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病気や障害のある子どもと家族写真を撮るということ

  • 2020年12月4日

「1年も生きられない」
生まれた時に医者からこう言われたという女の子が、14歳になって笑顔で母親と見つめ合う瞬間をカメラマンが撮影した写真です。先日開かれた展示会でこの写真を見て、重度の脳性麻痺のある娘と暮らす私の中には、「力強さ」がみなぎりました。ふだん医療的ケアや生活に追われ、ついスマホですましてしまう私も、こんな家族写真を残したいとも思います。
一方で、不安もよぎります。「写真館などに行ってもその間にけいれんを起こしたら?」「人工呼吸器は大丈夫?」
でもそんな思いを叶えてくれるカメラマンがいました。取材をすると、私が感じた「力強さ」の理由が、はっきりとわかってきました。
(映像センター/カメラマン 島田優子)

写真展「“いのち”輝く」

冒頭の写真は、11月1日まで東京・世田谷美術館で開かれていた写真展「“いのち”輝く」に展示されていました。

会場に並べられていたのは、病気や障害のある子どもとその家族を撮影した写真50点あまり。
私が強くひかれた写真には、家族のコメントも添えられていました。

(添えられたコメント)
「あなたの花のような笑顔でママはどんな疲れも忘れます。たくさんの幸せをありがとう」

こちらは18トリソミーという染色体に異常がある病気の女の子が、兄弟2人と撮った写真です。2年前に撮影された写真と比べると、3人が親密な時間を積み重ねてきたことが伝わってきます。

(添えられていたコメント)
「病気であることがわかり涙にくれた日々もありましたが、今ではただかわいくて、家族全員あなたにメロメロです」

2年前

家族写真を撮ってみたいけど…

会場に来ていた人に感想を聞いてみました。

「一瞬をすごくあたたかく撮られているなと思いました」

「やっぱり家族って特別。障害があってもなくても、親を困らせたり楽しませたりするのは一緒だと思います」

「子どもの成長は写真で残したいけど、写真スタジオで撮影するのは医療グッズをたくさん持っていかないといけないので、なかなか大変」

最後の人の気持ち、私はよくわかります。
2歳になる娘は重度の脳性麻痺があり、人工呼吸器が手放せない「医療的ケア児」です。お宮参りのころはNICU=新生児集中治療室に入院中。1歳の誕生日はようやく退院できた日。そんな状態だったため、まだちゃんとした家族写真はありません。節目には家族写真を撮ってもらいたいと思うものの、「写真館はバリアフリーか?」「撮影中にけいれんを起こさないか?」などと考えると、「まあいいか、スマホで」となってしまいます。
家族写真を撮りに出かけることは、ハードルが高いことなのです。

訪問撮影カメラマン 安田さん

外出するのが難しい状況の家族の撮影は、どうやって行われるのだろう。そう思い、撮影したカメラマン、安田一貴さん(34)に取材を申し込みました。安田さんはふだん、理学療法士として都内の病院で病気や障害のある子どものリハビリを担当するかたわら、自宅やデイサービスなどを訪問し写真撮影をする活動をしています。

安田さん
「一般的には笑顔の写真がいい写真だよね、って思われがちですが、病気や障害のあるお子さんたちは表情の変化がとぼしいお子さんとかもいるんです。でもそれがだめじゃなくて、ちょっとした変化とかをとらえて、ほんとにその子らしさ、その家族らしさっていうのが見える写真っていうのを大切にしています」

この日、安田さんが訪れたのは、リンパ管腫という病気の佐藤美優ちゃんの家です。

美優ちゃんは呼吸が不安定なため、人工呼吸器で24時間を管理する必要があり、介護もつきっきりで行わなければなりません。七五三の時には、写真スタジオに行ったそうですが、呼吸器のバッテリー残量が気になったり、途中でたんの吸引が必要になったりと苦労したそうです。

美優ちゃんの両親
「事前に下見に行って準備はしたものの、当日はたんの吸引が必要になったりして結局バタバタした感じの撮影になってしまったかなっていう印象でした」

安田さんは撮影の前に詳しい聞き取りを行います。
理学療法士としての経験をいかして、体はどのぐらいまで動かせるか、呼吸器などの医療機器の数値はどのぐらいが適切かなどを丁寧に聞き取るのです。美優ちゃんの場合は、体を起こすと呼吸が苦しくなってしまうことを確認しました。

家族写真を撮る意味

「じゃあ美優ちゃんかわいいーでいきますよ!せーの!かわいいー!」

撮影が始まりました。
美優ちゃんをだっこしたお母さんがいすに座ります。呼吸が苦しくならないよう体勢に気をつけます。
晴れ着は着付けの担当者が見繕い、家族はこの日のために髪飾りを用意しました。

ところが、撮影を始めてしばらくすると呼吸器のアラームが鳴りました。数値を見ると、体を少し起こしただけでしたがやはり呼吸が苦しくなってきているようでした。
そこで安田さんはひと工夫。美優ちゃんは寝たままで両脇に両親も添い寝してもらい、安田さんが脚立に登って上から撮影することにしました。こうして撮影を楽しむ環境を作りながら、家族にとって一番いい表情を切り取っていきます。
途中、たんの吸引や薬の注入もありましたが、美優ちゃんのペースに合わせ撮影は無事終了しました。そうしてできあがったのがこの写真です。

