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埼玉 行田 「田んぼダム」で水害防ぐ 出水期に備え新たな対策も

  • 2023年3月24日

梅雨など出水期に向けて進められている取り組みについてお伝えします。埼玉県行田市では「田んぼダム」という水害対策が行われていて、出水期に向けた改良が行われています。
埼玉県で唯一というこの取り組みのこれまでの道のりと新たな対策を取材しました。
(さいたま放送局/記者 小野匠哉)

4年前の台風で大きな被害

行田市内を流れる忍川です。4年前の台風19号の大雨で氾濫。およそ250棟が床上や床下まで水につかりました。

忍川の近くに住む町田久次郎さんは、当時の光景を今も鮮明に覚えているといいます。

町田さん

ちょうど道路の真ん中で私のひざまで長靴が潜っちゃった。そこまで水が来るとは思わなかったし想像もしなかった。

町田さんの家では買ってまだ2か月だった車が水没。再び同じ被害が出ないか心配しています。

町田久次郎さん
「災害がこれだけ頻繁に全国、世界中で起きている状況ですから、また水が出るんじゃないかと」

地元の特徴いかす「田んぼダム」

水害をどう防ぐか。行田市は地元の特徴に注目しました。

行田市は市の面積のおよそ4割の2600ヘクタールあまりが田んぼです。
この田んぼを水害対策にいかそうと考えられたのが「田んぼダム」という取り組みです。
雨が降ると管の高さを超えた水は、そのまま用水路を伝って川に流れていました。

 

「田んぼダム」ではより水がたまるように長い管に取り替えすぐに雨水が流れないようにします。
一時的に田んぼに雨水がためられ、川の水位が上がるのを抑えるのです。

市が農家にかけあったところ、協力が得られた農地はおよそ1000ヘクタール分。最大で25メートルプールおよそ1800個分の109万トンの雨水を田んぼにためられる見込みです。

行田市農政課 高沢典孝主任
「『田んぼダム』の強みは、すでに広まっている田んぼを活用することで整備のコストを大きく抑えられることと、整備にかかる期間を短縮できることです」

課題に直面

取り組みは、水害の翌年から始まりましたが、課題に直面しました。

参加している農家の1人、長谷川浩さんです。長谷川さんの「田んぼダム」の広さは25ヘクタールにのぼります。

長谷川さん

水を田んぼにたくさん張ってくださいといった場合は、これを外して長いやつをここにこうはめて。

参加する農家は大雨が予測される時に市から依頼を受け現場まで出向き、長い管に差し替える必要があるといいます。長谷川さんの場合、全部で100か所以上で同じことをしなければなりません。細いあぜ道を歩かなければならず危険も伴います。

急に雨がすごく降るということになった時に、要請が出てもなかなか対応がしづらいのかなと。

ほかの農家からは、どれくらい水をためなければいけないのかや、稲の生育に影響がないかなど不安視する意見も寄せられ、実施しなかった農家も少なくありませんでした。

長谷川浩さん
「米の収量が増えたりとか米が高く売れたりとかそういうのがないですから。(農家が)直接的なメリットを感じないというのは率直な意見だと思います」

実効性どう高める?

実効性を高めるにはどうすればいいか。

市は「田んぼダム」の先進地、新潟県を視察し自治体の担当者から稲の生育に影響が出ていないことを確認。さらに管に工夫があることを学びました。

管の中は水が出る穴の幅が3分の1に絞られています。
田んぼに雨水をためながら用水路に流れる量を抑え、増水のスピードを遅らせます。現地に行って管を交換する必要がないので農家の手間を省くことができます。

市はこの管を市の予算で購入し、6ヘクタールの田んぼに設置したということです。
また、あぜを高く丈夫にすることで、「田んぼダム」の貯水量を上げる工事を行ったほか、草刈りの手間を省くシートも設置したということです。

「田んぼダム」に参加する農家にメリットを感じてもらいたい考えです。

行田市農政課 高沢典孝主任
「行田の田んぼでおいしい米づくりと、あとは減災の能力を両方両立させて安心安全なまちを維持するために『田んぼダム』を広く普及していこうと考えています」

農家の負担を減らし、どれだけ多く協力してもらえるか。「田んぼダム」の効果を高めるため行田市の模索は続きます。
行田市は、農家が安心して「田んぼダム」に参加できるよう、万が一農作物に被害が出た場合にどのようなサポートができるか検討したうえで、理解を促したいとしています。

  • 小野 匠哉

    さいたま放送局 記者

    小野 匠哉

    2015年入局。岐阜局、名古屋局を経て現在はさいたま局で主に事件・事故を担当。

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