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超高層ビルと長周期地震動 免振装置を「上」の階に 効果は?

  • 2022年9月16日

11年前の東日本大震災で都心の超高層ビルを大きく揺らした「長周期地震動」と呼ばれる揺れを抑える技術の開発が進んでいます。通常は建物と地下にある基礎の間に設置する免震装置を、ビルの「上」の階に設置して、揺れを抑える最新の技術の実験が行われました。揺れはどの程度抑えられたのか、「上」に設置するメリットなどについてまとめました。

「長周期地震動」とは 東日本大震災でも被害

2011年の東日本大震災では、「長周期地震動」と呼ばれる周期の長い揺れが発生して震源から離れた東京や大阪の超高層ビルがゆっくりと大きく揺れ、天井や壁が壊れる被害が相次ぎました。

「長周期地震動」は大きな地震の際に発生し、震源から離れても揺れが衰えにくく、超高層ビルをゆっくりと大きく揺らすのが特徴です。

国の想定では、「南海トラフ巨大地震」で長周期地震動が発生すると、東京・名古屋・大阪の超高層ビルの揺れ幅は2メートルから3メートルに達し、東日本大震災を上回ることもあるとされていて、ビルの上層階ほど揺れが大きくなるということです。

ビルの揺れを抑える 免振装置を「上」の階に

建設各社はビルの揺れを抑える技術の開発を進めていて、長周期地震動を再現できる大手建設会社の施設で、ビルの模型を使った最新技術の実証実験が行われました。

今回の技術の新しさは、通常は建物と、地下にある基礎の間、いわば「下」に設置して揺れを抑える免震装置を、ビルの「上」の階に設置することです。

実験では、「上」の階に技術を組み込んだビルの模型の揺れは、そうでないものと比べ上層階の揺れが3割余り軽減されることが確認されました。

免震装置をビルの上層階に設置すると、揺れを抑える装置の設置台数を減らすことができ、建物のスペースを多く確保できるメリットもあるということです。

清水建設技術研究所 福喜多輝センター長
「超高層ビルは通常、上の階が大きく揺れるが、今回はその解消を目指した技術で、実験でも揺れの軽減を確認できた。特に都市部で超高層ビルが増える中、今後も対策に取り組みたい」

揺れを止める方向に動く屋上の「おもり」

こうした中、揺れを「上」から抑える技術にメリットがあるとして、既存のビルに導入するところも出てきています。
そのひとつが、東京・恵比寿の「恵比寿ガーデンプレイスタワー」です。ことし8月、地上40階建てのビルの屋上に、高さ7.5メートルの装置を3基、設置する工事が完了しました。

装置の特徴は、積み上げられたゴムの上に、1基あたり重さ450トンの「おもり」が乗っていることです。地震が起きると、この「おもり」がビルの揺れを止める方向に動き揺れを打ち消す仕組みになっています。

東日本大震災の時と同じ揺れでシミュレーションした結果、ビル全体の揺れの大きさを半分に、揺れの継続時間も大幅に抑えることができたということです。
ビル内部の工事が必要なく、工事をしながらビルの使用を続けられるメリットもあるということです。

鹿島建設建築設計本部 栗野治彦プリンシパル・エンジニア
「超高層ビルは大勢の人が集まって活動する重要な社会インフラで、いざという時の防災拠点にもなる。東日本大震災以降、長周期地震動対策のニーズは大きく高まっていて、これまで以上に高性能・高効率の装置の開発を進め、皆様が安心してすごせる建物を増やしていきたい」

超高層ビルやタワーマンション “室内の対策も必須”

国土交通省によりますと、高さ60メートルを超える超高層ビルは全国に数千棟あり、東京都内を中心に年々増加していて、高さ200メートルを超えるオフィスビルの建設も相次いで予定されています。
また、不動産調査会社「東京カンテイ」によりますと、2021年の時点で20階以上のタワーマンションが全国に1427棟にのぼり、このうち3割あまりは東京に集中しているということです。

工学院大学 久田嘉章教授(地震工学が専門)
「超高層ビルは構造上、大きくゆっくり揺れる造りになっていて、揺れを抑える装置がないと『共振』という現象で揺れがどんどん大きくなる可能性がある。揺れを抑える対策は長周期地震動に対して非常に有効で、構造被害を減らしてその後の復旧を楽にするという効果も期待できるため、今後も対策を進めていくことが必要だ」

一方、南海トラフの巨大地震など大きな地震が起きれば、対策が行われていても超高層ビルがゆっくりと大きく揺れることに変わりなく、室内の対策は必須だとしています。

〇具体的な対策
・家具やキャスター付き器具の固定
・エレベーター閉じ込め想定の訓練
・安否方法の確認方法を決めておく

具体的には、家具やオフィスにあるキャスターがついた器具の固定を進めるほか、エレベーターの閉じ込めを想定した訓練や、安否確認の方法をあらかじめ決めておくなどの対策を呼びかけています。

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