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コロナ最前線の医師が語る本音「ウイルスは“静かな殺し屋”」

~負けられない闘いに揺れる現場~
  • 2021年1月29日

“静かな殺し屋”
日々、患者に向き合う感染症の臨床医は、新型コロナウイルスをこう表現しました。新型コロナの治療の最前線、埼玉医科大学総合医療センターの医師への取材を始めて2か月。その中で聞いた医師の本音のことばです。
医療現場の疲弊、限界の状態で迫られる選択、望ましい医療とは何か。課題に直面する現場の医師の声です。
(首都圏局/記者 古市駿)

減らない重症患者 現場の疲労は限界に

埼玉県川越市にある埼玉医科大学総合医療センターの岡秀昭医師、45歳。感染症の専門医として15年のキャリアを持ち、新型コロナと闘う最前線の医療現場を取り仕切る岡医師に、私は2か月間、取材を行ってきました。

岡秀昭 医師

この病院の現在の状況は、人工呼吸器などの集中治療を行うICUでは、4床のうち3床は常に埋まり、残る1床は入院中の患者が重症化した場合に備えて空けておくため、実質満床の状態が続いています。ほかにも本人や家族の希望で人工呼吸器をつけず、投薬治療などで対応している重症患者が3人から4人います。 

現在の医療スタッフの人員からみると、重症患者への対応は4人程度が適正ですが、去年12月下旬以降、常に5人から7人ほどの対応が続いている状態で、スタッフの疲労は限界に達しているといいます。

また、重症患者のほとんどは、高齢者や基礎疾患がある重症化リスクの高い患者で、なかには認知症や人工透析が必要な患者もいるため、スタッフは本来の感染症以外の対応にも追われています。スタッフを率いてコロナ治療の最前線に立ち続ける岡医師に聞きました。

 ― 厳しい状況が続く中で現場も疲弊しているのではないですか。

岡 医師
肉体疲労がないと言ったらうそになりますね。患者さんが増えると慌てたりするし集中力も下がってしまい、普段起きないようなミスが起きてしまうこともある。やっぱり寝不足だと僕もいつもと同じようには対処できない。それは医療に限らずですよね。スタッフは週1回確実に休めるように調整していますが、単なる肉体疲労だけに留まらず、精神的な疲労もあるので、週1回の休みだけでは疲れは回復しないですね。

これは皆さんと同じだと思うんですけど、僕たちもふだんは仕事から離れたときに、職場のスタッフのみんなと月1回くらいは食事会をしていたんですけど、もう1年くらいしていない。スタッフはそれぞれのプライベードでもなかなかストレス発散ができないのではないか。僕たち医療従事者は模範を示さなきゃいけないから。感染症科の医者が率先してやらなかったら、説得力がないと思うので。

限られた医療資源 “治療の撤退” 苦渋の決断も

  ― 現在の感染状況が続いた場合、現場はどう対処するのでしょうか。

岡 医師
援軍が来てくれるかどうかですね。僕はいま、最前線に残された部隊を任されている感じですよ。いま、敵(新型コロナ)が大軍で攻めてきて、このままだと部隊(医療スタッフ)は全滅するぞとなったときに、援軍が来てくれなかったら僕はどうするか。部隊を守らなきゃいけないからね。みんなを守るために逃げるかもしれない。あるいは目の前の敵に“できる範囲”で対処しながらみんなを守らないといけない。自分の部隊が全滅したらそのあとの医療ができなくなるから。

 ― “できる範囲”の医療とはどういったことを指しているのでしょうか。

岡 医師
正直、優先順位っていうのはある。先日、ICUにいた患者3人のうち1人の患者について、実は僕は助からないと思っていた。だけど、スタッフからすると、まだ助かるはずだっていうのもあるし、あきらめていない先生もいると思う。でも僕はスタッフの人数を考えたときに、そこで闘うよりは他で闘うほうがいいのではないかと思った。申し訳ないけれど。その患者さんはトリアージをしたならば“救命困難”にあたると思った。

もしかしたら奇跡が起きるかもしれないけれども、救命できる可能性が非常に低いので、そこに注力すると、本来であれば助けられる人の治療成績が落ちる可能性がある。ただでさえ、みんな疲労しきっているから。なので、辛いけれど撤退しようと、苦しいけれど。投薬治療などやれることをやって。

つまりどの段階であきらめるか。患者の状態、そしてスタッフみんなの疲労度やいまの医療の資源、いろんなものを勘案しながら判断しないといけないんじゃないかなと思います。治療の撤退って辛いです。イケイケの方が簡単ですよ。助けよう助けよう、全力でやれって、そっちの方が指示は簡単ですよね。

 ― 残念ながら「撤退」となれば、その後、どのような治療になるのでしょうか。 

岡 医師
病棟には90代の高齢の患者が2人いますが、きょう、2人のリハビリを中止したのはまさにそれにあたります。あの2人に対し、僕たちはできる限りの治療をしました。僕たちの知識、経験の範囲で出し尽くした感じがあります。それにも関わらず、残念ながら改善しなかった。おそらくこのまま看取りになる可能性が高いと思います。今、私たちの目標は、あの2人ができるだけ苦痛のない最期を迎えられるように支援していくこと。患者さんの命を徹底的に助けるだけが医療じゃないと思うんですよね。

