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コロナ禍でベトナム人の“駆け込み寺”が苦境に

  • 2020年12月21日

「私もずいぶん疲れました。助けてあげたいという気持ちは山々ですが、本当に限界があります」こう語ったのは、コロナの影響で生活に困ったベトナム人が集まり、「駆け込み寺」となっている埼玉県内の寺の住職です。いわゆる第3波の影響もあって、いま寺に助けを求める人が急増。支援が長期化する中で、無料で食事と住まいを提供してきた寺も苦境に立たされています。
(さいたま局/記者 大西咲)

ベトナム人が暮らす「駆け込み寺」

多くのベトナム人が集まる埼玉県本庄市にある大恩寺。住職を務める在日ベトナム仏教信者会の会長のティック・タム・チーさんは、生活に困った人は断らずに、受け入れてきました。
コロナの影響で生活に行き詰まったベトナム人が、SNSなどを通じて次々と集まり、「駆け込み寺」となっています。

次の仕事が見つかるか、帰国するまでの間、寺で暮らしてもらい、食費や家賃などはすべて無料です。
これまでにおよそ600人を受け入れ、取材に行った今月中旬の時点で、およそ40人が寺の部屋などで共同生活を送っていました。

突然の契約終了 帰国もできず駆け込んだ

11月、大恩寺に駆け込んだベトナム人のファン・フィン・バオ・ニエンさん(29)です。日本語を学ぶため5年前に来日しました。都内の大学を卒業したあとは、就労ビザを取得し、介護施設や電子部品のメーカーなど、さまざまな仕事を経験しました。

この春からは、都内のスーパーマーケットで派遣社員として働いていました。客から「ありがとう」と言われることが何よりもうれしく、やりがいも感じていました。

しかし、先月1通のメールが届きました。
目に入ってきた「契約終了」の文字。11月末で契約が終了となったのです。

頼れる家族や親戚もおらず、帰国したいと考えましたが、コロナの影響でベトナムに帰る便は限られ、すべてチャーター便で、格安の航空チケットはありません。
都内のアパートの家賃も払えなくなり、寺に駆け込んだのです。

ファン・フィン・バオ・ニエンさん
「大学では経済を学び、スーパーでは、品出しとか入荷とか色々なことをやりました。契約終了は、突然のことでびっくりしました。日本で生活するのに、お金がないのは本当に辛い。ここでは家賃はかからないし、食べ物もいただけるので、本当にありがたいです。

コロナで生活に困るベトナム人が急増

ニエンさんのような人は、コロナ禍で急増しています。

厚生労働省によりますと、新型コロナウイルスの感染拡大で業績が悪化した企業などから解雇されたり、契約を更新されない「雇い止め」にされたりした人は、見込みも含め7万5000人を超えています。

大恩寺で暮らすベトナム人も、一時10人以下に減りましたが、“第3波”の影響で先月末からどんどん増え、先週だけでも15人が来ました。

大恩寺住職 ティック・タム・チーさん
「以前は行事や週末のときに集まるだけでした。しかしコロナで仕事がなくなる人も多く、住む場所がない、お金がない、そうなるとベトナムの人は、お寺がよりどころとなって相談しに来て、次々に集まるようになった」

水道・光熱費は20万円 以前の7倍に

この寺では、食事の準備も交代で行い、みんなで助け合いながら支え合っています。
集団生活でコロナの感染拡大を防ごうと、ご飯を食べるとき以外はマスクの着用を徹底。新しく来た人は、数日間テントで暮らしてもらい、発熱など異常がないか確認したうえ、共同生活を始めます。

「困った人の力になりたい」と、来る人は拒まないといいますが、寺の負担は膨れ上がっています。

コロナの影響が出る前は、水道と電気、ガスなどの光熱費は月に3万円ほどでした。
しかし、今はあわせて20万円以上と7倍ほどに増えました。
さらに、食費も合わせると、寺の負担は月40万円以上になるといいます。

寺では、各地のベトナム人などから寄付などを受けて運営していますが、支援を続けていくのも限界があると感じています。

大恩寺住職 ティック・タム・チーさん
「ベトナムから来た若い人たちは、日本に来てたくさん夢を持っていますので、できればたくさんの人を助けたいと思います。しかし、私もずいぶん疲れました。助けてあげたいという気持ちは山々ですが、自分も本当に限界があります」

気づきにくい外国人コミュニティー 支援の動きも

こうした苦境を助けようと、支援の動きも始まっています。

さいたま市にある食糧支援を行うフードバンク埼玉の永田信雄さん。永田さんたちは、12月6日、企業からの寄付などを通じて集めた、コメや缶詰などおよそ400キロの食料品を寺に届けました。

フードバンク埼玉では、これまで支援の対象は、主に生活が苦しい、日本人の家庭でした。外国人コミュニティーの問題は、気づきにくく、支援の手が回っていなかったと言います。
永田さんは、コロナの影響で大恩寺が困っているという話を知り、支援を行う必要があると考えるようになったといいます。

フードバンク埼玉 永田信雄さん
「これまでは、在住外国人の団体から、連絡待ちだったというか、受け身の姿勢だったと思います。同じ埼玉にいながらこんな大きな問題になっていたということを知ったので、連帯できるそういう仕組みを作らないといけないなと思っています」

永田さんたちのもとには、今回の寺だけでなく、難民として県内に住んでいるクルド人など、ほかの外国人グループからも支援を求める声が上がり、今後、支援を検討しています。

広がる支援で多くの人を助けたい

多くのベトナム人を受け入れてきたチーさん。ベトナム人どうしのコミュニティーだけでは限界があり、幅広く支援が受けられればと考えています。多くの人から支援を受けることで、より多くの人、さらにベトナム人以外も幅広く支援したいと考えています。

大恩寺住職 ティック・タム・チーさん
「コロナですから、大変なのは誰でも同じで、もちろん日本人の皆さんも大変です。日本に住んでる外国人の皆さんも大変です。みんな大変な状態ですが、できればたくさんの人を助けたいのです。ベトナム人だけでなくほかの国の留学生も支援したいです。また困っている日本人も支援したい。皆さんの力を借りて、もっともっと大きな活動をできると思います」

これまで日本で暮らす外国人たちは、同じ仲間のコミュニティーで支え合うことが多かったといいますが、コロナの影響が長期化する中、支援の輪を広げていかないと立ち行かない現実がありました。

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