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購買パン救った“小さな奇跡”

  • 2020年3月19日

新型コロナウイルスによる臨時休校の影響で、高校の購買で販売していたパン屋が経営危機に陥りました。それを救ったのは、「思い出の味をなくしたくない」という卒業生の思いでした。

思い出のパンが食べられなくなる?

「コロナウイルス感染拡大による高校休校のため、購買でパンを販売できなくなり、このままではお店の存続すら危うい状況です」

都内に住む前田皓生さん(24)は、3月上旬に知り合いの店から送られたLINEを見て、高校時代の懐かしい味を思い出したといいます。

昼休みになると購買まで走り、われ先にと手を伸ばして買った惣菜パンやエンゼルケーキ。あのパンが食べられなくなる…。

臨時休校で売り上げ“8割減”

そのお店「好味屋」は、東京・杉並区の五日市街道沿いにあります。

古めかしい黄色い看板に店名が書かれた、この土地で20年余り続く“街のパン屋”です。

店を切り盛りするのは、店主の藤村裕二さん(69)と妻の京子さん(68)。店には、2人の朗らかな雰囲気がそのまま表れています。

売り上げの多くは学校の購買での販売で、毎日、7つの都立高校におよそ1200個のパンを運び、高校生たちのおなかを満たしてきました。

しかし、2月末に突然発表された新型コロナウイルスによる臨時休校で、購買は一斉に中止になってしまい、売り上げは8割も減ってしまいました。

経営の危機・・・「助けてください」

「このままでは閉店せざるをえないかも…」

そんな考えを口にするようになった京子さんに、娘が、1人でも多くのお客さんが来るようにと、ポスターを作成。「助けてください」と苦しい状況を赤裸々につづり、店の入り口に貼りました。

藤村京子さん
「夫婦ともに前向きな性格で、お客さんたちとも常に明るく接してきたから、『助けて』と頼るのはどうかなと思ったんですが、娘は『本当に苦しいんだから、しょうがない』と。これでダメなら、本当に倒産かもしれないと思っていました」

卒業生の小さな発信

京子さんからの冒頭のLINEを受け取った卒業生の前田皓生さんは、今月11日の夜、SNSに1つのツイートを投稿しました。

ポスターの写真を載せ、「高校生の方はもちろん、ほかの方もぜひ!!」と支援を呼びかけたのです。

音楽通じた京子さんとの縁

前田さんにとって、京子さんは、“購買のおばちゃん”というだけなく、音楽の先生でもありました。

高校時代、管弦楽部だった前田さんは、1年生の終わりごろ、「購買のおばちゃんは、実はバイオリンがうまいらしい」という話を聞きました。

生徒によるパンの取り合いが落ち着いたところでこう切り出したそうです。

前田さん
「音大を出てると聞いたんですが、部員にバイオリンを教えてもらえませんか?」

京子さん
「基礎くらいなら、いいわよ」

それからは週に1回、京子さんに部活で教えてもらうようになりました。

その後、前田さんは音楽の道を進み、自ら企画したコンサートに招待するなど、もう8年以上のつきあいになっています。

前田さんは、京子さんについてこう話します。

「購買では、おつりの計算がすごく速く、チャキチャキした印象のおばちゃんでした。いつも元気な京子さんが、弱音を吐いていたので、なんとかしたいと思って、小さな発信をしました」

SNSで拡散していく思い

支援を呼びかける前田さんのツイートは1万9000人以上に拡散。

それぞれの学校のクラス単位のSNSグループや、教員たちの間で共有されるなど、大きな流れを作っていきました。

「購買で買っていたパンはこの店のパンだったんだ」など卒業生とみられる書き込みも相次ぎました。

生徒や卒業生が次々に店に

翌営業日の3月13日。京子さんの店に、驚くことが起きました。

ツイートを見た高校生や卒業生が次々に来て、パンは昼には完売となったのです。

高校生
「購買は、いつもすごく混むので、昼休みになったら走って買いに行きます。あのパンが食べられなくなったらとても悲しいので、購買を続けてもらえるように、親が食べる分も買いました」

卒業生
「購買で売られていたのが、この店のパンだとは知りませんでした。後輩たちにも食べ続けてもらいたいと思って来ました。久しぶりなので、高校時代を思い出しながら食べたいと思います」

それから連日、生徒や卒業生が訪れ、好きなパンの種類や高校時代の思い出を京子さんたちに話していくのだといいます。

街の小さなパン屋で起きた、“小さな奇跡”。
京子さんは、1つのツイートに前を向いて進んでいく勇気をもらったといいます。

藤村京子さん
「たった1人の発信から、ここまでのことになるとは、びっくりしました。味には自信があったけど、こんなにうちのパンがみんなに覚えてもらっていて、愛されていたんだと、うれしく思います。いつ、新型コロナウイルスが収束するのかわからないですが、また、子どもたちと楽しいやりとりをしながら、パンを食べてもらいたいのでなんとか頑張っていきたい」

ショート動画もご覧ください。

  • 戸叶 直宏

    首都圏放送センター 記者

    戸叶 直宏

    福岡局 横浜局で事件を担当した後、現在は豊島区・板橋区・北区で地域を幅広く取材。

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