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コロナで40度の熱でも入院できない 介護施設の苦悩

  • 2021年1月26日

「ここは、“コロナ病院”じゃないんです」
ガウンに身を包んだ看護師が訴えるのは、クラスターが発生した介護施設の窮状です。高齢の利用者が新型コロナウイルスに感染し、40度の高熱を出しても病院に入院できず、施設でケアし続けることもあったと言います。常駐する医師はおらず、十分な医療設備もない中で、命を守りきることができるのか。不安を抱える現場からの声を伝えます。
(首都圏局/記者 石川由季)

病床ひっ迫で介護施設での療養続く「実態知ってほしい」

新型コロナに感染しても、病床のひっ迫で入院できない人が増えています。都内の介護施設でも、感染した利用者の入院先が見つからず施設内での療養を余儀なくされるケースが出ています。

こうした中、取材に応じてくれたのが、葛飾区の介護施設です。施設の運営会社の木本明恵看護部長はリモートインタビューで、介護施設の現場の実態を知ってほしいと訴えました。

「いま医療現場も非常に難しくて大変な状況になっていますが、同じ病気の人たちを介護施設で見ているんだということを知ってほしいと思います。介護をするために働きにきてくれる職員たちが、慣れないことだらけの中で、本当にがんばってくれているんです」

無症状の利用者の感染判明 クラスターに

施設は、1階にデイサービスなどを行う施設、2階と3階に、定員が18人の認知症のグループホームがあります。

葛飾区などに取材すると、この施設で最初に感染が確認されたのは、1階のデイサービスの利用者です。家族の陽性が判明したため検査したところ、無症状でしたが、感染が確認されました。

その後、1階だけでなくグループホームの利用者の感染も次々に明らかになり、利用者は26日までに16人の感染が確認されました。区は、クラスターが発生したとしています。
このうち10人を超える人はすぐに入院ができず、調整が続けられる状態となりました。今は症状が改善した人もいますが、多くが施設での療養を余儀なくされたのです。

40度でも入院できず… 施設でのケア続く

日々、状況は悪化していきました。 
今月21日にはこれまで無症状だった利用者の体温が39度近くまで上がり、かけつけた地域の病院の医師からは入院すべき状態だと説明を受け、保健所に相談しましたが入院はできませんでした。

さらに翌22日には、これまで2度のPCR検査で陰性だった利用者の体温が40度まで上がります。酸素飽和度も80%を切ったため救急車を要請。病院探しにも1時間ほどかかり搬送先の検査で、新型コロナへの感染が分かりました。しかし、それでもベッドに空きはなく、入院はできず施設へと帰ることになりました。

幸い大ごとには至っていませんが、ひっ迫する医療現場の影響は、そのまま介護の現場の大きな負担につながっているのです。

急変への不安「きのうときょうの状態が全く違う恐怖」

この介護施設には、医師が常駐していないのはもちろん、看護師も今は木本さんしかいません。症状が悪化した場合などは地域の病院の医師に往診を依頼しますが、ふだんは介護職員を中心に、感染者への対応にあたらないといけないのです。

感染した利用者の中には、基礎疾患のある高齢者も多くいます。
自分たちだけで、利用者の命を守ることができるのか…。常に容態の急変への不安を抱えていると言います。

木本明恵 看護部長
「きのうときょうの状態が全く違うことがあるたびに恐怖を感じています。医療の設備がない施設で、医療を必要とする人を見なければならない厳しさがあって、介護職だけで対応する負担感は大きいです。介護施設で療養していると聞くと、自宅療養とは違って、何か特別に安心できる場にいるんでしょっていうふうに思われてしまいがちですが、実際に利用者が急変したときは、まず協力してくれる医師に連絡し、あとは救急車を呼ぶしかすべがないです」

「密着」する介護 感染への不安を感じながら

さらに介護職員たちの精神的な負担となっているのは、自ら感染することへの不安です。実際、この施設では職員9人の感染もわかっています。

高齢者の介護では、利用者と体を密着せざるを得ないことも多くなります。

木本さんから送られてきた動画には、1人で歩くことが難しい高齢者に寄り添いながら職員がいっしょに手を洗う様子が映っていました。

感染を広げないために、こまめに手洗いをしているそうですが、こうした場面でも、利用者によっては密着しなければなりません。

特に不安なのが、食事の介助だと言います。利用者がマスクを外すためです。介護には欠かせない動作のひとつひとつに、いつも以上に気を使うといいます。

「食事の介助をしているときに急にむせこんでくる人もいらっしゃいます。また、認知機能や身体機能の低下で日常生活でもマスクをつけるのが難しい人もいます。『自分が感染して、大切な家族にうつしてしまったらどうしよう』という不安を抱えながら働いています」

心の葛藤 それでも介護のプロとして働く

木本さんは、時に不安や弱音を漏らすこともある介護職員たちが、利用者たちの前ではふだんと変わらずケアにあたっている様子を日々、目にすると言います。

「内心は不安もすごくあるんだけれども、いざ介護に入ったときにはやはりみんなプロになっているんですよ。利用者を第一に、介助が必要な方にはしっかりと手を添えて、体を全部使いながら、介護をしています。帰り際、自宅にウイルスを持ち込まないよう消毒を徹底的にやっている姿を見ると、なんとも言えない気持ちになるんです」

プロとして、ぎりぎりの状態で働き続ける介護職員たち。
木本さんは、保健所のひっ迫も、医療機関の大変さも十分に理解しているとした上で、それでもさまざまな支援策やワクチン接種の優先順位などが病院などよりも下になっていることに、もどかしさを感じていると言います。

「病院は満床という理由で受け入れを断れますが、私たちには断る理由もないし、施設で暮らす高齢の利用者には帰る場所もありません。なんとか感染した利用者さんが以前のように元気になってもらうことを願いながら、みな必死で働いています」

高齢者の命を守るためには

私たち記者のもとには、日々、介護施設での感染者の発生について知らせるプレスリリースが届けられます。そうした施設で過ごす認知症の高齢者はマスクを付けられない場合もあり、自治体の担当者からも対策の難しさを訴える声が聞こえます。

病床のひっ迫がすぐには解決しない状況のなか、施設療養者をこれ以上増やさず、新型コロナの脅威から高齢者の命を守るためには、何よりも感染拡大を止めることが必要だということを改めて感じました。

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