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コロナ 病床ひっ迫の隠れた理由 “自宅に戻れない患者”の行き先がない

  • 2021年2月2日

新型コロナウイルスに感染しても入院できない人が増えていますが、その理由は、重症患者が増えてなかなかベッドが空かないからというだけではありません。症状が落ち着いた回復者が、退院できずにコロナ患者の専用病床を使い続けなくてはならない現状があるからです。
(首都圏局/記者 石川由季・ディレクター 柳田理央子)

コロナ回復も すぐには自宅に戻れない患者が

新型コロナ病床がひっ迫し入院できない人が急増している背景には重症患者の増加が大きな原因としてあげられますが、「別の要因もある」と指摘するのが墨田区保健所の西塚至所長です。

西塚所長によると、一定期間入院していると筋力が衰えたりして、コロナが回復してもすぐに自宅に戻ることが難しく、リハビリなどが必要な患者がいます。そうした患者が、退院できずに少ない重症や中等症のベッドの一部を埋めている実情があるといいます。

どういうことなのでしょうか。

国は、新型コロナの症状が出た患者の退院基準について次のように定めています。

(1)発症日から10日間経過し、かつ症状が軽快したあと72時間以上経過した場合
(2)症状が軽快し24時間経過したあと、24時間以上間隔をあけ、2回のPCR検査で陰性を確認できた場合

この基準を超えると感染の可能性は極めて低くなるとして、保健所も自宅療養をする人などに対し、この基準をクリアすれば日常生活に戻っていいと伝えています。

コロナ専門病床がある病院では、ベッドを空けて新たなコロナの患者に対応するため、この基準に沿って、コロナ専門病床のない別の病院などで回復者を受け入れてくれないか、転院先を探すのですが、なかなかうまくいかない現実があるそうです。

受け入れてもらえない背景には、国の基準が正しく理解されていないケースや、院内感染を恐れる医療機関側の懸念があるといいます。

墨田区保健所 西塚所長
「転院先の候補となる医療機関などでは、回復者を受け入れるかどうかの内部協議に時間がかかったり、PCR検査で陰性になることを求めてきたりするところもあります。退院基準を満たしていても地域に受け皿がなく調整に時間がかかっています」

“地域完結型”医療体制 墨田区モデルとは

こうした状況を踏まえ、墨田区は新たに「地域完結型」の医療体制の構築に取り組み始めています。
1人の患者を1つの病院でケアし続けるこれまでの「病院完結型」に変わって、地域の中で新型コロナの回復者を受け入れる”後方病床”の確保を進めるものです。

これまで、症状が悪化した人をより高度な医療機関に転院させる「上り」の体制の整備には力が入れられてきましたが、墨田区モデルは「下り」の支援も進めようというものです。

取り組みに賛同した医療機関には、コロナ回復者を受け入れる後方病床を2床以上用意してもらいます。

国の退院基準を共通認識にした上で、クリアした回復者の転院は原則断らないというルールのもとで運用されます。賛同した医療機関には、区が1000万円の補助金を支払います。

区内の感染症指定医療機関などから回復者をスムーズに転院させることで、転院調整の負担は軽減され、コロナ病床が空くことで、新たな重症や中等症の患者の受け入れを進めることにもつながります。

行政と病院同士の協力が鍵

この墨田区モデルを進めるために欠かせないのが、地域の医療機関との協力です。

区では去年7月以降、区内の医療機関と毎週、新型コロナの感染拡大の状況を会議で共有してきました。こうした連携があったことから、協力を得ることができたといいます。

区内の医療機関とWEB会議で状況を共有してきた

さらに区は、退院基準を満たしたあとは、特別な対応は不要だという専門家の意見を添えた書面を用意したほか、実際にコロナの患者が入院している病院でも、退院基準を満たした人については防護服などもなく通常の看護を行っているなど、不安や疑問を解消してもらえるよう最新の情報を丁寧に説明しました。

こうした取り組みを経て、回復者の受け入れを始めることを決めた墨田中央病院の小嶋邦昭院長は、受け入れの懸念について「当初はあった」と答えた上で、こう述べました。

墨田中央病院 小嶋邦昭院長
「私たち医療者がコロナに感染したり広げてしまったりすると、コロナに対する闘いの足を引っ張ることになる。絶対にそういう危険がないようにしていこうという思いが1番あった。でも、コロナの対応は1つの病院だけでは無理で、地域一丸となってやらないと打ち勝てない状況になっている」

”必要なものはお金だけではない”墨田区モデル発信へ

新たな取り組みは、1月の区議会の緊急議会で補正予算案が可決され、いよいよ本格的に始まることとなりました。

まず7つの医療機関が17床の後方病床を用意し、スタートして最初の1週間で7人が転院することができました。

墨田区保健所 西塚所長
「お金だけ出せば新たな体制が回る、というものではないことを感じています。WEB会議を通じて、重症化してもすぐに入院に結びつかなかった人がいるなどの厳しい現状を共有し、地域が一丸となって、なんとかしなければならないという価値観を共有できているからこそ始められた取り組みです。このモデルを積極的に発信していきたい」

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