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新型コロナ対策 都の司令塔 「東京iCDC」でどう変わる?

  • 2020年12月2日
「東京iCDC」という組織をご存じだろうか。「初耳…」と言う人でも、「東京感染症対策センター」という日本語名を聞けば、何を担当する組織か、イメージがわくかもしれない。
「東京iCDC」は小池都知事の肝いりで、ことし10月に設立された。感染症から疾病まで、幅広い分野で治療薬の研究などを手がけるアメリカのCDC=疾病対策センターを参考にした、都の感染症対策の司令塔だ。専門家を集めた組織が発足してから2か月余り。新たな組織は、都の新型コロナ対策をどう変えようとしているのか、探ってみた。
(都庁担当・古本湖美)

東京iCDC=Tokyo Center for Infectious Disease Control and Prevention
感染症を示すInfectious Diseaseと、対策を示すControl and Preventionなどの頭文字を並べ替えた「東京感染症対策センター」の略称

「東京iCDC」とは

都内では、11月27日に新型コロナウイルスに570人が感染していることが確認され、1日としての発表人数が過去最多を更新した(12月1日現在)。感染確認が全国の都道府県で最も多い水準が続くと同時に、重症者も増え続け、都は3度目の営業時間短縮要請を行った。
より効果的に対策を講じるためには、行政や専門家がバラバラに動いていては意味がない。
感染拡大が進んでいたことし7月の都知事選で再選を果たした小池知事が、公約の1つに掲げたのが東京版のCDCの創設だった。
小池知事は、都の感染症対策を有効的なものにするため、専門家を交え、調査・分析から政策立案まで、一体的かつ総合的に指揮する “司令塔” が必要だとして、アメリカのCDCを参考に、肝いりの「東京iCDC」を、都知事選からおよそ3か月後の10月1日に立ち上げた。

小池知事
「新規の陽性者数は依然高い水準にあり、急速に感染が拡大することも懸念される。手を緩めることなく、先手先手で対策を講じていくことに変わりはない。感染症対策を一体的に担う常設の司令塔をつくる」(9月25日記者会見)

「東京iCDC」の特徴は

「東京iCDC」は日本語で言うと「東京感染症対策センター」。都の説明によると、アメリカのCDCが全ての疾病を扱うのに対し、「東京iCDC」は感染症対策に特化していて、治療薬やワクチンの研究は今のところ行わないという。

新型コロナウイルス対策に科学的・医学的な分析が不可欠な一方で、東京都という行政組織における政策決定の責任者は知事だ。このため、今回の感染拡大のような「有事」の場合、医師や研究者などの専門家で構成する「専門家ボード」という、常設の専門家グループが、まずは感染状況の分析を行うことになる。

そして、公衆衛生学、検査・診断学、感染症疫学など多岐にわたる専門家の多角的な分析に基づき、このグループが、「都としてどのような対策を打ち出すべきか」についてまで、知事に提言・助言する仕組みになっている。

東京iCDC “専門家ボード”

疫学・公衆衛生

調査に基づく感染リスクの分析・評価

感染症診療

症例分析などに基づく対策

検査・診断

検査・診断体制の充実に向けた対策

リスクコミュニケーション

情報発信と収集 調査・分析など

感染制御

様々な場面に応じた感染防止策

 

「専門家ボード」には、現在、5つのチームが設置されていて、国立感染症研究所や日本感染症学会のほか、“本家” アメリカのCDCやWHO=世界保健機関とも連携し、アドバイスを受けたり、意見交換をしたりといったネットワークの構築を目指しているという。
このほか、外部アドバイザーには、ノーベル化学賞を受賞した田中耕一さんも名を連ねていて、感染症対策に生かすための助言を行うという。

東京iCDCの初仕事は?

「東京iCDC」が設立早々に取りかかったのは、この冬に懸念される新型コロナウイルスとインフルエンザの同時流行への対策だった。専門家による議論で出された意見を踏まえ、都は次のような内容の対応方針を決めた。

専門家の意見 □ 原則、すべての医療機関で診療する方針でいくべき
□ 重症化リスクの高い高齢者層などには新型コロナウイルス検査を実施すべき

都の対応方針 ■ なるべく多くの地域の医療機関で診療または相談できるようにする
■ 重症化する可能性が高い発熱患者には、症状が軽くても、検査を実施する

 

方針決定のポイントは、「早めに新型コロナウイルスかどうかを見極めること」と「重症になる人や亡くなる人をいかに減らすか」だった。
どちらに感染しているかわからない多くの患者が、保健所や医療機関に殺到する事態を防ぐため、できるだけ都民にとって身近で、多くの医療機関で相談、診察、検査ができるようにして、新型コロナウイルスの患者を早めに見つけるというのが、都の狙いだ。

