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突然の閉園で見えてきたもの

  • 2019年12月26日

いつも子どもを預けている保育園が突然閉園したら…。
 
11月、経営難を理由に突然 閉園の方針を打ち出した東京・世田谷区の認可外保育施設。取材で見えてきたのは、不適切な保育環境が放置されていた実態でした。
 
保育の質をどう保つのか、認可外施設の課題に迫ります。

「閉園します」突然の張り紙

11月29日。金曜日の夕方に世田谷区の認可外保育施設「マム・クラブ三軒茶屋」に、1枚の紙が張り出されました。

「皆様よりご厚情を賜り、今日まで存続してまいりましたが、諸般の事情により、倒産する方向で検討することになりました」

突然の通知に職員たちは動揺。紙を持ってきた運営会社の役員との間では、次のようなやりとりがありました。

職員「どういう状態なんですか?」
役員「倒産です」
職員「なんで倒産?」
役員「経営状況が悪化した」
職員「保護者には連絡したんですか?」
役員「紙を張り出しましたから」

施設側の弁護士によると、競合他社が増えたことや、保育士不足から人件費がかさんだことなどで、経営が悪化したということです。

役員は、週明けの月曜日には園を閉じると告げ、通知文を張り出したので保護者への連絡はしないと話したそうです。

そして職員たちは、倒産手続きを理由に解雇されました。

「自分たちの処遇も大変だけど、子どもたちの預け先がなくなってしまう」

元職員たちは労働組合の支援を受け、「自主運営」を行うことを決めました。寄付を募ったうえ、次の預け先のメドが立つまでの2週間にわたって、子どもたちを預かりました。

元職員A
「自主運営しなければ、保護者や子どもたちに大変な思いをさせてしまうと思った。理解を得られるのかとか お金の問題はどうするのかという不安はあったが、退職した職員にも声をかけて手伝ってもらって何とか対応しました」

会見で語られた “あきれた実態”

元職員たちが2週間の「自主運営」を終え、会見で明らかにしたのは、不適切な保育の実態でした。

実態を明らかにするためカメラに収めたという写真です。
子どもたちが使うストロー。
カビが取れないので買い換えるよう運営会社に求めましたが、応じてもらえなかったといいます。

段ボールが山積みになった横で子どもの昼寝。
もし荷物が落ちてきたらと考えるとぞっとします。

資格を持った保育士がいない状況でも多くの子どもを預かっていました。
10畳ほどの部屋に子ども30人を詰め込んでいたこともあったそうです。

さらには、賃金の未払いまで起きていました。

元職員B
「働き始めた時、まわりのスタッフから子どもの数に対して人手不足で手が回らないとか、賃金未払いが発生していると聞いて驚いた。現状を訴えても代表は聞き入れてくれず、結局、突然の閉園になってしまった」

立ち入り調査も なぜ放置?

なぜ、こんな状態が放置されていたのか。
実はこの施設には、去年も ことしも東京都による立ち入り調査が入っていました。

認可外保育施設への立ち入り調査は、国の「指導監督基準」をベースに、保育士の数や施設の設備、保育内容、子どもの健康管理などの項目をチェックします。
 
最初は、文書による「改善指導」、次に「改善勧告」や「利用者への周知」、それでも改善されなければ「事業停止」や「閉鎖」を命じることもできます。

「マム・クラブ三軒茶屋」に対し、ことし9月に行われた調査では、「職員が1人しかいない時間帯がある」など、下記の表の5つを含む、8つの項目で「改善指導」が行われました。

本来であれば1か月以内に改善して東京都に報告する必要がありますが、この施設は去年もことしも改善しないままになっていて、都もそれ以上の対応は取っていませんでした。

元職員は、次のように証言しました。

元職員A
「これまで何度も通報して立ち入り調査にも来てもらいましたが、社長は、表面上ごまかせばいいと言っていた。いないはずのスタッフをその日のシフトに書き入れたりしてごまかしていた」

立ち入り調査は、事前に日程を知らせるなど形式的な面は否めないうえ、都内で行われるのは一部の施設にとどまっていて、行政としても手が回っていないというのが現状です。

認可外の施設は危ないの?

