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200年以上かけて出島から東京に?公園で見つけた虫を調べてみた

  • 2020年10月1日
9月のとある日、公園で子どもに呼ばれて行ってみると見知らぬ虫がいました。
何だろう…? バイオリンのような不思議な形に、独特の模様。カメムシ?調べてみるとこの虫、最初に日本で見つかったのはおよそ200年以上前の長崎・出島。ということは、2世紀もかけて東京に進出したの?さっそく取材しました。
(丹沢研二アナウンサー)

この虫 名前を教えてください!

「パパ―!この虫なにー?」

今回の取材は、子どものこの一言から始まりました。
場所は東京・多摩市の公園で、子どもに呼ばれて行ってみると見たことのない虫がいました。

家に帰って子どもと昆虫図鑑を開いてみましたが、載っていません。
インターネットであれこれ検索すると、目撃情報が続々。みなさん、つぶやいています。

「この虫くんの名前が分かる方いたら教えてください!」

「見慣れない虫がいた この子はなんて名前の子なんだろう? 詳しい人教えて下さい!」

まもなく、名前を教えてくれるツイートを見つけました。

「見てー キマダラカメムシってカメムシらしい。老熟幼虫(ナニソレ)らしい、、、成虫になるとよくいる感じのカメムシになるそうな、、、」

投稿をした男性は、奈良県にある会社の植木の下で見つけ、丸いフォルムとオレンジ色の斑点が気になって思わず写真を撮ったそうです。

また、「老熟幼虫」という、老成しているのか幼いのかよくわからないことばも気になりました。調べると成虫になる一歩手前だそうで、もう一度脱皮して成虫になるそうです。
ちなみに、キマダラカメムシの成虫はこんな風になります。

この話を職場の先輩にした2日後、「出勤途中に見つけた!」と自慢げに写真を見せてくれました。

新宿区の住宅の壁にいました

成虫から10メートルほど離れたところに

成虫と老熟幼虫が同じ家の壁にいたそうです。

専門家に聞いてみた

多くの人たちの目の前に現れ、なにやらざわつかせているカメムシ。いったい何者なのでしょうか?
専門家に聞いてみることにしました。

お話を伺ったのは、東京農業大学農学部教授の石川忠さん。
『カメムシことはじめ』などの著書がある、カメムシのスペシャリストです。

石川教授
「東南アジアや台湾でよく見られるカメムシです。日本では1770年代に長崎の出島で発見された記録があるんですが、その後200年以上にわたって長崎県以外では確認されませんでした。最近になって急速に他の地域に分布を広げています」

丹沢
「なぜ200年以上も長崎を出なかった虫が最近になって東京に現れたんでしょうか?やはり温暖化の影響ですか?」

石川教授
「温暖化ではないと思います。キマダラカメムシは中国の北京でも確認されています。東京より緯度の高い地域ですから、気温が理由だとは考えにくいです」

なるほど。では、18世紀に長崎の出島で初めて目撃されたカメムシが、どうやって21世紀の東京などの都市で頻繁に目撃されるようになったのでしょうか。

最初の目撃者はシーボルトの先輩でした

1800年頃の出島

出島はポルトガル人によるキリスト教の布教を防ぎ、貿易を厳しく監視するために1636年、徳川幕府が岬の突端に築いた人工の島で、まもなくオランダ商館を移転させて以来、鎖国時代唯一の貿易地となりました。ここでキマダラカメムシを発見したのは、スウェーデン人の医師で博物学者のツュンベリーという人物です。

ツュンベリーの肖像

出島にやってきた外国人の医師というとシーボルトが有名ですが、ツュンベリーはシーボルトより50年ほど前に東インド会社の医師として日本にやってきて、植物や昆虫の研究をした先駆者。彼が1770年代に出島でキマダラカメムシを見つけ、日本で初めての記録を残したのです。

ちなみにシーボルトは先輩学者であるツュンベリーを尊敬し、その功績を称える記念碑を出島に建てています。長崎市の出島和蘭商館跡で今も見ることができます。

出島のキマダラカメムシ その後

ツュンベリーの発見から150年ほど、キマダラカメムシは記録の上では姿を消します。
それが1930年代から長崎県内で発見されるようになり、1990年代には近隣の福岡県や佐賀県で見られるようになりました。その後、急速に分布を広げ、東京では2008年に初めて見つかりました。小平市で撮影された写真が昆虫専門の月刊誌に投稿されたのです。

「18世紀に日本に姿を現し21世紀の東京で広く目撃されるようになるまで、いったい君たちはどう生き延びてきたの?」

カメムシに直接、問いたい気持ちを抑え、石川教授にもう少し冷静に聞いてみました。

丹沢
「キマダラカメムシが温暖化によって生息範囲を広げたのではないとしたら、この200年あまりは彼らにとってどんな時間だったのでしょうか?」

石川教授
「日本で何世代も経て『環境に慣れた』という言い方がふさわしいと思います。都市の生活に適応したのでしょう。キマダラカメムシはサクラやケヤキなどの樹液を吸います。都市部にもサクラの葉を食べる虫はいますが、樹液を吸う虫はあまりいません。競合する虫がいなかったことから分布を広げたのだと思います」

キマダラカメムシの魅力

石川教授がキマダラカメムシの魅力としてあげるのは、成長に応じた変化です。
カメムシはさなぎの段階がない「不完全変態」で、生まれてから何度も脱皮して成虫になります。
そのたびに別の虫かと思うほど大きく見た目が変わるのです。

これが成虫

これが老熟幼虫

そして石川先生が「一番模様が面白い」と話すのが、卵からかえったばかりの「1齢幼虫」です。

これはなかなかのインパクト!自然の神秘を感じる色合いです。

葉っぱの裏などにいることが多いそうなので、これから気をつけて見てみようと思います。

害はないの?臭くはないの?

キマダラカメムシは、私たちに害はないのでしょうか?そしてカメムシ特有のあのにおいはないのでしょうか?

石川教授
「サクラなどに大きな被害が出れば駆除しようという話も出てくると思いますが、今のところそういう話はないようです。刺しませんし、危険は少ないと思います。また、人によると思いますが、私の感覚としては臭いと思ったことはありません」

取材を進めると、キマダラカメムシがいとおしく見えてきました。と、ここまで原稿を書いたところで、上司は私にこう言いました。

「でもさ、本当に臭くないか自分で確かめた方がいいんじゃない?」

というわけで、改めてキマダラカメムシを探しに都内の公園にやってきました。

探すこと10分。

いました! キマダラカメムシの成虫です。
おそるおそる、においをかいでみました。

いろんな角度からクンクンしてみました、、、確かににおいは感じませんでした。
(あくまで個人の感想ですので、マネしないでください)

2世紀を超える時を経ていつの間にか私たちの近くに住み着いていたキマダラカメムシ。これからも温かく見守っていきたいと思います。ちなみに11月ごろまで見られるそうです。

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