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  4. 「無電柱化」はどこまで進んだ?

11月10日が何の日か、ご存じだろうか。「1」を「電柱」に見立てて、3本の電柱を「0」にする。そう、「無電柱化の日」だ。2016年に議員立法で成立した無電柱化推進法にも明記されている。去年秋の台風15号では、電柱の倒壊などによって、都の島しょ部をはじめ首都圏でも大規模な停電が発生し、電線を地中に埋めて電柱をなくす「無電柱化」の取り組みの必要性が改めて指摘されたが、都内ではいったいどこまで進んでいるのか、探ってみた。

首都圏放送センター・成澤 良

「無電柱化」って何?

都庁担当の私が取材拠点とするのは、東京・新宿区西新宿にある都庁舎。その前を走る都庁通り周辺には高層ビルが建ち並ぶ。そこに電柱を見ることはない。しかし、その都庁舎から代々木方面に歩みを進めると、1キロも離れていない住宅街の中には、狭い住宅街の道路をさらに狭くする形で電柱が建ち並び、電柱をつなぐ電線は、さながらクモの巣のようだ。“昔ながら”の景観がまだ残っている。

「無電柱化」。ふだんあまり耳にする言葉ではない。「ムデンチュウカ」と聞いてもピンとこない人も多いかもしれないが、電線を地中に埋めて道路沿いの電柱をなくす取り組みのことを指す。

無電柱化は、美しくてすっきりした景観を生み出すという利点だけでなく、電柱がないことで災害時の救助活動や消火活動などがしやすくなるという利点も指摘されている。

「旗振り役」は知事

台風が相次いで日本を襲い、甚大な被害が出た去年の秋。「無電柱化の日」を前にした11月上旬、都庁の都民ホールで無電柱化を呼びかけるシンポジウムが開かれた。

パネルディスカッションの登壇者の1人は、東京都の小池知事。知事就任の翌年以降、毎年行われるようになったこのイベントで、小池知事は力を込めてこう述べた。

小池知事
「大規模な自然災害が、全国各地で、あちこちで起こっている。特にことしは、首都圏がかなりやられた。台風15号の記録的な暴風に見舞われて、木が倒れて、それが電線に引っかかって、それによって停電が起こる。伊豆諸島をはじめ、都内や千葉県で、大規模な停電が発生した。私は被災現場を見てきたが、無電柱化が防災の観点から重要だということを改めて認識したところだ」

小池知事の無電柱化に対する思いは強い。

都知事就任前の国会議員時代には、無電柱化を推進する議員連盟での議論をリードし、無電柱化推進法の制定に道筋をつけた。そのきっかけとなったのは、25年前の阪神・淡路大震災だったという。

当時、兵庫県選出の国会議員だった小池知事は、著書「無電柱革命」の中でも、「電柱がなければ…」という体験を克明に記している。

「神戸市長田区では迷路のように走る戦後からの路地に、救急車も、消防車も入る余地はなかった。おまけに震災で かし いだ電柱が行く手を塞ぎ、手の付けようもない、とはこのことだった。地域の一角が燃え尽きるまで、阿鼻叫喚 あびきょうかん の世界、地獄絵が続いた」

著書「無電柱革命」より

都の無電柱化 全国トップだが…

それでは、無電柱化はいったいどこまで進んでいるのだろうか。

国土交通省がまとめた2017年度末の「無電柱化率」によると、東京や兵庫などの大都市部で比較的整備が進んでいるが、最も割合が高い東京都でも5%に満たない。特別区や政令指定都市を見ても、無電柱化率が5%を超えているのは、東京23区と大阪市、名古屋市だけだ。

ロンドンやパリ、香港やシンガポールなど、ヨーロッパやアジアの主要都市で無電柱化がほぼ完了しているのと比べると、雲泥の差とも言える。

課題は市区町村道

東京都によると、課題の1つは、住民の生活に密着した「市区町村道」だという。

東京都内の道路で、「国道・都道」と「市区町村道」の比率は、おおむね1:9。2014年度の時点で、「国道・都道」の無電柱化率が27%だったのに対し、「市区町村道」はわずか2%にとどまっていた。