では、認可外保育施設は総じて保育の質や安全面に問題があるのか。そんなことはありません。
たとえば、土地の確保が難しい都心部で「園庭がない」というだけで、認可外になっているものの、認可の施設と何ら変わらない保育を行っているところもあります。
むしろ世田谷区の施設は、特異なケースかもしれません。

ただ、認可外の施設は届け出を出すだけで開設できます。
東京都が昨年度行った立ち入り調査で、7割にあたる157の施設が何らかの項目で改善指導を受けたというのも事実です。
このうち最も多かったのは、世田谷区の施設も指摘された「職員が1人しかいない時間帯がある」という項目でした。

保育無償化の影響は

さらに、ことし10月から始まった保育無償化の影響で、保育の質が低下するのではという懸念も出ています。

待機児童の問題を背景に一定のニーズがあることから、今回、国の基準を満たしていない施設も、猶予期間の5年間は無償化の対象となりました。

幼児教育に詳しい専門家はこう話します。

保育システム研究所 吉田正幸代表

「一般的に認可施設より認可外の方が料金は高い。無償化によって利用者の費用負担が軽減されるので、自宅から遠い認可施設より近くの認可外を選ぶという可能性はあり、需要に対して供給が十分でなければ参入の余地が出てくる」

保育の質 独自の条例で

どうやって保育の質を保つのか。
東京・杉並区では、独自に条例をつくって基準を満たさない施設を無償化の対象から外しました。
次のような狙いがあるといいます

杉並区保育課 武井浩司課長

「保育の質をきちんと確保しなければならないというのが一番です。無償化の対象になりたい施設は、基準を満たす努力をしてもらう。その方向に向かうのが正しい流れだと思う」

実際、無償化の対象になるよう改善を図った施設の1つが「レインボープライマリースクール」です。
体操に力を入れていて、子どもの自主性を育むという教育方針を持っています。

給食を作るオープンキッチン。
国の基準では子どもが近づけないようにしなければなりませんが、これまでは あえて柵などは設置していませんでした。

その理由について、施設代表の島野郁子さんはこう話します。

「『柵があるから入らない』じゃなく、『入ってはいけないから入らない』と自分で考えられる子どもを育てるのが園の方針でした。だからこれまではあえてつけていなかったんですが、基準に従って設置しました」

レインボープライマリースクール 島野郁子さん

さらに、保育士も1人採用しました。幼稚園教諭の資格がある職員はいましたが、無償化の対象になるよう雇うことにしました。

園の教育方針を貫くかどうか葛藤もありましたが、保護者からの「信用」に重きを置いたといいます。

預ける側 どうすれば

杉並区のように、基準を満たさない施設を無償化の対象から外したところもあれば、5年間は対象とする自治体もあります。

幼児教育に詳しい専門家の吉田さんは、「無償化の対象に含めるのであれば、行政が国の基準に沿うよう指導監督していく必要がある」と指摘しています。

一方で、利用者はどうしたらいいのか。
東京都は、「こぽる」という子育て施設のポータルサイトを開設しています。このサイトには、保育士の数など、それぞれの施設の情報が細かく載っています。
また、都のホームページでも立ち入り調査で指摘した項目を施設ごとに公表しています。

利用者もこうしたサイトで情報をできるかぎり集めたり実際に見学に行ったりしたうえで施設を選ぶことが、結果的に保育の質を保つことにもつながると感じました。

※子育て施設のポータルサイト「こぽる」 https://www.kopol.metro.tokyo.jp/

  • 橋本 奈穂

    首都圏放送センター

    橋本 奈穂

    青森局・広島局を経たあと都庁を担当。
    現在は遊軍記者として経済や保育問題を中心に取材。

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