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コロナのデマに踊らされない 中学生に薦める4つのおまじない

  • 2020年11月27日

「新型コロナウイルスの予防にはぬるま湯を飲むといい」「東京でロックダウン決定」
春先の感染拡大時には、こんなデマが広まりました。
そして第3波。再びデマやあやしい情報に踊らされないために、都内の中学校でユニークな授業が企画されました。招かれた講師はこう言いました。
「スマホを持ち始めた中学生に、情報のワクチンを打ってデマウイルスに感染しないようにしないと」
そのワクチンとは、シンプルで実践的な4つのおまじない。中学生だけでなく大人も知っておく必要がありそうです。
(報道局/映像センター 清水希理)

情報を見極める4つのおまじない 授けます!

授業が行われたのは東京・大田区にある私立の清明学園中学校。元民放のアナウンサーで、内閣審議官も務めた経験を持つ下村健一さんが講師に招かれました。

中学3年⽣61⼈を前に下村さんはまず、⽇常⽣活で「⾷事をする」「道を歩く」「メディアを⾒る」の3つの⾏為に、どれくらい時間をかけているのかをたずねました。

この授業を各地で⾏っている下村さんによると、どこの学校で聞いても「メディアを⾒る」が一番長くなるそうです。この学校でもほぼ同じ傾向になりました。

「では、やり方を教えてもらったのは3つの中でどれ?『よくかめ』とか『好き嫌いするな』って、小さいとき繰り返し言われたよね。道を歩くときも、『飛び出すな』『左右を見ろ』って言われたよね。でも『情報はこうやって真偽を見極めるんだよ』って教えてもらった人いる?」

 最後の質問では、生徒の反応が鈍くなります。そこですかさず宣言します。

「知らない情報が来たときに、『予備知識がないのにどうやって⾒極めるの︖無理じゃん』って思うでしょ。だから4つのおまじないのことばを授けます。これを覚えて帰れば情報に振り回されることは減ります」

授業はいよいよ本題に入ります。

おまじない(1)「まだわからないよね?」結論を即断するな

おまじないのことば、その1は「まだわからないよね?」です。

春先にコロナの感染が拡大した際に、さまざまなデマがネット上で流れました。
「コロナの予防にはぬるま湯がきくらしい」などの情報です。下村さんはこうした気になる情報が入ってきた時にとりあえず「まだわからないよね?」と自分におまじないをかけることを薦めました。この情報が本当かどうか⾃分の中で判断するのは難しいけれど「わからないよね?」と決めないでいることは簡単です。そして、本当の情報なら次々にそれを裏打ちする新しい情報が届くので、それまで待って結論を即断しないというのが1番⽬のおまじないの意味なのです。

「真偽がわからないデマを信じて行動すると『ぬるま湯飲んだから大丈夫』と街に出てしまう。さらに手洗いやうがいをおろそかにして、結果的にコロナに感染してしまうおそれがあるんです」

さらに話に力が入ります。
誤った情報を信じてSNSで広めると、他人に被害を及ぼす加害者になりかねないと下村さんは訴えたのです。

「熊本地震で『ライオンが逃げ出した』という1枚しか写真がないデマがSNSで広まりました。他の情報を待たずにみんなが『大変だから知らせなきゃ』って思い、善意で広めたんです。でも『ライオンが逃げ回っているから大変だ』といって家に戻った人が、2度目の地震で家がつぶれその下敷きになったら、広めた君たちが加害者になってしまう。善意が人殺しになるんです」

おまじない(2)「意見 印象じゃないかな?」ゴッチャにしてうのみにするな

2番⽬は「意見 印象じゃないかな?」です。
下村さんは、人が伝えた情報の中には、事実とその人の意見や印象がくっついていると指摘。だから、情報に触れた際に「その情報の中には意見や印象が混じっているのではないか」と自問し、その情報をうのみにしないよう教えました。
そして、テレビのリポーターのコメントとして、ある一文を紹介し、この文章にくっついている意見と印象を拭き取ってくださいと生徒たちに言いました。
「疑惑のAは こわばった表情で 記者を避けるように家からこそこそと 出て行きました」という文章です。

生徒たちは次々に答えます。

男子生徒
「『こそこそ』はリポーターの印象だと思います」

 