この日撮影を依頼したのは、美優ちゃんの2分の1の成人式、つまり10歳になった記念の写真を撮るためでした。でも現在、美優ちゃんは12歳。2年前は体調が悪く写真撮影どころではなかったのです。

美優ちゃんの両親
「本当に素敵な時間を過ごさせていただきました。外出先で撮ると、『美優とパパ』『美優とママ』というように2人になってしまう。自撮り棒で撮ってもいい表情で撮れないっていうのがありました。でもこういう風にすると親子それぞれいい顔で撮れました。成人式も撮ってもらいたいと思っています」

安田さん
「きれいな写真は撮れたけど、『大変でつらかったよね』っていう思い出がよみがえる写真はあんまりいいと思いません。慣れた環境でみんなでわいわいしながら『お洋服なんにしようかな』『どんなポーズして撮ろうかな』っていう相談をしてるところから撮影って始まっているような気がします。ふだんベッドで寝ているけれど、だっこしてベッドからおりたりとか、ちょっと外に出て光や風を感じたり。そういう心が動く瞬間をたくさん体験できる撮影が、あとから振り返ったときに楽しい思い出をよみがえらせるし、それがいい写真だと思います」

家族写真を撮ることは、それぞれの家族が自分たちらしい表情を切り取るためにカメラマンと行う共同作業。さらに準備も含めて撮影という行為そのものが、家族の歴史の1ページに加わっていきます。ただ家で撮影してもらえて助かる、というだけでない「撮る意味」を、安田さんの撮影は教えてくれました。

活動は3年前から

安田さんが出張撮影をはじめたそもそものきっかけは、海外での体験でした。

安田さん
「以前、青年海外協力隊に参加してウズベキスタンのこども病院で活動した経験があります。その時入院している子どもたちとつきそいのお母さんとの2ショット写真を撮りためて家族にプレゼントする活動をしていました。途上国の医療現場なので、かなり多くの子たちが亡くなるなど、厳しい結果を迎える中で、写真を大事に持って帰ってくれたり、すごい感謝されたりするということを経験したのです」

その後、国内の仕事で病気や障害のある子どもをもつ家族と関わる中で、こんなことばをたびたび聞きました。

「生きることに精一杯で、写真を撮るなんて考えたことがなかった」

「家族写真を撮るのは憧れだけど、準備や移動のことを考えただけでハードルが高くてあきらめていた」

生きるための医療が最優先で、写真撮影すら二の次になってしまう現実。写真の勉強もしていた安田さんは3年前、出張撮影の活動を始めました。

写真は“生きる力”

これまでのべ500組の家族の写真を撮影してきた安田さん。特に印象に残っているのは、染色体の異常で生まれた時、医師から「1年も生きられない。今のうちにたくさん思い出を作って下さい」と言われたという女の子と両親との撮影です。
ひな祭りやお出かけなど、イベントがあるたびに安田さんに撮影を依頼していました。

ところが3歳になり、七五三の写真撮影を間近に控えたある日、女の子は息を引き取りました。
するとそのお母さんから思いがけない提案をされました。

「一番きれいでかわいい今を、“最後の家族写真”として撮ってもらえないか」

安田さんは両親と一緒に、女の子の思い出話をしながら、家族の優しい愛情がいっぱい感じられる写真にしようと撮影しました。短い人生ながらも女の子の輝く瞬間を写したたくさんの写真が、今、両親にとって前向きに生きる力になっているそうです。

安田さん
「“来年も写真を撮ってもらうことを目標に、また今年もがんばろうと思います”と言ってくれる家族もいます。いつどうなるかわからない子たちっていうのがたくさんいる中で、一年後写真を撮ることを目標にするっていうのは生きていく上ですごく大切だなあと思うし、その瞬間の記念写真を残すって大事なことなのではないかと思う」

家族写真の体験を多くの人に

病気や障害のある子どもとその家族の撮影を受け付けてくれる写真館や団体、ボランティアなどは、ネットで調べると少しずつ出てきているようです。安田さんもこんな計画を話してくれました。

安田さん
「来年なんですけど、妻と一緒にバリアフリーのフォトスタジオを作りたいなと思って動いています。病気や障害のあるなしに関係なくいろんな子たちが楽しく来て、元気いっぱい写真撮影ができる場所にしたいって思っています」

どんな子育ても簡単ではありませんが、医療的ケアなどに追われて疲れてしまった日、元気に生んであげられなくてごめんねと、つい思ってしまう日があります。そんな時、自分たちの家族写真を見て「よし、私たち家族って素敵だよね」ともう一度前を向く力を与えてくれる。それが、私が感じた「力強さ」の正体だとはっきりわかるようになりました。そして、そんな写真を撮影できる環境が、少しでも広まるよう、強く願っています。

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