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コロナで増えたウーバー配達員 “地蔵”と呼ばれるその陰で

コロナ禍のリアル6
  • 2020年12月11日

コロナ禍で急増したフードデリバリー。都市部では、「ウーバーイーツ」の配達員を目にしない日はありません。まるで地蔵のように動かずに注文を待っている姿から「ウーバー地蔵」という言葉まで生まれています。コロナの影響で自宅にいる人が増え、まさに“今の時代”に適合しているように思えますが、どのような人たちが運んでくれているか、想像したことはありますか?

(首都圏局/記者 山内拓磨、横浜局/記者 田中徳絵)

三茶に集まる”ウーバー地蔵”たち

東京・世田谷区の三軒茶屋。ファーストフード店の前には、ウーバーイーツなどのフードデリバリーの鞄を抱えた人たちが何人も集まっています。

数分すると、彼らのスマートフォンから「ピコン」という音が聞こえ、次々に店舗のカウンターへ。鞄に商品を入れて、颯爽と自転車で駈け出していきます。

そして、配達を終えると再び元の場所で次の注文がくるまで待機。
こうした配達員、“地蔵”と呼ばれています。ある配達員の男性が、「まるで地蔵のように動かずに同じ店で注文を待っているからだよ」と教えてくれました。

“地蔵”の人たちに声をかけてみると…

20代男性
「本業はIT関係ですが、コロナの影響で収入が減っているのでウーバーで補わないと」

40代男性
「ハローワークに行ってもコロナで仕事がほとんどないので、ウーバーならすぐに始められる」

ここにも、確実にコロナの影響が及んでいました。

コロナ禍で、フードデリバリーは急速に拡大しています。ウーバーイーツの日本の運営会社によると今年11月の時点で、今年3月末と比べると、サービスは13都府県から31都道府県へ、利用できる飲食店の数は2.4倍に増えて6万5000店を超えたといいます。

1件の配達で約500円の収入に 注文が相次ぐ=“数珠る”

クリスマスの装飾で華やぐ銀座の街を自転車で疾走する、鈴木優さん(41)。

高層マンションが建ち並び、注文が多く入るエリアでフードデリバリーをしています。

配達に使うのは、赤色のレンタル自転車。同じように見えて、いろいろな種類があるようで、できるだけ疲れにくくこぎやすいものを選びます。

午後2時半。準備を終えて注文を受けるアプリを立ち上げるとさっそく注文が入り、まず向かったのは2キロ先の飲食店。店舗で商品の料理を受け取ると、10分ほどかけて注文した人の家に到着。1件の配達でおよそ500円の収入になります。

注文を終えたとたん、スマートフォンからは次の配達を知らせる音が。この日は注文が相次ぎ、銀座から月島、豊洲、東雲へと南に向かっていきました。

鈴木さんが登録するフードデリバリーの会社では、配達を希望する人が増えるなどしたエリアには、アプリの地図上にもやがかかり、そのエリアでの配達料が上乗せされる仕組みがあります。この仕組みは「ブースト」と呼ばれ、都心部を中心に夜に出る傾向があるといいます。そのため、鈴木さんはブーストをつかもうと、この日も終電間際まで働きました。

ちなみに、注文が相次ぐことを「つながっていく」という意味で、仲間内では“数珠る”(じゅずる)と言うそうです。

これまでに印象に残った注文を聞いてみると、ポテト1個だけを注文する若い人や、住んでいるマンションの1階にあるコンビニからの配達を依頼する人がいるのだと教えてくれました。

「自分たちはアプリの延長なのかな」無言で目も合わさない客もいる

豊洲に着いたころには日が落ちて、気温も下がります。沿岸部に近づくにつれて、タワーマンションが目立つようになりました。「タワマン」の合間に吹く強く冷たい風に逆らうように、鈴木さんの自転車が抜けていきます。

「調子がいいとこんな感じですね。コロナが流行してからドア先に商品を置いて配達を完了できる“置き配”を希望する人が7割近いので、お客さんの顔を見ないことも多いかな」

コロナで外に出にくいからこそ、増える注文。鈴木さんは、顔を合わせない配達に慣れながらも、複雑な思いをすることもあると明かしてくれました。

「マンションのエントランスでオートロック越しに声をかけても、無言で解錠ボタンをカチャカチャカチャと押す音だけが響くことも多いです。“置き配”ではなく対面で注文された人の中にはドアが開いても無言のまま、目も合わさずに商品だけつかんで扉を閉める人もいます。狭いドアの隙間から手だけが伸びて、商品を指にひっかけてあげたらそのまま引き入れようとして料理が落ち、舌打ちをされたこともあります」