財政負担も大きいうえ、無電柱化事業の経験やノウハウも少なく、進めたくてもなかなか進められない状況だったのだ。

都内の道路
占める割合
無電柱化率
国道・都道
約10%
27%
市区町村道
約90%
2%

 

都の取り組みは

こうした現状に、都は手をこまねいていたわけではない。

都は、2017年度から、都内の市区町村の無電柱化を促す「チャレンジ支援事業」を始めた。

これまで無電柱化事業の実績がない市区町村の道路などを対象に、国の交付金や都の補助金を活用して、計画の策定費や測量の調査費、実際の工事費などについて、市区町村の負担をゼロにする取り組みだ。「おじいちゃん・おばあちゃんの原宿」として知られ、高齢者が多く集まる豊島区の巣鴨地蔵通り商店街も、この事業を活用した事例だ。

また、小池知事の就任翌年の2017年には、都道府県で初めて、無電柱化の推進に関する施策を総合的、計画的かつ迅速に推進することを盛り込んだ条例を制定した。これをもとに、2018年3月、都の向こう10年間における方針や目標を盛り込んだ無電柱化計画を策定し、翌2019年3月の改定を経て、オリンピック・パラリンピックが開催される新年度=2020年度までに、都内の国道や都道、市区町村道では1154キロで整備を進める計画だ。

しかし、コスト面では以前より安くなったものの、道路管理者である自治体が電線などを通す管を整備し、その管の中に電力会社などが電線を整備する「電線共同溝方式」では、1キロあたり5億円程度の費用がかかるという。都としては、電力会社などと連携してコスト削減に向けた技術開発にも力を入れながら、整備をいっそう進めたい考えだ。

全国規模での連携を

また、国土交通省の「無電柱化推進のあり方検討委員会」の委員でもある防災の専門家、池上三喜子さんは、無電柱化に関わるコーディネーター的な役割の人たちを全国的に広げることが、電柱のない社会の実現に不可欠だと指摘する。

市民防災研究所 池上三喜子理事

「『コストがかかる』という理由で日本の無電柱化が進んでいないのであれば、無電柱化の先進国の人から、『日本は経済大国じゃないの?』と言われてしまうだろう。コストがかかるのであれば、全国の都道府県が一斉に資機材を仕入れれば、安くできる。例えば、無電柱化を進めるコーディネーターを全国規模で配置して、多くの自治体で無電柱化を推進したうえで、できるだけまとめて資機材を購入するといった工夫も必要だ」

また、池上さんは、バリアフリー化を進める視点や、「無電柱化を実現したい」という住民の強い思いも必要だと指摘している。

「現在の高齢化社会を考えると、道路の電柱をなくして、車いすの人が道路側にはみ出して通行するといった危険なことがなくなるようにしたほうがいい。『電柱がないほうがいいでしょ?』と聞けば、『確かにそうだ』と多くの人が答えるのだから、防災面から考えても、街づくりのために、自分たちのこととして無電柱化に取り組むべきだ」

無電柱化は実現するか

池上さんによると、都が真っ先に無電柱化に取り組んだのは、大きな幹線道路だった。災害時に、救急車や消防車が救助活動や消火活動などに向かう際、倒れた電柱が妨げになって通れなくなることを避けるためだった。

池上さんは「電柱をそのままにしておくと困るのは都民だ」ということを丁寧に説明して、大きな道路の電柱だけでなく、狭い住宅街の電柱も含めて、あらゆる場所での「無電柱化」の必要性について、都民の理解を得ることが重要だと指摘する。

電柱のない社会が自分たちの生活にどのような影響を与えるのか。住民1人1人が自分のこととして考えて議論することが必要だと思う。

  • 成澤 良

    首都圏放送センター記者

    成澤 良

    平成16年入局
    神戸局、政治部を経て、おととしから都庁担当

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