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  • 2024年3月8日

外国人の避難の課題 『ストック情報がない』想像して ~能登半島地震の警鐘~

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能登半島地震では、建物の倒壊や土砂災害などで亡くなった人のほか、避難生活も過酷な状況が続いています。その中には、海外からの技能実習生の姿も。必要な情報が届かずに、十分に支援を受け取れない状況に直面していました。背景に何があるのか、そして首都圏の課題や必要な対策を取材しました。
(宇都宮局/記者 鈴木ひとみ)

必要な情報が届かない

自宅の外で、食器や衣服を洗う人たち。ベトナムから来日している技能実習生です。
一緒に写っているのは、NPO法人『AAR Japan』の櫻井佑樹さん。ふだんは難民の支援活動をしていますが、地震発生の2日後、石川県に入り外国人の支援にあたりました。

NPO法人「AAR Japan」櫻井佑樹さん
「発災から2日ぐらいは避難所に逃げたと話していましたが、その後は自宅避難に切り替える方が多くいました。長く避難所にいたという人はあまりいなかったです」

この技能実習生たちは、いったん避難所にいったものの、提供された食事を宗教上の理由などで食べることができなかったほか、コミュニケーションもとれず、自宅に戻ってきたそうです。

さらに、櫻井さんによると、そもそも避難所が開かれたことや物資がどこで受け取れるかを知らなかった人もいたといいます。

こちらは、自宅で在宅避難をしていたインドネシアとネパールからの技能実習生です。職場からは、飲み水のほか、1日1回分の食事を受け取っていたということですが、物資は十分ではありませんでした。

櫻井佑樹さん
「支援物資を受け取りたいのに、誰に何を言ったらいいのかわからないという方が多かったです。お家の中も少し拝見しましたが、(自宅にあった)インスタントラーメンを、大事そうに仲間4人で食べていました」

櫻井さんたちは、ふだんから外国人の支援活動を行っている現地の団体と連携しながら、在宅避難をしている被災者のもとを回って、食料や水、灯油を届けました。
現地が逼迫した状況であることは理解しつつも、生活に必要な情報がうまく被災した外国人に届いていないことを課題に感じたといいます。

櫻井佑樹さん
「彼ら(技能実習生)の雇い主は、自分たちも被災している状況の中で、津波警報が出されたときにも高台に避難するよう促したり、水を提供したり、できる限りの支援をしていると思いました。行政側も、多言語に情報を翻訳できるホームページの作りにはしているんですが、なかなかそこまでたどり着けない。とにかく情報が届いていない人が多かったです」

“ストック情報”のなさが課題

大勢の人に情報を伝える取り組み自体は進められていて、例えば品川区では、外国人観光客向けに、21の言語で避難誘導ができるスピーカーを搭載したドローンを導入しています。

しかし、阪神・淡路大震災の時から、被災した外国人の支援に携わっている「ダイバーシティ研究所」の田村太郎さんは、情報の量だけではない特有の課題があるといいます。それが「ストック情報」の不足です。

「ストック情報」とは
災害時に発表される「フロー情報」と異なり、その前に蓄積されてきた知識や経験を指します。
例えば、“沿岸で大きな揺れのあとには津波のおそれがある”とか、“大地震のあとには避難所が開設される”ということも含まれるといいます。

「ダイバーシティ研究所」田村太郎さん
「能登半島にはここ数年で技能実習生が多く来ています。地域との接点がまだしっかりできていないときに地震が起きてしまったため、避難所の“場所”やそこでどうしていいか分からないという事態になってしまったことが、課題だと思います」

ストック情報 なくても伝わる方法は

では、「ストック情報」がない外国の人に伝えるにはどうしたらよいか。田村さんに聞きました。

例にあげたのは、例えば『余震に気をつけましょう』という表現。

直訳しても、『どう気をつければいいのか』が分からずに困惑してしまうことがあるそうです。
そのため、「また揺れると物が落ちてくる危険性があるので、物を固定したり、頭を守ったりしてください」などと言い換えた方が、意味が伝わりやすいといいます。

また、避難所についても注意が必要だと言います。日本では、小学校の体育館など屋内の場所に避難所が設置されることが一般的ですが、トルコやフィリピンなどでは、屋外の広場などにテントを張って避難生活を送ることがあるため、「建物の中に入ってくださいと言われると不安」という声も挙がるということです。
また、避難所が支援拠点になっていて、食料や毛布などを受け取れたり、炊き出しの支援が受けられたりすることも知らないため、今回の能登半島地震のケースと同様に、在宅避難を続けてしまう人がいます。こうした情報もきちんと伝えることが重要です。

