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台風19号(2019年)で全戸全壊の被害 東松山市・早俣地区のいま

  • 2020年10月12日

記録的な大雨により各地で河川の氾濫を引き起こした去年の台風19号。埼玉県東松山市の早俣地区では、押し寄せた泥水で92世帯の住宅が「全戸全壊」しました。
あれから1年たちましたが、私の友人の家は、泥水を洗い出すためにむき出しにされた柱や骨組みがそのままになっています。災害が突きつけた現実のもろさに、新たな暮らしに向けた一歩を踏み出せないでいるのです。
(丹沢研二アナウンサー)

2階まで水が… 堤防決壊の早俣地区

浸水した早俣地区(画像提供:荒川上流河川事務所)

台風19号が通り過ぎた直後の埼玉県東松山市早俣地区。写真の中央を蛇行する都幾川が氾濫しました。

決壊した堤防(画像提供:荒川上流河川事務所)

堤防は2か所で決壊し、住宅街にも濁流が流れ込みました。
ひどい所では住宅の2階近くまで水に浸かり、地区の住宅すべてが「全壊」の判定を受けたのです。

被災した住宅

私はこのとき早俣地区に住む友人とSNSでやりとりをしていました。
避難所にいた友人は、自宅がどうなっているかが分からない中で、不安でいてもたってもいられない気持ちを次々と寄せてきました。

二階に犬猫を残して来てしまったので気が気でなくて

 

ネットで調べたら二階まで水没しかかってるような家もあるらしくて

 

なんかもう、どうしていいかわからずで、水が引かないと通行止めで家にも帰れずです


やがて水が引き始め、ようやく家のそばまで行けた友人が送ってくれた写真です。

 

 

犬猫なんとか無事でした

 

家の中すごいです。ぐっちゃぐちゃ。一階の天井までは行かなかったみたいですが、色んなものがパァです


「一度来て実際に見てほしい」

そう友人に言われて私が早俣地区を訪ねたのは9日後でした。
一緒に土手を歩きながら被災状況を聞きました。

歩いていると、猫の死骸を2度見かけました。地区の中にはペットを失った人も多かったと聞きます。
直接の人的被害がなかったとはいえ、家族同然のペットや大事な家財道具を失った悲しみはどれほどだろうと思い、手を合わせました。(のちに避難所で体調を悪化させ亡くなった70代の男性が、災害関連死と認定されました)

改修に踏み切れない

あれから1年、早俣地区を再び訪れました。
友人宅は、床下まで流れ込んだ泥などを洗い出すため床板や壁がはがされたままの状態になっていました。

「なぜ、補修作業を進めないの?」

私の問いに友人は答えます。

「直してもまた被害を受けるのではと不安で、なかなか改修に踏み切れない」

最大級の警戒を呼びかけるような台風が毎年のように通過するようになった日本で、川沿いに暮らす人たちがこう感じるのも無理はありません。友人はさらにこう続けました。

「あと1年の間にこの家をどうするか結論を出さなきゃいけない」

友人は今も、埼玉県が家賃を補助する民間の賃貸住宅に住んでいますが、賃貸住宅の居住期限は2年。50年、100年先を見越して対応を考えなければいけない自然災害を前に、このあとの暮らしをどうするのか、残り1年で答えを出さなければなりません。

もうやめようかと思っている

2019年10月16日放送のニュースより

農家の千代田一巳さん(75)。台風直後のテレビニュースでインタビューに答えて下さった方です。
当時は「前へ前へ進まなくては 泣いてばかりいられないから」と話していました。

