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ワインと花火志す山梨の若者 コロナ禍の思い込めた打ち上げ花火

  • 2021年2月10日

この冬、山梨県の甲府盆地の夜空に1500発の花火が打ち上がりました。花火には、新型コロナウイルスによって将来の夢に向けた歩みを一時的に中断せざるを得なくなった2人の若者の、ワインと花火づくり、そして地域への思いが込められていました。
(甲府放送局/記者 青柳健吾)

道半ばでの帰郷 ワインと花火を志す2人

「フランスにいる間、(山梨の)父や母と電話で家族会議を毎晩繰り返していました。大学院も願書も出して、あとは学校に行くだけだよっていうところまでいっていたのですが、最後まで修業を続けることができず、中途半端で終わってしまい、本当に悔しい」

こう語るのは、ワインの生産が日本一盛んな山梨県甲州市で昭和13年から続く老舗醸造所の4代目、内田圭哉さん(26)です。

大学卒業後、本場でワイン造りを学ぼうと、2017年12月、フランスに渡航。ブルゴーニュ地方のワイナリーとワインの専門学校で学び、醸造や栽培の責任者ができるフランスの国家資格を取得しました。
さらにワインの醸造技術を身につけようと現地の大学院に進学しようとしていたやさき、新型コロナウイルスの感染が世界的に広がり始めました。

その影響は、山梨県の内田さんの実家にも及びました。
甲州市内のワイナリーは観光客が激減。フランスにいる内田さんのもとに「戻ってきてほしい」と連絡があり去年8月、帰国を余儀なくされたのです。

「家の前に旧甲州街道が通っているんですけど、通常であれば8月の観光シーズンは、車がひっきりなしに走っているような状況ですけど、今年はバスが1台も見当たらなくって、自家用車もほとんど走っていない状況で、一体何が起こったんだっていうような状況でした」

親友との再会

減少したワインの売り上げをオンラインイベントなどで回復できないか、そう考えていた内田さんのもとに、幼なじみから連絡がありました。花火職人の山内祐一さん(26)です。

高校の卒業アルバムより

山内さんは明治元年から続く花火業者の5代目。内田さんとは中学・高校の同級生で、その後も交流を続けてきた親友です。実は山内さんも内田さんと同じ境遇にありました。

山内さんは一人前の花火職人になるため群馬県の業者に修業に出ていました。しかし、新型コロナウイルスの感染拡大で、花火大会が相次いで中止になり、修業先が休業してしまい、去年4月に実家に戻ってきていたのです。その実家も花火の仕事がなくなり、売り上げは例年の1割を切っていたといいます。

花火職人・山内祐一さん
「花火の打ち上げができていない状況で花火業界としては相当なダメージでした。先が見えない不安を感じました」

"いつもと違う地元“に募る思い

将来への歩みを途中で中断せざるを得なかった2人。しかし、それ以上にショックだったのは、感染の拡大で大好きな地元がすっかり活気を失っていることでした。

ワインと花火、どちらも地域とのつながりを大切にしなければ成り立たない仕事であることを留学先や修業先で学んでいただけに、地元のために何かできないかという思いが募ったといいます。

内田さん
「そもそもフランスに行ったのは、ワインがすごい地域に根付いていることを学んでこいよっていう父の願いでもありました。山梨でも、周りの農家さんもレストランさんもそうですし、うちだけが良くなってもこれは続くことではないので、周りを盛り上げていけるようなことが何かできないかっていうのはずっと考えていました」

地元に再び活気を

「自分たちができることでなんとか地元を元気づけたい」

ワイナリーにも花火大会にも人が呼びにくい状況で、2人が思いついたのが、ワインの販売と花火イベントの連動でした。内田さんが作ったワインに山内さんの花火の写真をラベルにして貼り販売。この売り上げを花火の打ち上げにあてようというのです。そして、このイベントを通してワインと花火それぞれのファンに、もうひとつの山梨の魅力を知ってもらい、感染の終息後に訪れてもらうきっかけにしたいと考えたのです。

花火職人・山内祐一さん
「つながり、サイクルじゃないですが、観光地はみんなつながっているので、その循環を活性化する起爆剤となればうれしいなという思いです」

ただ、本業が苦しい中、イベントのための資金が十分にある訳ではありません。そのためクラウドファンディングで出資者を募りました。ワインボトルにラベルを貼る作業も自分たちの手で行いました。

こうした中、新型コロナウイルスで打撃を受けている経営者などの中から賛同してくれる人が現れました。山梨県を代表する温泉地「石和温泉」の旅館もそのひとつです。

「当館も4月、5月は休館してお客さんゼロの状態でした。そういった中で若い2人が地域を活性化させようということで、本当に共感しました。やっぱり地域が面白くないとお客さんも来ないんです。そういったところで、できるだけ協力したいと思いました」

ワインと花火という異色のコラボイベントは、評判となりおよそ2か月でイベントを開催するのに十分な資金280万円あまりが集まりました。

夜空を彩る思い込めた花火

そして去年12月、花火イベントの当日がやってきました。
感染拡大防止のため出資者に対してはオンラインでの配信を行いました。出資者以外には完全なサプライズです。

オンラインで配信する内田さん

花火には、コロナ禍で暮らす人たちへのさまざまなメッセージを込めました。

甲府盆地の夜空を1500発の花火が彩りました。
打ち上げを終えた2人はほっとした表情で達成感を感じているようでした。

山内さん
「本当に花火を上げるチャンスにめぐまれなかった1年でね、こうやってもどってくることになっちゃいましたけど、その中で、自分たちにできることをできたってこと、安心です。というかうれしいです。いままでの花火大会で1番うれしいかもしれないです」

内田さん
「正直不安がいっぱいで、最後にどうなるのかなって思いましたが、本当に成功してよかったと思っています。コロナを乗りきって山梨の地域産業もよりよくなっていくために、改めてがんばろうという気持ちになりました」

続くコロナ禍 “手を止めたら技術が落ちる”

秋から取り組んだ花火イベントは成功裏に終わりました。しかし、それから1か月あまりたった今も、新型コロナウイルスによる先行きの不透明感は残ったままです。

内田さんは、フランスに戻れるのかどうかまだ分かりません。そうした中でも、イベントで撮影した、山内さんの花火をラベルにしたオリジナルワインの販売を始めるなど、実家のワイナリーを盛りたてるためにアイデアを考えて、ほとんど休みなく働いているといいます。

花火職人の山内さんも修業先の群馬県に住む家も借りたままですが、帰る見通しはたっていません。全国の知り合いの花火業者の中には、仕事がないため従業員がアルバイトをしている業者もあると聞いているということです。こうした中でも、「手を止めたら技術が落ちる」との修行先の師匠の教えを信じて、実家の工場で、さらなる技術向上に向けて花火作りを続けています。

取材中、2人はいま置かれている状況について口をそろえて、「いまの経験は人生にとってプラスになっている。今回の経験がなければ人や地元とのつながりや応援への感謝の気持ちを感じることができなかった」と話していました。

約2か月にわたる取材で、2人の自らを育んでくれた地元への愛着と、今度はそうした地元を「自分たちが次の世代につなげていく責任がある」と力強く話していたことが印象に残りました。

  • 青柳 健吾

    記者

    青柳 健吾

    H29年入局。入局後、警察・司法を担当し、現在は経済分野を担当。

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