田村さんは、発災後72時間以内に必要な情報は、あらかじめ翻訳しておき、自動的に流せるくらいの準備が必要ではないか、と指摘しています。

人生で初めて経験した地震 パニックに

ストック情報の無い中で、地震を経験するとどうなるのか。
都内で経済の研究をしている留学生の王宇鵬さんに話を聞きました。

王さんは中国出身で、これまで地震を経験したことがなかったといいます。そうした中で来日。1か月もたたないうちに、大学の自習室で震度4の揺れを経験しました。

留学生の王宇鵬さん
「今でも忘れられない記憶ですね。人生で初めて、そんな大きな揺れを感じました。ぎょっとして頭が真っ白になって、すごい恐怖を感じました」

揺れているときはどうしていいか分からず、机の下に隠れる行動をとるまでに揺れが起きてから30秒ほどかかりました。その日の夜は、恐怖から眠ることができなかった上、地震から1か月がたっても常に揺れているような感覚に襲われていたといいます。

王さんはその経験をきっかけに、地震や防災について学び、自宅には非常用にすぐに持ち出せるリュックを準備し、水と食料のほか、携帯トイレや水を使わないシャワーシートなどを購入しました。

これほど備えている王さん。日本で暮らす外国人はなるべく「自助」の意識を持って備えることが重要だと話しています。ただ、そうであっても、もし被災したら、周りから支援の手を差し伸べてほしいといいます。

王宇鵬さん
「災害の情報を集めることが、一般の日本の方よりも難しい。もし避難所に貼ってあるお知らせが日本語のみで掲示されていたら、避難生活をスムーズに送ることができるか心配です。そのため、周りの支援や、避難所に行くための案内をしてほしいと思います」

都内ではどんな取り組みが?

都内に住む外国人は60万人以上、それに加え、新型コロナウイルスの流行が落ち着いてからは、訪日観光客も増えています。
首都直下地震が起きた場合、王さんのように多くの外国人がパニックに陥ってしまったらどんな危険があるのか。

田村さんは、都内で地震が起き情報がうまく届かなければ、2018年の北海道での地震のときと同じように、駅や空港に外国人が滞留してしまう危険性があると指摘します。

2018年に起きた北海道胆振東部地震では、情報を求めた外国人を含む大量の観光客が駅の周辺に押し寄せました。このため札幌市が急遽、観光客向けの避難施設を設置する事態になりました。
避難所に大量の外国人が来た場合、支援が行き届かないおそれもあります。

このため東京都は、災害時に都内の各避難所へ通訳ボランティアを派遣できる体制を整えていて、現在はおよそ600人が登録しています。
年に数回のペースで講習会も実施しています。

英語で書かれた、手書きの張り紙

田村さんは、こうした支援は非常に重要だとしながらも、地域の住民と近くに住む外国人とが、日頃からコミュニケーションを取ることが何より大切だと指摘しています。
田村さんが印象に残っているのは、能登半島地震の際に支援で訪れた避難所の1枚の張り紙です。

そこには、
『橋が地震の影響で通れない』
『救援物資がまだ届いていないので何かあったらここを訪ねてください』
と、手書きの英語で書かれていました。

田村太郎さん
「おそらく地元の人が書いたものだと思います。事前に準備しておかなきゃいけないことはもちろんありますが、ふだんから周りに外国人がいることを認識しておいて、『あの人が困ってそうだからこういう情報を翻訳してあげないといけないんじゃないか』って思ってあげないと支援は行き届かない。だから、地域全体でふだんから外国人とコミュニケーションをとっておくことが、すごく大事だと思います」

取材後記

災害時には、「自分の命は自分で守る」という自助の意識が基本とされています。
外国人自身も、日本で生活を送る以上、災害に関する備えはしておかなくてはなりません。ただ、本人たちの力だけでは、避難やその後の生活を送っていく上での困難が非常に多いことを今回の取材で感じました。言葉、文化、食事、さまざまな面で違いが出てきてしまい、コミュニケーションも上手くいかないと、今回の能登半島地震のように、孤立する状態に陥ってしまいます。職場や地域の中で外国人が共に生活を送っているのだと認識し、『一緒に逃げよう』と声をかけるだけでも、外国人被災者にとっては安心できる要素になると思いました。

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