WEBリポート
  1. NHK
  2. ちかさとナビ
  3. WEBリポート
  4. 歩道をキャンバスに!高校生がペンキまみれで得たものは?

歩道をキャンバスに!高校生がペンキまみれで得たものは?

  • 2021年1月25日

女子高校生が、手袋やつなぎに緑のペンキをつけながら楽しそうに描いているのはブロッコリー。その向こうには赤いウインナーや白いごはんも。実は、歩道をキャンバスに見立ててお弁当を描いているのです。
「歩道を歩いて見た人が元気になってほしい!」
そう考えた高校生たちによるアイデアですが、およそ1か月の作業を通じて、コロナ禍で失われがちな人とつながることの大切さも見直しました。
千葉局/カメラマン 高橋大輔

お弁当が描かれた歩道はどこに?

絵が描かれたのは、千葉県多古町の道の駅に通じる歩道。レンコンや鮭、トマトににんじんなどおいしそうなお弁当が幅1.9メートル、長さ60メートルにわたって描かれています。

この絵の制作は、道の駅と駐車場を隔てる国道の危険な横断があとを絶たないことから、う回する歩道の利用を促すために描いてほしいと、道の駅から地元の多古高校美術部に寄せられたことがきっかけでした。

新型コロナの影響で学外活動を自粛してきた美術部の5人にとっては、願ってもない大きなチャンス。でもあまりに大きなキャンバスに何の絵を描けばいいのやら、最初は戸惑ったそうです。カメラマンの私は、およそ1か月にわたる制作を、レンズを通して見つめてきました。

町特産のお米を敷き詰めた道におかずを描いてみれば?

まずは、何を描くのかを決める話し合いが行われました。
ただでさえ顔を合わせる機会が減りコミュニケーション不足の部員たちは、美術室に集まりますが、テーマがなかなか定まりません。議論が進むきっかけとなったのは、1年生の彩夏さんの発言でした。

「多古町はお米が有名だから、お米を敷き詰めたご飯の道にして、おかずとか描いてみれば」

彩夏さん

もともと絵を描くことが好きだった彩夏さんですが、美術部に入ったのは去年の秋。同級生や先輩たちと早く仲良くなりたいと思いつつ、新しい環境で少し緊張していました。だからこそ思い切って提案したそうで、「自分のアイデアがみんなに受け入れられて、とてもうれしかった」と話していました。

制作開始

12月に入り空気もぐっと冷え込む中、彩夏さんたちは町役場の人やプロの芸術家たちのサポートを受けながら、ペンキにはけという慣れない画材で絵を描きはじめました。しかし、去年春から思うように活動ができなかったうえに、みんなで協力してひとつの絵を描くのも初めての経験。はじめはお互いの動きをちらちら見ながら、あまりおしゃべりもせず黙々とはけを走らせていました。

生徒たちはみんな、ペンキの缶が置いてある場所を何度も行き来しています。大きな絵だからたくさんのペンキを使うのかなと思いきや、よく見ると自分の担当の具材の場所に戻るたびに、手元のペンキの色が微妙に変化しています。

タコさんウインナー担当の2年生の平野さんは、赤色に微量の茶色を混ぜていました。これは少し焦げた感じを出すための色作りだそうで、実際に色を重ねていくとタコさんウインナーがどんどんおいしそうになっていきました。

たこウインナー担当の平野さん

一方、卵焼きを描いていた生徒はなんだか納得のいかない表情。何度も黄色に他の色を混ぜる作業を繰り返しています。おいしそうに見える狙い通りの色を作るのは、なかなか難しいようです。

みんなで描くから、もっとうまく描ける

「先輩すごい!」

先輩の作業を間近で目にし、彩夏さんも刺激を受けました。自分の担当するブロッコリーをおいしそうに描こうと、緑に濃淡や明暗の差をつける工夫に集中。明るめの緑を作るために黄色を混ぜたり、青を混ぜて暗めの緑色を作ってみたりと、微妙に違う緑色を作っては何度も塗り重ねます。

「このブロッコリーの茎、すごくかわいい!」

遠くで別のおかずを描いていた同級生が通りかかり、彩夏さんの絵を絶賛。タコウインナーの平野先輩も、彩夏さんがブロッコリーの質感を見事に描き出していることに感心しきり。そんな1つ1つのやりとりを通し、お互いの理解が深まり心の距離が近づきます。これまでの自粛期間を取り戻そうとするような、充実した時間が流れ始めました。

描いてみてわかった、ひとりじゃないってこと

近くを通りかかった人は、遠くからじっと見つめたり、「何を描いているの?」と話しかけたり、皆興味津々です。また、道具の準備から全面的にサポートしてくれた芸術家の人たち、とりまとめ役の町役場の人など毎日多くの人々と接しながら絵を描きました。お弁当の絵が完成するころ、彩夏さんが笑顔で話してくれました。

「人との関わりが楽しいなって思いました。最初はみんなちょっと他人行儀だったけど、同級生とも親密になれたし、先輩とも笑って話せるようになりました。プロの芸術家の人たちや、役場の人たちなど、ふだん接しない大人の人たちと話すことも学べたので、今回のすべてが次に生かせるいい経験になりました。同じようにまた大きな絵をみんなで描きたいなって、最初の頃はそんなこと思わなかったけど、描いてそう思えるようになりました」

取り戻したい 当たり前の学校生活

コロナ禍で、学校生活にも多くの場面で制限がかかっています。友達とのたわいもない会話や、時には切磋琢磨することなど、当たり前にできたことができない日々です。
今回、私は1か月にわたって美術部の生徒を見つめてきましたが、はじめはすこしぎこちない表情が、どんどん明るくなっていくその変化に驚かされました。多くの人と接しながら、仲間と力を合わせて何かを成し遂げること、学校生活で得られる大切な経験。食べられないけど味わい深いお弁当の絵からは、絵を描き上げた彩夏さんたちの充実感がひしひしと伝わってきます。
それだけに、このコロナ禍が1日も早く終わり、生徒たちのかけがえのない日常が戻ってくることを切に願います。

ページトップに戻る