人間、最期は死ぬ。僕もそうだし。そういうときに希望するような最期を迎えられる支援をするということも僕らの仕事だと思うんです。治せない病気ってやっぱりある。でも苦しませたくはない、痛みをやわらげる、不安をとってあげる。それも治療だと思います。

そういう人にリハビリを強要する必要はない。筋肉を動かすリハビリは患者さんにとっては苦しいことかもしれないですよね。一方で、病院から家に帰るためにリハビリが必要な人たちがたくさんいて、リハビリの技師が足りない。これは僕たち医師が話し合ってもう少し早く中止すべきだったと思います。

その患者さんが何を求めているか。なんでもかんでも全て命を助けるというのが医療のゴールではないと思います。ゴールを決めなきゃいけない。そのゴールにあわせて、逆算して治療するプランを立てていく必要がありますね。

”静かな殺し屋”  闘いは持久戦の局面から…

 ― いま、最も不安なことは何ですか。

岡 医師
僕の立場で一番の不安は、コロナの診療をしているスタッフがみんな抜けていってしまうということですかね。本当に心からそう思います。自分が感染して重くなる不安より、現状の労働環境だから、この状況が長く続くと離職者が出てくるのではないかと。1人では医療はできない、スタッフみんながいてくれて、一緒に対応するからいろいろな不安も軽減される。だからこそ、やはりスタッフの労働環境を守りたいと思うんです。

以前は、笑顔もあって和気あいあいとして、職場は明るかった。今も、みんな明るく努めてくれているんだけど、最近ちょっと元気なくなってきたかな。看護師さんも顔色悪いなと思うことがあるし。僕自身も、この前、心臓に不調が出てしまい、体力には自信があったんだけど急に自信がなくなっちゃいましたね。でもたぶん、自分がつらい以上に、部下のスタッフはつらいと思う。それに患者もつらい。

正直、持久戦というか、もう消耗期に来てしまっている。笑顔が消えつつある。だから、仲間が減っていかないかがとても不安。そうならないようになんとかしようとは思っているんだけど、なんだかこのコロナの勢いが強くて…。

 ― 改めて、この新型コロナウイルスにはどんな印象をもっていますか。

岡 医師
このウイルスは非常にずる賢いというか、静かに賢いという印象ですね。“静かな殺し屋”だと思っています。

ウイルスは凶暴だったら広がらない。感染した人がすぐに死んでしまったら、ウイルスは広がらないんです。ウイルスも生き物だから子孫を残したい。そういう意味では、人がすぐに死に至るほどは重くない方がいいんですね。

でもこの新型コロナウイルスは最初、風邪みたいに安心させておいて、若い人を使ってウイルスを感染拡大させていく。そして1週間くらいして、息苦しくないのに、ふっと呼吸不全になってしまう。つまり人工呼吸器が必要な人が増える。それで、50、60、70歳の人たちを、年齢や持病があればあるだけ、重症化する確率をあげて、そのなかで一部の人が亡くなってしまうのです。

ありがとうの言葉 そして患者の救命が心の支えに

 ― 厳しい状況のなかで、スタッフはどのようにモチベーションを保っているのですか。

岡 医師
僕たちが新型コロナへの対応をすることによって、そのほかの医療が守られているというプライドはあるよね。

心ある人は『先生達がやってくれているから自分の専門診療に集中できる』『ありがとう』と言ってくれる。看護部の人たちも『先生達がいてくれるおかげで助かるよ』『いなかったらぞっとするよ』って。別に感謝してもらうためにやっているわけじゃないけれど、言葉をもらえるとね、うちのスタッフも頑張れるんじゃないですかね。

正直、決してやりたい仕事ではない。でも、やりたくない仕事をやっている人たちがいる。それを当たり前だと思ってしまっては、そういう仕事をやる人がいなくなっちゃうんじゃないかって思いますけどね。

 ― 取材を通して、現場では重症患者の状態がわずかでも上向いた時など、患者さんのささいな状態の変化に一喜一憂しているスタッフの姿が印象的でした。

岡 医師
辛い話ばっかりになっちゃいましたけど、いいところを見てくれましたね。コロナ医療の一番のやりがいはそこですよね。最重症の人工呼吸器の方が救命できて、先週も病棟に行くと、まだ歩けないけど助かったって患者さんが笑ってくれてね。あの瞬間はみんな頑張った甲斐があるなというところですよね。たぶんこの医療をやっていて、一番うれしい瞬間は間違いなくあの瞬間でしょうね。まあ、さっきね、命を助けるだけが医療じゃないとは言ったけれど、やっぱり命が助かるとうれしいですよ。

1月29日(金)午後7時半からの「首都圏情報 ネタドリ!」では、重症患者用の病床がひっ迫している現場のひとつ「埼玉医科大学総合医療センター」の長期取材を通じて見えた課題をお伝えします。ゲストは新型コロナに感染した経験がある元プロ野球監督の梨田昌孝さんです。

※再放送は30日(土)午前10時55分からの予定

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