鈴木さんはくり返し、「会話してほしいと言っているわけではないんです」と言います。

「もちろんお客さんですし、すごく大事にされたいわけではないんですけど、ちょっと寂しいなと思うこともあります。届けているのは人でも、アプリの延長のような感覚なのかなと」

鈴木さんはこの日も、遅くまで仕事を続けました。

80歳の母を気にしながら“外”で働き続ける

鈴木さんの住まいは東京・東久留米市です。80歳の母親と、築50年の公営団地で2人暮らしをしています。高校を卒業してから働いていた運送業の仕事をやめ、去年からフードデリバリーの仕事を始めました。

主に配達するエリアにしている銀座までは、自宅から電車で移動して1時間あまり。
高齢の母親をコロナに感染させてはいけないと、帰宅したらすぐにマスクを熱湯で消毒して風呂に入るなど、出来る範囲で対応しながら、ほぼ毎日“外”での仕事を続けています。

リモートで仕事をしたり「巣ごもり生活」をできたりする、“内”にいる人たちをどう思うか、鈴木さんに尋ねました。

「僕はリモートでは成り立たない、体を使った外での仕事しかやったことがないしできないですから、うらやましいまでは思わないですけど『すごいなぁ』という感じですね。フードデリバリーはコロナ禍で必要なインフラになっているのかなとも思いますけど、自分の生活のために必死になっているというのが本音です。酔っ払ったおじさんに“お前は邪魔だ”と言われたり、世間の目線はニーズとは対照的に低いのかなと思います。少しだけでも、気にとめてもらえたら」

6歳の息子を育てるシングルマザーの配達員

コロナで仕事を失い、フードデリバリーを始めた人もいます。

神奈川県のエミさん(24・仮名)は6歳の息子を育てるシングルマザー。コロナの影響で勤めていたステーキ店が休業となって収入がなくなり、配達の仕事を始めました。日中は子どもを保育園に預けて働いています。

「保育園に子どもを預けて、昼間に働ける仕事といえばフードデリバリーしかないかなって考えて。お母さんとしても全力だし、仕事としても全力。どっちも大事です」

効率的にフードデリバリーの仕事を進めようと、ことし9月に小型バイクの免許を取得して仕事を始め、配達による収入は月に10万円ほどだといいます。

少しでも収入を増やそうと、近くに住む祖母に子どもを預けて、配達料の上積みが期待できる夜に働くこともあります。

“置き配”に紙ナプキンを敷いて お釣りは自宅で除菌

エミさんは、配達の際にさまざまな工夫をしています。
家のドアの前に注文の品を置く“置き配”をする際は、料理の入った袋が直接地面につかないように100円ショップで買ったカラフルなイラスト入りの紙ナプキンを敷く心配りをしています。

さらに、お釣に使う小銭は、事前に家で消毒用のアルコールに漬けて除菌しています。

以前、客に「誰が触った金かわからない」という指摘を受けたからです。

少しでも安心してもらうために、できる限りのことをしています。

「私たちは人間 ロボットでも召使いでもない」

しかし、ネット上ではフードデリバリーの配達員に対する否定的な言葉が並び、エミさんは心を痛めています。

一部の配達員による自転車の危険な走行など、交通マナーに関する書き込みもありますが、エミさんが気にしているのはそれとは違った言葉です。

「ロボットとか召使いとか、そういうくくりのツイートがあるということを見て、そういうものに対しては、『私たちは使い捨てじゃない』って思います。別に『頑張っているね』とか『偉いね』って褒められたいわけじゃなくて、同じ人間だし、料理とともに人の気持ちも一緒に届けているつもりです」

“外”で頑張る『誰か』がいるから

印象に残ったのは、鈴木さんもエミさんも、決して特別な対応をしてほしいと思ってはいないということです。
コロナ禍で見知らぬ人と会話するのがはばかられるのは理解できるものの、「相手も同じ人なんだ」という当然のこと、「“内”で過ごせるのは必ず“外”で頑張る『誰か』がいるからだ」ということは、自分も忘れたくないと思いました。

コロナの終息の見通しも立たず不安が増す中でも、ちょっとだけ他者に思いをはせてみる。いろんなことができなくなっても、その“想像力”は失いたくないと思います。

 

12月11日(金)午後7時半からの「首都圏情報 ネタドリ!」では、新型コロナの感染拡大の第3波まっただ中の師走の首都圏で、コロナの影響で広がった在宅ワークや宅配サービスなどの私たちの「日常の生活」を人知れず支えている人たちの心の内を取材しました。

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