“絶対に見捨てない”不動産屋が見た住宅危機

  • 2020年6月15日

「どんな客でも“絶対に見捨てない”不動産会社がある」。そう聞いて向かったのは、神奈川県座間市です。そこで見えてきたのは、新型コロナウイルスで住まいが失われる深刻な実態でした。

「2万円台の部屋を」50代女性

神奈川県中部に位置する座間市。商業施設が近くにある県道沿いに、その不動産会社「プライム」はあります。新型コロナウイルスの影響で、店には相談が相次いでいるといいます。取材しているときに、店を訪れた50代の女性は、こう切り出しました。
「新型コロナの影響で家族の収入が減って1人暮らしすることになりました。月に2万円台で住める部屋はないですか?」。

応対したのは、代表の石塚惠さん。女性に事情を聞くと、感染拡大で同居していた家族の収入が減ったため、住んでいた家を出ざるをえなくなったのだといいます。身の上話も含めて、1時間ほど相談に乗った石塚さんが示したのは、敷金・礼金のいらない2万3000円の部屋でした。

「絶対に見捨てない」

石塚さんの会社では、生活困窮者が入居しやすい物件を数多く扱っています。もともと8年前に今の会社を立ち上げたのは、住まいに困った人を一人でもなくしたいという強い思いからです。

以前、別の不動産会社で働いていたときのことです。部屋が借りられずに困っていた高齢の客に対し、上司から『会社の方針だから、帰ってもらいなさい』と指示されたといいます。客が高齢だと借りられる部屋を見つけるのに手間がかかります。それでも、手数料はほかの客と一緒。営業効率が悪いというのが理由でした。

石塚惠さん
「泣きながら帰って行く人やあちこちの不動産屋を“たらい回し”になっている人を見てきたので、自分はそういうことはしたくないと思ったんです」

そして“絶対に見捨てない”という信念で、会社を続けてきた石塚さん。その評判が広まり、住まいに困った人からの相談が相次ぐようになりました。さらに新型コロナウイルスの影響で、相談に拍車がかかるようになりました。5月は、例年の倍にあたる200件に上りました。

困窮支援のNPOと連携

石塚さんの会社の特徴は、隣にある低所得者の支援活動を行うNPOと連携していることです。このNPOは、企業などから寄付された食品を生活に困った人たちに届ける、フードバンクなどの支援活動を行っています。支援を受ける人の中には、住まいに悩んでいるという人も少なくないため、そうした人をNPOが石塚さんの会社に紹介するのです。

生活困窮者の部屋を見つけるのはただでさえ手間がかかります。また、紹介する物件の家賃も安いため、得られる仲介手数料も多いわけではありません。しかし、ほかの不動産会社で断られてしまう人が一定数、NPOの紹介や評判を聞いて訪れるため、ビジネスとしても成り立っているといいます。

「19の物件で入居拒否」70代男性

5月22日。NPOから紹介された、70代の男性が訪れました。緊急事態宣言を受けて、寝泊まりしていたスーパー銭湯が休業になり、居場所がなくなったといいます。

石塚さんは入居できそうな部屋の大家に電話をかけ続けました。しかし、なかなか了解は得られず19の物件で断られてしまいました。部屋を探し始めてからすでに1か月が経過していました。

1人暮らしの高齢者は、孤独死のリスクがあるなどとして大家から敬遠されがちで、賃貸物件を見つけるのが難しいといいます。

そして20か所目。石塚さんが粘り強く交渉した結果、大家から男性の入居について同意を取り付けることができました。連携しているNPOが定期的に男性の“見守り”を行うことを条件に、ようやく大家に納得してもらったのです。

石塚惠さん
「高齢者も生活困窮者も大家にとってリスクがあるのは間違いありません。孤独死、家賃の滞納、周囲とのトラブル…。ただ、そのほとんどはコミュニケーションが取れていれば解決できるので、そこを私たちに任せてくださいと大家さんに伝えています」

「空き家活用」が対策の1つに

5月25日。築30年のアパート4部屋を所有する大家の男性が訪ねてきました。空室が続いていたため、石塚さんに管理を任せたいと考えたそうです。家賃は、低所得者でも入居できる月3万円台。石塚さんは、見守りを行うことや、入居待ちをしている人を紹介できると話し、このうちの2部屋の管理を引き受けることにしました。

大家の男性は、次のように話しました。
「古いアパートなので、部屋が埋まると助かります。以前、夜逃げされたこともあるので、見回りでコミュニケーションを取ってくれるのはすごくありがたいです」

翌日の5月26日。さっそく、この部屋を見てみたいという人が現れました。新型コロナウイルスで職場が休業になり、給料が激減したという50代の男性です。家賃3万円前後の部屋への住み替えを希望しています。

男性は以前、家賃を滞納したことがあるため、保証会社の審査が通らないと悩んでいました。石塚さんは前日に管理を任された物件なら紹介できると伝えました。内見の結果、職場からは遠くなりましたが、男性は住まいを見つけることができました。

50代の男性
「住まいのことがいちばん不安でした。寝るところがきっちりと確保できれば、仕事に支障は出ないですし、すごく感謝しています」

新型コロナウイルスで住まいへの不安が高まるなか、石塚さんは、「空き家の活用」が対策の1つになると感じています。入居を希望する人にとって、空き家なら家賃は抑えられるというメリットがあります。一方、大家にとっても、入居者が見つかれば収入につながることになり、あとは滞納や孤独死などのリスクをいかに減らしていけるかがポイントだということです。

懸念される第2波を見据えて

新型コロナウイルスに伴う休業要請の影響で、座間市にある石塚さんの会社まで、東京から40キロ歩いてきたというネットカフェ難民もいたそうです。
緊急事態宣言は解除されましたが、経済には深刻な影響が残っています。さらに、第2波も懸念される中、石塚さんは、今後住まいを失う人が増えるおそれがあると実感を込めて語りました。

石塚惠さん
「NPOのフードバンクの支援を受けに来る家族持ちのお母さんが増えてきています。1か月、2か月はなんとか給付金などで持ちこたえても、家賃を払えなくなって安い物件への住み替えをしたいという人がたくさん来ると思っています。物件が十分にある状況ではありませんが、『絶対に見捨てない、門前払いしない』という信念で、今後も住まい探しのサポートを続けていきたい」

  • 戸叶 直宏

    首都圏センター 記者

    戸叶 直宏

    福岡局 横浜局で事件を担当した後、現在は豊島区・板橋区・北区で地域を幅広く取材。

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