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<span>都政担当記者の</span><span>TOKYO深掘り中!</span>

“先生になってくれませんか?”

 

ことしも、“売り手市場”と言われる就職戦線。どの企業も優秀な新人を採用するために頭を悩ませていますが、多忙な業務から“ブラック”のイメージがつき始めた教育現場も教員の確保に四苦八苦しているようです。そんな中、東京都教育委員会は“ブラック”のイメージを払拭するため、新たな戦略を打ち出しました。

首都圏放送センター・小倉真依

 

求む教員!採用説明会始まる

『先生が誇りとやりがいを持って、働くことができる環境づくりに取り組んでます!』。

東京都教育委員会の担当者が熱く呼びかけたのは、4月13日に開かれた教員採用説明会です。

この日の会場は神戸市。都教委は、教員採用試験の申し込みが来月上旬に締め切られるのを前に、全国から教員を採用しようと、東京に限らず、福岡市や仙台市などでも説明会を開きます。

その説明会で配られたのは・・・。

 

“マンガ”でアピール

先月、完成したばかりの1冊のマンガ。タイトルは「東京の先生になろう」。

主人公は、都立高校に勤める先生です。この先生は、サッカー部の顧問になって悩んでいました。
「平日は部活が終わったあとに、翌日の授業の準備。土曜日も朝から夕方まで練習や試合の引率で、時間に余裕がない・・・」。
そんな先生に、同僚の先生が声をかけます。「部活動指導員を活用してみたら?」。

部活動指導員は、学生や退職した教員などに部活動の指導にあたってもらう制度です。都教委はこの制度の積極的な活用を進め、教員が授業の準備に十分な時間をとることができるようにしようとしています。

こうした長時間労働の問題に取り組んでいることを、マンガを通じて、学生たちに知ってもらうことが狙いです。

 

さらに動画も

PRはマンガにとどまりません。

都教委は去年、「東京の先生の1日」と名付けた動画まで作りました。小学校の教員の1日を追いかけた動画です。

きっかけは、ある説明会で、参加者から「東京の子どもや保護者は怖いのでは?」という不安の声を聞いたからでした。授業を熱心に指導したり、子どもたちと楽しく過ごしたりする姿を映像で見てもらうことで、教育現場で働く自分自身をイメージしてもらおうと言うのです。

ことしの採用案内のパンフレットには、この動画のQRコードが掲載され、スマホで見ることができます。

 

追い詰められる教育現場

私は正直言って、都教委がここまでしなければいけないほど、追い詰められているとは思いもしませんでした。しかし、東京の教育現場を取材してみると、厳しい現状が分かってきました。

まず、教員の採用です。
今年度採用の受験倍率は全体で2.9倍。この10年で最も倍率が高かった平成26年度採用の6.3倍と比べると、半分以下の倍率です。小学校に至っては、1.8倍と、2倍を切りました。

背景には、子どもの数が増加する一方で、教員の大量退職が続いているため、採用人数を増やしていること。売り手市場で学生たちの就職先が民間企業に流れ、教員の志望者が減っていることがあります。

 

“余裕がない”

さらに、東京では、当初の想定よりも児童が増えたり、退職する教員が多かったりしたため、昨年度、教員が足りなくなる事態も起きていたと言うのです。

都内で働く教員に話を聞いてみましたが、こうした教員不足が教育現場に余裕をなくしていると言います。

「教員が足りないため、学校の管理職が他県の教員免許を持つ人にも電話をかけ続けて、臨時の教員を採用しようとしていた」(60代の小学校教員)。

「教員の数に余裕がなく、ぎりぎりの状態でやっている。1人でも休んだら大変なので、具合が悪くても休めない。とにかく人を増やしてほしい」(40代の小学校教員)。

現場の声について、都教委の担当者は、「昨年度は、子どもの増加や想定より退職者が多かったために、こうした問題が起きた。今年度は必要な数の教員を確保したため、今のところ、このような問題は起きていない。適正な数の教員の確保に努めていきたい」と話していますが、教員不足による教育現場の不安の声はなくなったわけではありません。

 

まずは労働環境の改善を

一方、私が取材した教員たちは、「仕事にやりがいは感じている。子どもたちのためと思うと無理しても頑張ってしまう」と話していました。

また、冒頭の教員採用説明会で出会った学生は、「かつてお世話になった先生のおかげで今の自分がある。だから今度は、自分が生徒に何かを与えられるような先生になりたい」と目を輝かせて話していました。

都教委は、働き方改革を進めていますが、まだ道半ばの状態だと思います。
今、学校で頑張っている教員たちが「働きやすいと思える職場」を作ることが、教員になりたいという人を増やすことになるのは言うまでもありません。そして、教育現場の労働環境を変えていくことが、子どもたちが楽しく、安心して学ぶことにもつながっていくのではないでしょうか。

 


首都圏放送センター記者
小倉 真依

鳥取局・大阪局・盛岡局を経て、去年から都庁担当