首都圏各地を流れる川のリスクをお伝えする「かわ知り」。
今回は、関東南部を流れ、東京湾に注ぐ「江戸川」です。
実はこの川、かつては存在しなかったという特殊な成り立ちがあります。
水害を防ぐという役割の一方、“広い範囲”で“長期間”にわたり浸水するおそれがあります。
注意するポイントを3つお伝えします。
(首都圏局/記者 岡部咲)
江戸川の始まりは茨城県五霞町です。ここで利根川から分かれ、千葉、埼玉、東京の境を通って東京湾まで流れる、長さおよそ60キロの河川です。
この江戸川ができたのは江戸時代初期。洪水の被害を防ぎ、水路を開くためでした。
江戸の町に流れ込んでいた利根川を東へと変えた上に別の川と利根川をつないでできたのが江戸川。
幕府の工事は60年がかりでした。
この江戸川も今や流域には大都市圏があります。すぐに氾濫するようなリスクは低いものの、ひとたび氾濫すると大きな被害を及ぼすと予想されています。
キーワードは“広範囲” “長期間”です。
江戸川の周囲は平地になっています。
「天井川」といって、川底が地面よりも高い地域が広がっています。ハザードマップをみると、最悪の場合、浸水の深さが5メートル以上の区間が広く確認できます。この場合、2階に避難しても助からないおそれがあります。
さらに、自治体が防災対策を考える上で懸念するのは浸水する期間の長さです。
およそ70万人が住む江戸川区は、区の7割が海水面より低いいわゆる「ゼロメートル地帯」です。
いったん堤防が決壊するなどして浸水した場合、なかなか水はひきません。最長で2週間近くにのぼるところもあるとされています。
建物の上の階に多くの人が取り残された場合、ライフラインが途絶えた中では、厳しい状況に置かれる危険性があります。
江戸川区水害ハザードマップより
このため区は、事態が差し迫る前に区の外に避難するよう呼びかけています。
ただ、親戚や知人宅が区の外にない人もいます。そのため、区民が区の外の宿泊施設を利用した場合、1人あたり最大9000円を補助する制度もスタートしました。
さらに、避難が間に合わず、取り残された人が出た場合に備え、ボートも購入しました。
区内のほとんどの小中学校に配備されていて、ことし8月には実際にボートをプールに浮かべた訓練も行いました。
江戸川区防災危機管理課 藤川則和 統括課長
「ゼロメートル地帯というのもあって一度たまった水はなかなか排水できない。2週間近く籠城するのはとても不便なので、事前に安全な場所に避難してもらうのが江戸川区としての願いです」
では実際に水害のおそれが迫っているときに、何を参考にしたらいいのか。
国土交通省の江戸川河川事務所は、上流にあたる“利根川”の水位がポイントだといいます。
埼玉県久喜市にある「栗橋観測所」は江戸川が分岐した場所からおよそ9キロ上流にあります。
2019年10月 台風19号で水位が上がった江戸川
2019年10月の台風19号では、栗橋の水位がピークを迎えた2時間後に、江戸川の起点近くにある「西関宿観測所」の水位がピークを迎えていました。
江戸川区や松戸市周辺の水位に影響するのは、さらに10時間ほど後だといいます。
江戸川河川事務所は、上流の水位に注意して余裕をもった避難を呼びかけています。
ただ、勢力の強い台風が東京湾に近づく場合、コースによっては高潮による浸水のおそれもあります。洪水と重なると、被害が広域に及ぶ危険性もあります。
江戸川区をはじめとする5つの区は48時間先の予報で台風の中心気圧が930ヘクトパスカル以下と強く、さらに東京地方に高潮の被害が予想された場合などに自主的に広域避難を呼びかけることにしています。
こうした情報にも注意してください。
そして、最後に忘れてはいけないのが“雨がやんだあと”のことです。
先ほども紹介しましたが、上流で大雨が降った場合、半日ほどあとに江戸川の水位が上昇することがあります。
上流で大雨が降った場合、江戸川の周辺では、たとえその場所で雨がやんだとしても、これから水位が上がることに警戒し、自治体の避難情報のほか、水位のデータに注意をしてください。
国土交通省 江戸川河川事務所 石田武司 副所長
「降った雨が徐々に江戸川に到達するため、晴れたからといっても洪水への危険性が呼びかけられている間は川に近づくことは避けてください。自分が住んでいる地域がどの範囲・どの深さで浸水するのかふだんから確認しておいてください」
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