一巳さんは自宅が浸水して、収穫したばかりの米や農機具が水につかってしまいました。

友人に紹介してもらい、お宅を訪ねました。

一巳さんの家は改修が終わり、すっかりきれいになっていました。

都幾川が氾濫したのは73年前に日本に接近し、関東や東北に甚大な浸水被害をもたらした「カスリ―ン台風」以来だと言います。

丹沢
「一巳さんは当時2歳ですか? 記憶はありますか?」

千代田
「覚えているわけがない。でもカスリ―ン台風でも台風19号ほど浸水しなかったと聞いてるよ」

千代田さんの田んぼ

一巳さんは今年、米作りをしていません。例年なら収穫を終えたばかりであろう田んぼは草に覆われていました。壊れた農機具を買い直すと何百万円もかかるためです。

「高いお金を出して農機具を買っても、年齢を考えるとそう長く農業はできない。もうこれでやめようかと思っている」

地区の中でも、若い人は農業を再開する人が多いものの、これを機にやめる人も多いといいます。
被災直後、「前へ前へ進まなくては」と気丈に語っていた一巳さんですが、田んぼをこの後どうするか決めかねています。

住民たちの絆を育んだ施設は

さらに地区を歩くと、ブルーシートがかけられたままの建物を見つけました。

ここは「早俣集落農業センター」

壁も天井も大きく壊れ、台風の爪痕が生々しく残っていました。
1年前まで、ここは地元の人たちの交流の場としてよく使われていたそうです。

私が早俣を歩いて感じたのは、地域の人たちの「つながりの濃さ」です。友人と歩いていると、道で会う人会う人が声をかけてくださいました。
「知り合いばかりだから避難所も居心地が良かった」と友人は語りました。
しかし、建て直すには住民1世帯あたり20万円ほどの寄付を募る必要があり、難しいそうです。

区長が案じる地域の将来

次に訪ねたのは、早俣の区長を務める千代田喜夫さん(68)。
家は堤防のすぐそばにあります。

当日は水や食料、カセットコンロを用意して自宅の2階に避難しましたが、水は1階の天井に達したといいます。

被災直後の写真(千代田喜夫さん提供)

「2階から階下の水を見たら、1階で飼っていたメダカが泳いでいました。停電や床上浸水ぐらいまでは予想していたけど、ここまでは考えられませんでしたね」

区長として心配しているのは、地区の住民が出ていってしまうこと。去年10月に241人だった住民は、今年10月には219人に減っています。
いま対策をしっかりして安全な地域作りを進めないと地区の存続が危ないと考えています。

“安心が崩れてしまう前に”

現在、国は決壊した堤防などの改修工事を進めています。
喜夫さんの案内で現場を見に行きました。

白いコンクリートが目立つのは、改修が行われた部分です。
堤防の幅を広げ、高さを上げる工事が行われています。

ぱっと見たところ高さの違いが分かりませんが、現場にあった看板でよく分かりました。

全ての工事が終わっているわけではありません。ヒガンバナが咲いているところはこれから改修される部分です。

工事を手がける国土交通省荒川上流河川事務所によりますと、「令和6年度までの完成を目指している」ということです。

一方で喜夫さんは、去年のような台風がまた来るかもしれない不安のなか、「完成までの期間が長く感じる」と話します。

「台風19号のような氾濫がもう一度起きれば、決定的に安心が崩れてしまう。堤防の改修工事が終わるまで何とか被害が出ないことを祈りたいです」

「全戸全壊」という災害から1年が経った早俣地区。住民だけではどうにもならない現実が横たわっています。

地域の歩み これからも

この早俣地区で猫の親子をみかけました。

住民の方によると、4匹いた猫が台風で3匹死んでしまったそうです。
ところが、生き残った1匹がことし2月に子猫を生み、今は5匹になっているといいます。

この子が母猫です。水が引いたあとにひょっこり現れたそうです。
「よく生きていたねえ」と声をかけたい気持ちになりました。

台風19号では、国や都県が管理する全国の河川の142か所で堤防が決壊したほか、325の河川で氾濫が起きました。そして全国で今も9000人以上の人たちが仮設住宅や、いわゆる「みなし仮設」での暮らしを余儀なくされています。それぞれの暮らしがどうなっていくのか、地域の歩みを丁寧に⾒つめ続けていきたいと思います。

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