現場の実態を肌身で感じていた医師など専門家ならではの提言・助言が迅速に都に伝えられ、対応方針の決定に生かされた。

都民の声を都の対策に反映

さらに、「東京iCDC」の立ち上げで大きく変わったのが、専門のチームも立ち上げた「リスクコミュニケーション」の対策だ。
「リスクコミュニケーション」…聞き慣れない言葉だと思う人もいるかもしれないが、東京iCDCでの役割で言うと、「都と都民が意思疎通を図って正確な情報を共有し、都が過不足ない対策を取れるようにする」というものだ。

この「リスクコミュニケーション」の専門のチームでは、

◇ 情報を受ける都民が、都が発信した情報をどう受け取ったか
◇ 都民はどのような情報が欲しいのか
◇ 都民は感染リスクをどう認識し、どんな対策をとっているのか
◇ 都民が対策をとっていなければ、どのようにすればとれるのか

こうした視点に重点を置いて、調査・分析にあたっている。

以下の図やグラフは、チームの立ち上げ早々に実施した都民へのアンケート調査の一部とその結果だ。

予備調査の概要

対象は、東京都在住の20代から70代までの男女で、2020年10月15日から17日にかけて実施。調査では20代~70代 各世代、200票を収集することを目標とし、935の有効回答を得た。ただし、各世代の回答数は人口構成比率に即さず 、サンプルも少ないため「予備調査」と位置付け。

「ことしの夏と比べて、現在のあなたにあてはまるものは」

夏より今のほうが気をつけている
夏も今も、同じくらい気をつけている
夏のほうが気をつけていた
夏も今も、特に気をつけていない
わからない 答えたくない

「新型コロナ対策について、ことしの夏(6~7月、第2波の始まり頃)と比べて、現在のあなたにあてはまるものは」という問いでは、多くの項目で、「夏も今も、同じくらい気をつけている」の割合が高くなっていた。一方で、「東京都の感染状況についての情報を得る」は25.7%が、「3つの密(密閉・密集・密接)が重なる場を避ける」は18.2%が、「夏のほうが気をつけていた」と回答している。

こうした調査の結果から何が見えてくるのか。
「リスクコミュニケーション」チームの1人で、この分野が専門の、放送大学教養学部の奈良由美子教授は、1人1人が感染予防対策を続けることが重要だとした上で、次のように説明してくれた。

奈良教授
「一方的にお願いを言うのは簡単だが、受け取り手のことを考えずにお願いばかり言うと逆効果になる。つまり、お願いを発信する側にも努力が必要となってくる。
今回の結果を分析する上で、対策への意識が低い層がどのような人なのかを見るよりも、どういう背景・理由で対策ができないのか、その『なぜ』を分析することが大事。
背景・理由がわかれば、そこにアプローチする政策を考えることができるので、『伝える』だけでなく、『聴く』ことを大切にして、本当に相手に寄り添った情報を出していきたい」。

新型コロナウイルスをめぐっては、不正確な情報が流布されることもあり、「正確な情報をいかに正確に伝えるか」が課題の1つとして指摘されてきた。
こうしたリスクコミュニケーションの取り組みが広がることで、正しい情報が伝われば、都民も行動しやすくなる。
ある都の幹部職員によると、こうした専門的な分析は、行政だけでは手が届かなかった部分で、今後の政策を考える上で非常に参考になるという。

成果はこれから

“船出” したばかりの「東京iCDC」への評価は、都庁内でも、まださまざまだ。

プラス評価

「都庁内での “縦割り” 運用が改善されて意思疎通がスムーズになった」
「専門家から意見を聞きやすくなった」

マイナス評価

「都だけではできない部分が多すぎる」
「立派な冠だけついてしまい、具体的に何をやるのか、まだはっきり見えない」

 

例えば海外との連携や共同研究など、掲げた “看板” の多くは、まだこれから。当然ながら、連携の成果をどのように政策に反映していくかということも含め、手探りの状態と言える。

冬を迎える今、感染拡大防止の重大な局面に直面し、「東京iCDC」を核とした都の対策の真価がいきなり試される事態となっている。「東京iCDC」は、都の感染症対策の司令塔として、狙い通り、都民と政策をつなぎ、実態に即した効果的な対策を打ち出すための役割を果たせるのか。今後も継続して取材し、検証していきたい。

  • 古本 湖美

    首都圏局 都庁クラブ

    古本 湖美

    2011年入局。岡山局、大分局を経て、2019年夏から都庁担当。

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