見が寄せられました。そこで地元のNHK甲府放送局で取材を続けている記者が、計画の詳細と背景、そして課題を詳しく解説します。
(甲府放送局/記者 小暮 大祐)

検討会で構想の全体像明らかに

この構想の全体像が明らかになったのは、2月8日。有識者などで構成する山梨県の検討会が開かれ、構想案が原案通り可決されたのです。以下、構想の主な内容です。

ふもとから5合目まで 次世代型路面電車で

黄色で示したのが「富士スバルライン」

まず、アクセスの方法です。現在、5合目までは歩いてもいけますが、県の有料道路「富士スバルライン」を使い、自動車やバスなどで行くことができます。構想では環境や景観面、それに緊急時に車の通行が可能なことなどからこの「富士スバルライン」上にLRT=次世代型路面電車を走らせることが最も優位性が高いとしています。また、「富士スバルライン」上に敷設することで新たに今の自然を破壊せずに路面を改修するなどして済むとしていて、景観への影響も考慮し、架線を使わない方式を検討しています。

所要時間は

所要時間の試算としてはふもとから5合目までの上りは約52分、5合目からふもとまでの下りは約74分と見込んでいます。そして、登山鉄道の整備に必要な経費については「現時点では積算が困難な項目があり、精査が必要」としたうえで、概算として約1400億円としています。

利用者の試算 往復1万円で年間約300万人

構想では利用者数の試算も行っています。アンケート調査をもとに、往復運賃を1万円とした場合には年間およそ300万人、2万円とした場合には年間およそ100万人と見込んでいます。往復運賃の水準を1万円とした理由については、国内の代表的な山岳観光地である立山黒部アルペンルートを参考に、2万円とした理由については海外の登山鉄道を参考にしたとしています。

これが計画の概要です

“富士山に鉄道”  構想浮上の背景

今回の構想がまとまった背景には、世界遺産・富士山が抱える課題、「来訪者の急増」があります。去年は新型コロナウイルスの影響で夏山シーズンでは登山道が閉鎖される事態になりましたが、近年、富士山5合目を訪れる人が急増していて、2019年は世界遺産登録前の2012年と比べて約2点2倍の506万人となっています。

5合目付近で駐車場に入るために列を作る乗用車(2013年)

2013年にユネスコの諮問機関イコモスは、「登山者が増えれば、富士山の文化遺産としての価値などが損なわれるおそれがある」として登山者の管理などを求めています。さらに、2019年の山梨県知事選挙で長崎幸太郎知事が公約として掲げ、当選したこともあり、実現に向けて一気に動き出しました。山梨県は具体的な検討を行うため構想の検討会を設置し、およそ1年半をかけて議論を進めてきたのです。

狙いは地域全体の高付加価値化

構想の中で、試算として使われた金額を「高い」と感じる人もいるでしょうが、山梨県側にはある思いがあります。それが「富士山観光の高付加価値化」です。
長崎知事は富士山観光について「すし詰め状態で押しかける形はいずれ消費されつくしてしまう」と危機感を示し、「これまでは数を頼りにした、いわば薄利多売のビジネスモデルだったが、富士山を上質な観光地に変えていくことが求められている。富士山をはじめこの地域全体の高付加価値化を進めていきたい」と語っています。

つまり、この構想の実現を通じて富士山の価値を守るため来訪者の数の一定水準に抑えつつ、観光客1人あたりの観光消費額を高めることを狙っているのです。

山積する課題

一方、構想の実現に向けては課題が山積しています。
県の担当者も「相当、大きな課題がたくさんあることがわかってきた」と話すほどで、検討会で示された構想案でも「検討が必要な課題」に多くのページがさかれています。

例えば以下のような課題です。

▼誰が事業を運営するのか
▼官民の役割分担をどう整理するのか
▼技術的な安全性はクリアできるのか
▼雪崩や落石、凍結などの場合、安全運行に支障はないのか
▼世界文化遺産として価値を損なわずにいかに計画を進めるのか
▼富士山噴火に備え、どう避難体制を整備するか

構想めぐっては賛否も

この構想について検討会では去年12月の会合で地元の意見を紹介しています。

「自然保護と観光の両立を図る良いきっかけになる」「厳冬期も観光資源になる」など、県側は多くは好意的な意見だったとしています。
その一方で地元に構想に批判的な声があるのも確かです。富士吉田市の堀内茂市長は構想がまとまった直後の2月10日の会見で「環境負荷を減らすというが、マイカー規制などで十分対処できる。富士山は信仰の山で傷つけたくない。地元にとって必要性を感じていない」などと述べ、反対の立場を示しています。

今後の行方は? あえて目標時期示さず

今後、構想はどのように進んでいくのか。
2月8日の検討会の総会では今後、財政や建設面などの課題ごとに実務者ベースで分科会などを設け、検討を進めていくべきという意見が出されました。総会のあと、長崎知事は「構想案がようやくまとまったことで、地元に説明する出発点に立てたと思っている」と述べ、今後、静岡県側も含め富士山周辺の市町村長や関係団体に説明し、意見を聞くことにしています。
また、構想の中には実現の目標時期については盛り込まれていません。その理由について県の担当者は「地元と対話をしながら慎重に進める必要があると考え、あえて目標時期は掲げていない」と説明しています。
今後、示された課題をどうクリアし、地元の理解を得ていくのか。ようやく構想の共通のイメージはできましたが、実現に向けては多くの“宿題”が残されていて、まだまだ議論は長く続きそうです。

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