多くの学校で8月中に授業が再開しました。一方で国は、新型コロナウイルスの感染が再び拡大して休校措置をとった場合でも教育を続けるため、オンライン授業を “9月には始めるよう” 指示しています。全国でも感染者数の多い東京23区は、特にその必要性が高いのではないか。今の状況を取材しました。
(首都圏局 記者/戸叶直宏・氏家寛子 ディレクター/松田大樹)
取材したのは東京23区のそれぞれの教育委員会。オンライン授業に必要なタブレット端末などの整備状況を聞くと、大きく3つに分類することができました。(8月20日現在)
■… 1人に1台 端末を配備
■… 1世帯に1台 端末を配備
■… 整備不可能
1人に1台 /6区
緑で示した6つの区は、オンライン授業に必要な端末を1人に1台用意したと答えました。教師と児童・生徒が双方向でやりとりが可能で、同時に授業ができます。
1世帯に1台 /6区
青で示したのは、1世帯に1台と答えた6区です。兄弟などがいる家庭では、同時にオンライン授業を受けることはできません。
9月までは困難 /11区
赤色で示した11区、全体の半数近くは「9月までの整備は困難」と答えました。
23区それぞれの状況です。はじめに1人1台の端末を用意した6つの区です。
▼千代田区
タブレット1人1台は整っている。6月の学校再開後も運用続けている。
▼港区
タブレットやルーターを貸し出し1人1台整った。2学期にはオンライン授業を始める。
▼文京区
すでに3分の1にタブレットを配っていたため、貸し出しで1人1台整っている。
分散登校中もオンラインで理科の実験を見せるなど対応。
▼渋谷区
平成29年度にはタブレット1人1台を開始。4、5月の一斉休校中もオンライン授業を続けて授業の遅れを最小限にとどめ、夏休みも30日確保。
▼豊島区
8月末には1人1台を達成見込み。オンライン授業だけでなく、個人相談の役割も期待。
▼葛飾区
7月までに中3にタブレット1人1台。9月までに全学年で1人1台。平時でも授業にオンラインを併用していく予定。
続いて1世帯に1台と答えた6区です。
▼台東区
希望した家庭にタブレットやルーターを貸し出し、1世帯1台は整った。
1人1台まで早く行き渡らせたい。課題配布などにオンライン対応可能。
▼江東区
タブレットやルーターを貸し出し、1世帯1台を整備。対面授業を再開した6月からもオンライン授業を組み合わせて行っている。
▼杉並区
貸し出しでタブレット1世帯1台を整備。課題配布などに使用している。
▼北区
貸し出しなどでタブレット1世帯1台を整備。学校によっては6月から民間のアプリを使って動画や課題を行い、対面の授業と組み合わせて行っている。
▼荒川区
タブレット1世帯1台を整備。民間のアプリを使って、動画配信や双方向での授業が可能な状況は整備済み。
▼江戸川区
1世帯に1台は整備するが、オンラインで学びが身につくか判断してから進める必要があると認識。
最後は「9月までの整備は困難」と答えた11の区です。
▼中央区
臨時休校になった学校に、その期間中、家庭に配布するため、タブレット600台を準備している。
▼新宿区
小3以上のタブレットが無い家庭に1人1台貸し出し。中3は全員にタブレット貸出。
小1~2はタブレットをまだ使いこなせないという認識で配布せず。
▼墨田区
中3の希望者にタブレット全員配布。家でネットをさせたくない保護者も無視できない数がいて、区全体で家庭学習への導入は難しい。
▼品川区
46校中10校はタブレット全員配布。タブレット450台は臨時休校になった学校にその期間中、家庭に配布するため確保。
▼目黒区
タブレット1世帯に1台を貸し出しているが、いったん回収し、今後は検討中。課題配布などに使用。
▼大田区
中3のみタブレット全員貸し出し。授業で使っているアプリを、家庭でも使えるようにした。
▼世田谷区
中学生にはタブレットや通信機器購入の助成。タブレットの貸与も小3~中3までは1人1台を整備。
▼中野区
貸し出しで小6~中3までタブレット1人1台を整備。授業とオンラインの組み合わせを目指そうと計画中。
▼板橋区
中3全員に貸し出し。オンライン授業における教員のスキル向上を課題としている。
▼練馬区
今年度中に1人1台の配布を目指している。現状はタブレット配布はしていない。
休校中のみYouTubeで動画は配信したが、オンラインの授業はまだできないとの認識。
▼足立区
9月以降にLTE端末を配布。中3から優先して整備する予定。
オンライン授業の環境が整っていると、具体的にどんなメリットがあるのでしょうか?
1人に1台端末が配備されている渋谷区
「いつでもどこでも学べる環境づくり」として、平成29年からすべての小中学生にタブレット端末を1台持たせて取り組んできた渋谷区では、授業の遅れは2週間程度、ことしの夏休みもふだんより10日少ないだけの30日を確保できたとしています。
(笹塚中学校 駒崎彰一 校長)
駒崎校長
「社会ではこれだけデジタル化が進んでいるのだから学校にもその環境をつくることが必要です。学びを止めず、学習の質を高められるよう、今後もオンライン授業をうまく活用していきたい」
先生不在の教室で密を避ける
また、教室での授業を再開しても密集を避けるためにタブレットが活躍しています。1クラスを2つの教室にわけ、片方の教室で教える教諭の様子を撮影して、もうひとつの教室に配信。先生がいない教室の生徒たちは、手元のタブレットで授業を受けました。
端末の整備では渋谷区に一歩遅れているものの、専門家から高く評価されているのが江東区です。江東区では、6月に授業が再開され、ほかの区が対面授業に回帰する中、オンラインと実際の授業を組み合わせる、新たな教育の形を模索しています。
具体的には、民間のオンライン学習支援システムの導入です。このシステムでは、専門の講師が行う授業の動画を見ることができます。動画のため、兄弟がいても端末を見る時間を分ければ、授業が受けられます。
また、遅れた授業の挽回にも役立っています。
このシステムでは端末上で「問題を解く」ことができます。
江東区では、教室での授業が始まった今、「問題を解く時間」をこのシステムを活用して家庭でやってもらうことにしました。こうすることで、例えば数学では本来20時間かかる単元を15時間で終わらせることができたそうです。
オンライン学習を日常の教育に取りこむことで、仮に感染の再流行が来て再び休校措置をとらざるを得なくなっても、教育を続けることができるのです。
対面授業に逆戻りするのか、それとも双方の利点を生かして柔軟な教育のあり方を模索していくのか。専門家は、新型コロナウイルスの影響が長引く中で、その取り組みの差が教育格差を生じさせかねないと指摘します。
「端末の納品が遅れていて、そろわない」
「教員がタブレットに習熟できていない」
「低学年は保護者がいないと操作が難しい可能性がある」
導入が遅れている区の教育委員会はそれぞれ理由を語りました。
どれもそのとおりなのだろうし、子どもの学びを守りたい “思い” は感じ取れました。
ただ、元の授業に戻るだけでは、いいはずはありません。江東区で取材した学校の校長は次のように語りました。
子どもの学びを止めないために、何が必要なのか。教育現場だけに任せていい問題ではありません。
NHKでは、「オンライン学習」や「コロナウイルスと休校」について、ご家庭の心配、学校現場の戸惑いなど、みなさまの声を募集しています。ご意見をお寄せください。
投稿はこちらまで【NHKニュースポスト】
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