男子生徒
「『こわばった表情』は事実かもしれないが、『記者を避けるように』は記者から見た印象ではないでしょうか」

 

女子生徒
「『こわばった表情で』というのも、この人はもともと難しい表情をしている人かもしれない。リポーターの印象ではないでしょうか?」

 

女子生徒
「『疑惑』は、このリポーターがそう思っていて、そういう印象を与えるためではないでしょうか︖」

 

生徒たちはすぐに下村さんの狙いを理解したようです。そして事実は「Aは家から出て⾏きました」というシンプルな⼀⽂になりました。情報から意見や印象を拭き取ることを学んだのです。

こんなにシンプルになりました

下村さんは生徒たちにこう語りかけました。

「君たちはAさんについて何も知らないよね。予備知識がないのに事実と印象・意⾒を分けることができました。情報に接して⾃分の⾒⽅を決める前に、即断せずに意⾒と印象じゃないかなと考える。これだけで情報に振り回される危険はぐっと減るんです」

授業を企画したのは…

この授業を企画したのは、学校で社会科を教えている植田祥子教諭。大きな理由の1つは、生徒たちが既に情報の「発信者」になっているという危機感です。

3年生全員にアンケートをとったところ、ほとんどの生徒がスマートフォンやタブレットなど自由に使える端末を持っていました。さらに、3分の1以上の生徒は「SNSなどで発信したことがある」、そのうち半分以上の生徒は「頻繁に発信をしている」という回答を得たそうです。

 

「スマホやタブレットの所有率はものすごく高くなっているんですけれども、家庭でも学校でも、インターネットの怖さ、情報の広がりの怖さを教えないまま使っているという印象が強いです。SNSだと、顔が見えない相手に向かって発信することになります。また、本当はものすごく多くの人に伝えているんだけど、発信側からすると、目の前の人に伝えているような錯覚があると思います。そこのギャップも埋めたいです」

授業の前、植田教諭と準備をしている下村さんもこんな風に語っていました。

「中学生と言えばちょうどスマホを使い始める時期ですよね。新しい情報に一気に触れてくる時期だからここで情報の受け取り方を知っておくことが大事です。車に乗る時には教習所で交通安全を習うでしょ。それと同じで、情報の交通安全教育です。冬場になったらコロナが広まり、それに伴っていいかげんな情報も広まるかもしれない。だから今のうちにワクチン打ってデマウイルスに感染しないようにしたい」

おまじない(3)「他の見え方もないかな?」一つの見方に偏るな

授業に戻りましょう。3番目のおまじないは「他の見え方もないかな?」です。

例えにあげられたのは、春先に流れた「東京がロックダウンされる」というデマです。こうしたびっくりする情報に出会った時は、「他の見え方はないかな?」と考え別の情報源を探すことを教えます。この場合は東京都のホームページです。本当の情報であれば載っているはずですが、実際には載っていないことで、「これはウソだと⾒抜ける」と説明します。
その上でふだんからSNS上で自分と違う見方の人とつながろうと呼びかけます。

「『いいね』ばっかりしていると、君たちと同じ考えばかりが流れ込んでくる。だから何か話題になったときに「やだね」と思った意見を言った人に「いいね」しておきます。お寿司の中のわさびくらいの量でいいから登録(フォロー)してみよう。するとなにか話題になったときに「違う意見」が自動的に流れ込んでくるんです」

 さらに話は、インターネットとの向き合い方にまで発展します。

「インターネットができた時に、みんな世界に通じる窓が広がると思った。でも実際には窓が⼩さくなりました。便利になりすぎて好きな情報だけが流れ込んでくるメディアになったのです。それをもう一回、⾃分の⼒で窓を広げてほしい。スマホが自分たちを縛るのか解放するのか、使い方で決まるんです

おまじない(4)「隠れてるものはないかな?」スポットライトの中だけ見るな

最後のおまじないは、「隠れてるものはないかな?」です。スポットライトの中だけ見ない=見えている部分だけで判断しない、という趣旨です。
例えにあげたのは、アルファベットのDの文字。
Dの文字を左半分、右半分それぞれ隠すと見える図形は、□の半分と◯の半分。どちらか片方だけ見ていては図形全体を理解できないと教えます。

