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<span>都政担当記者の</span><span>TOKYO深掘り中!</span>

高齢ドライバーは今、何を思う

 

東京・池袋で、80代の男性が運転する乗用車が暴走し、母親と3歳の娘が死亡した事故など、高齢ドライバーによる事故が相次いでいる。高齢ドライバーへの批判も噴出する中、当の高齢者たちはどのように感じているのだろうか。

首都圏放送センター・豊田 将志

 

高齢者たちの複雑な思い

「運転に対する感覚の衰えは感じていないが、夜間の運転は控え、妻とは『車庫入れに手間取るようになれば、運転をやめよう』と話している」。
5月23日、東京・武蔵野市の教習所で開かれた交通安全教室に参加していた77歳の男性は、こう話した。しかし、この男性は月に数回、買い物のために車を運転していて、運転免許証を自主的に返納することには抵抗感がある。

別の77歳の男性は去年、車の運転をやめ、なじみのゴルフ場に通うこともやめた。個人の利益と、社会の秩序のどちらを優先するかを考えた結果だという。
その一方で、「娯楽のために車を使うのも1つの権利だと思うこともある。また、『高齢者のせいで亡くなる人が出ている』と言われているような状況もつらい」と複雑な心境をのぞかせた。

事故を起こしてはいけないと分かっているが、高齢者というだけで運転する機会を奪わないで欲しいという本音もあるのだろう。

 

足が不自由だから運転する?!

一方、取材の中でこんな話も聞いた。
警察から委託を受けて、二輪車の安全運転講習の特別指導員をしている男性は最近、講習で二輪車にまたがった時に足元がふらついている高齢者を見かけた。
この特別指導員の男性は、高齢者に対し、「ご自身の安全のために、運転をしない選択肢も考えてみてください」とやんわり声をかけた。しかし、この高齢者は、「足が不自由だから運転している。年寄りから生活を奪うのか」と強く反発したという。
特別指導員の男性は、「運転免許証の返納は強制できない。“足が不自由だから運転している”という発言に、おそろしさを感じた」と話していた。

警察庁の統計によると、去年1年間に運転免許証を自主的に返納した75歳以上の高齢者は全国でおよそ29万2000人で、自主返納の制度が始まった平成10年以降、最多となった。
しかし、去年末の時点で75歳以上で運転免許証を保有している人は、563万人を超えている。そのすべての人が運転を続けているかどうかは分からないが、運転免許証の返納が強制できない中で、自主返納をお願いするだけには限界があるだろう。

 

返納だけではない対策を

高齢者の事故を減らすために、行政にできることはあるだろうか。

東京の山間部にある檜原村。村ではおととしから、70歳以上の高齢者が運転免許証を返納すれば、交通費などとして年間1万円を給付(最大3年間)。さらに、衝突が避けられなくなった時に自動でブレーキをかける装置を備えた新車を購入した場合は、3分の1を補助する制度(最大50万円)も創設した。

運転免許証の返納と、運転する高齢者への支援の2本立てで対策を行っている。村の人口の半分が65歳以上という高齢化に加え、歩いて行ける店舗などが少ない山間部にあることから、村長みずからが発案したという。

 

こうした2本立ての対策を、都内全体に広げていく必要があるのではないだろうか。

山間部の檜原村だけではなく、池袋で起きた事故のように、都市部でも事故は実際に起きている。都は、地球温暖化対策の一環として、電気自動車などを購入する個人に対する補助制度は設けているが、檜原村のような高齢ドライバーの事故対策の補助制度は設けてこなかった。地球温暖化対策も重要だが、身近な交通事故対策も拡充していく必要があると思う。

小池知事は今月4日に開かれた都議会で、次のように述べた。
「安全運転の確保や運転免許の自主返納への理解促進の観点から、事故防止のための手を迅速に打たねばならない」。

都は今後、アクセルとブレーキの踏み間違いによる急発進を防ぐ装置の導入に補助を行うほか、都庁内にプロジェクトチームを新たに立ち上げ、交通が不便な地域の高齢者の移動支援などを含む、幅広い対策を検討するとしている。

 

大先輩からの助言

矢﨑;文彦さん
矢﨑文彦さん

運転免許証の返納、代替の交通手段の確保、そして事故を防ぐ車の導入・・・。高齢ドライバーの事故を防ぐための課題は多岐にわたる。
その原点にあるのは、あらゆる世代の人が、「加齢」が避けて通れないことを前提に対策を考えていくことだと思う。

最後に、70歳で運転免許証を自主返納した葛飾区に住む矢﨑文彦さんの話を紹介したい。御年98歳の矢﨑さんは今も自転車の運転マナーなどを呼びかけるNPO法人「東京葛飾バイコロジー推進協議会」の会長として活動している。70歳の免許更新の時に、左目の視力が低下していたのに気づいて、「ここらが潮時」と思ってすっぱり決断したという。

矢﨑さんに、冒頭の武蔵野市の高齢者たちの声を伝えると、こう答えた。

 

矢﨑さん

「70歳そこらじゃまだまだ若いもんな。反発したくなる気持ちはよく分かるよ。免許更新のあり方を再考したり、行政が工夫をする必要はもちろんある。でもね、事故を起こした時の、子どもや孫たちの顔を思い浮かべてみなよ。私たちは長い人生で、周囲の声に耳を傾ける素直さも培ってきているはずだよ」

 


 

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首都圏放送センター記者
豊田 将志

千葉局を経て、おととしから都庁担当。