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首都直下地震の脅威 「火災」からどう身を守る?

  • 2020年2月27日

国の想定で今後30年以内に、70%の確率で起こるとされている「首都直下地震」。
想定される最大震度は7。冬の夕方に発生した場合、死者は最大2万3千人にも上り、そのうち、1万6千人が火災で亡くなるとされています。私たちは、大切な命や家族、財産をどう守ればいいのでしょうか。首都圏情報ネタドリ!では、地域に潜む地震火災のリスクや、わが町・自らできる防災の備えについて、徹底的に考えてみることにしました。

山手線の“外側”に広がる地震火災の危険区域

こちらは、首都直下地震で焼失する建物の数を示した地図。濃い赤色が被害の大きい場所(250m四方あたり100棟以上が焼失)を示します。山手線のすぐ外側にある住宅密集地に、危険な場所が集中的に広がっているのが分かります。

こうした地域は、木造住宅が密集する「木密地域」と呼ばれています。戦後から高度経済成長期にかけて、道路や公園などの都市基盤が十分に整備されないまま発展し、老朽化した木造住宅が今でも数多く残り、軒を連ねています。画像は、葛飾区の東四つ木地区。狭い路地が入り組み、消火に当たる車が通れない道も多くあります。

近年の火災被害を例に、首都直下地震での大規模な火災に警鐘を鳴らすのは、東京大学の廣井悠准教授。2016年12月に起きた新潟県の糸魚川大規模火災では、ひとつの火元から、147棟にも広がる火災となりました。廣井准教授は、「地震の時は、壊れた建物の割れた窓から飛び火が入るなどし、延焼のリスクがさらに高くなる」と指摘します。

25年前に起きた阪神・淡路大震災の火災は2日間に渡って続きました。消防による消火が追い付かないという事態が起きていたのです。

“消防がこない” 住民たちの対策は?

“消防がすぐにはかけつけない”ということを前提に初期消火に力を入れている地域があります。杉並区の高円寺北地区。なかでも高円寺北3丁目は、地震火災による延焼危険性を表す「火災危険度」ランキングにおいて、杉並区で唯一、最も高い「5」とされています。実際、取材班が撮影に伺ってみると、道路幅が細すぎるため、ロケ用のミニバスでは待ち合わせ場所の公園までたどり着くことができませんでした。地区内の多く場所で、消防車は入れないのではないでしょうか。

この地区の馬橋南自治会では、初期消火の成功率向上のために、防火水槽などから汲み上げて使う消防ポンプや、ホースと消火栓をつなぐために使うスタンドパイプ、水道の蛇口につなぐだけで使える消火器具など、様々な備えを充実させてきました。消防車が入れない場所でも消火に当たれるよう、合計200メートルの長さのホースも準備しています。

特に力を入れているのは、発災時の体制づくりです。町会の役員や班長全員が防災倉庫の鍵を自宅に保管し、地震火災が起きたら、誰かがすぐに倉庫を開けられるようにしました。

さらに消火活動を迅速に行うためのマニュアルも整備。日頃、防災の取り組みを中心になって行っている自治会長や防災部長が不在の時でも、指揮命令系統を維持できるよう、リーダーになる人の優先順位を決め、集まった人たちで消火や救助を行えるよう、手順を定めました。発災時にはそのマニュアルに沿って、消火隊やパトロール隊が編成され、地区内の公園に設置される本部とトランシーバーで随時連絡を取りながら、初期消火や取り残された人の救助を行います。

一つの自治会としては、出来得る限りのことを行っている、と話す自治会長の明石文子さん。なぜここまで備えをするのか。「大地震が起こって、避難場所まで逃げることが出来たとしても、自宅や地域が燃えて無くなっていたら元の子もない。どんなに備えを進めても十分ということはないが、準備をしておくことが大事だと思う」と語りました。

地震火災による犠牲者は減らせる

火災による犠牲者は、馬橋南自治会の取り組みのような初期消火の成功率向上や、電気器具からの出火防止対策を充実させることで、大幅に減らすことができます。廣井准教授は、「まずは、町の中に消火器がどこにあるか、確認することから始めてほしい。自動的にブレーカーが落ちる『感震ブレーカー』の普及を進めるとともに、避難する時には、器具のコンセントを抜くなどの対策を怠らないで」と語ります。

「不燃領域率」向上へ 地震に強い町づくりを

地震火災に強い町づくりをどう進めていけばいいのか。行政による取り組みも進んでいます。東京都が力を入れて行っているのが、「木密地域不燃化10年プロジェクト」。“燃え広がらない・燃えないまちづくり”を合言葉に、都内の木密地域のうち、特に重点的・集中的に改善を図る53地区を「不燃化特区」として指定し、様々な取り組みを進めています。

そのプロジェクトで目標となっている指標があります。町の燃えにくさを表す「不燃領域率」です。緊急車両による円滑な消火や救援活動が行える幅6m以上の広い道路や、一定以上の面積の広い公園、そして火災に強い建物が地区にどれだけあるのか、という割合です。

都がホームページで公表している不燃化特区全体の「不燃領域率」は55%(平成26年度)。この数値を今年度中には、火災がこれ以上燃え広がらないとされる70%にまで引き上げようというのです

東京都の不燃化特区に指定されている葛飾区・東四つ木地区(東四つ木3・4丁目)では、プロジェクトの開始前、平成10年から「地震火災に強い町づくり」が進められてきました。延焼危険性を示す東京都の火災危険度ランキングは最も高い「5」で、対策前の不燃領域率は23%。火災が起きると地区の大半が焼失する危険がありました。

そこで、葛飾区がまず行ったのは、住民の土地を買収しながら進める「道路の拡幅」や「広場の整備」。もうひとつは、建物を建て替える際に、「火災に強い準耐火構造以上とする」「建物を防火壁とするため、高さ5m以上、開口率を7/10以上とする」といったルール作りです。

特に、土地の買収には、住民の協力・理解が不可欠です。区職員らが長い年月をかけ、粘り強い交渉を重ねることで、拡幅を進めていきました。幅員6mの道路を、計画に対して9割まで整備することができました。

さらに、東京都の不燃化10年プロジェクトがスタートしてからは、その特区制度も活用して、火災に強い建物への建替えを促進。最大200万円の助成金や固定資産税などの減免措置を導入したのです。こうした取り組みによって、東四つ木地域の不燃領域率は、目標の70%には届かないものの、50%を超えるまでになりました。

廣井准教授は、「地域の特性に合わせた取り組みを進める中で、いざという時にどう命を守るのか、しっかり考えてほしい。発災時には、風上方向の広い場所・広い道路を使って延焼領域を避けるように逃げて下さい」と語っていました。

首都直下地震による地震火災の被害をどう防ぐのか。地域の防災訓練に積極的に参加するなどして、初期消火についての技術や知識の習得を進めるとともに、老朽住宅にお住まいの場合は、中長期的な視座で、改修や建替えを検討することが求められるのではないでしょうか。

  • 丸山 健司

    首都圏放送センター  ディレクター

    丸山 健司

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