そしてこの図とアメリカ大統領選挙の論争に結びつけます。

左側のDが四角に見える図はトランプ氏の支持者たちの主張
「郵便投票なんて誰が投票しているかわからないからダメだ」

そして右側のDが丸に見える図はバイデン氏の支持者たちの主張
「コロナ対策なんだから、郵便投票は正しい制度じゃないか」

双方が同じDの文字を見ているはずなのに、違う主張をしていると説明します。

「どっちがウソをついているかということではなく、どっちも本気でそう⾔っている。同じ現象のどっち側を⾒ているかという話です。でも○に決まっているとか□に決まっていると思い込むとアメリカは大変な混乱に陥ってしまう。両⽅の主張をきちんと聞いて判断していけば、必要以上の混乱はおきないはずです」

ご飯を食べるように情報を取れ

下村さんはここでもう一度、この授業の冒頭で問いかけた、日常生活で教わったことに話を戻します。

「きょう教えた4つのおまじない、思い出すのは大変だと思うよね。だけどそうじゃない。一番最初にみんなが『よくわかってる』と答えた食べ方、道の歩き方を思いだしてください」

そして、⽇常⽣活で教わった注意と4つのおまじないの教訓が似ていることを⽰します。
例えば道の歩き⽅の「⾶び出すな」 はおまじないの1番⽬のことば「即断するな」
⾷事をする際の注意「よくかめ」 は2番⽬の「うのみにするな」
「好き嫌いするな」 は3番⽬の「⼀つの⾒⽅に偏るな」
道を歩く際の「左右を⾒よ」は4番⽬の「スポットライトの中だけ⾒るな」という具合です。

「おんなじでしょ。生活の方は無意識でできているんだから、情報の接し方でもできる。道を歩くように飯を食うように情報を取れ。ただそれだけのこと。とっても簡単です。きょう授業の途中で想像力のスイッチを入れようと言ったけど、もともとみんなは想像力のスイッチを入れて暮らしているんです。だけどみんなは、わざわざスマホやネットを見る時にそのスイッチを切っているんです。きょうから、食べるときや道を歩くときと同じ事を、情報に接するときにもやってください」

生徒たちの反応は

この授業、実は2時間休憩なしで行われたのですが、生徒たちは最後まで真剣に聞き入っていました。
感想を聞きました。

「自分が情報を聞いたときに受け取る印象を何も考えずにそのまま発信しちゃうとか、そういうことが以前から繰り返されているというのが印象に残りました」

「ひとつは発信した人だけでなく自分も広めてしまうことで、自分も加害者になってしまう。自分も信じ込んで広めちゃったりしたこともあるのですごく怖いなと思いました。あともうひとつは、いろんな考え方があって真実はひとつじゃなくていろんな見方があるということがすごく印象に残ってます」

「(デマを広める)加害者になったときに、自分が最初じゃなければ『自分は悪くない』ってちょっと思っていたんです。でも、最初に発した人との差ってほんとに少しなんだと思ったし、自分も同じぐらいの罪があると思ったらこわいなと思いました」

横に座って教えてほしい

私は、この授業を聞いて、中学生だけでなくその保護者も一緒に聞いて考えてほしいと思いました。
授業を企画した植田教諭のことばが印象に残っています。

「今回は新型コロナウイルスが題材だけど、コロナじゃなくても、どの時代でも何歳の人にでも通用することだから、むしろ本当は大人が聞いて、次世代に伝えていかなければいけない。でも大人が変わるのってとっても頭が固いので、子どもが変わってくれた方が、社会が先に変わるかなと期待しています」

下村さんもこんな方法を提案します。

「だぶんメディアリテラシーって『そこに正座して聞け』って教えるもんじゃない。横顔で教えるっていうか、『これ本当かな』って(横に座って)つぶやきながら、『まだわからないよね?』と言いながら身につけていってもらえたらいいなと。それは親御さんにも先生がたにもやってほしいことです」

コロナ禍での暮らしで、私たちはインターネットやSNSなどがもたらす情報とどう向き合うかを試されるようになりました。それは、中学⽣だけでなく私たちが考え、⾝につけていかなければならない課題だと感じました。

※この授業で下村さんは4つのおまじないのほかに、デマを拡散することで自分が加害者になってしまうことも強調していました。

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