水害が心配な季節です。
防災を呼びかけてきたアナウンサーとして、実際の災害時に適切な行動が取れるのか?
自分を試すつもりで水災害時の状況を体験できる横浜市の「減災トレーニングルーム」に行ってきました。
いざやってみると、思うようには動けず…。悔しさがこみ上げました。
(アナウンサー 原大策)
訪ねたのは、横浜駅から歩いて10分ほどの所にある横浜市民防災センター。今年4月に、水災害が起きた状況を体験できる装置が新設・リニューアルされました。
まずは「減災トレーニングルーム」という部屋の体験をしていただきます。
「減災トレーニングルーム」は一見、普通の部屋ですが、音や映像で風水害が迫る状況を疑似体験できます。
スタートしてすぐ、窓の外には大粒の雨が降り、木が大きく揺れ始めました。
“台風が近づいている”という想定で、
テレビには氾濫危険情報・警戒レベル3が出ていました。
そのあとすぐ「全員避難」を意味する警戒レベル4に変わり、避難を呼びかけるアナウンスが。
慌てて避難グッズを探し出したところで、突然の停電!
避難しようとしたところ、追い打ちを掛けるように窓ガラスが割れ、水が家の中に入ってきてしまいました。
急いで家の外に避難しようとしましたが、時すでに遅し。
外に迫る水で玄関の扉を開けることができず、慌てて2階に避難したところで、体験終了。
次々と起きる事態にうろたえてしまい、あらゆる対応が後手後手になってしまいました。
実際に起きたらと思うとゾッとします…。
終わったことにほっとするとともに、その直後にこみあげてきたのは猛烈な「悔しさ」。
アナウンサーとしてあれだけ風水害の呼びかけを考えてきたのに、結局、動けなかった。これが本当の災害なら、やり直しはききません。あらかじめどう行動するか考えておかないと、全然動けないと痛感しました。
大森さんからも、厳しい評価を頂いてしまいました。
計画がしっかり立っていないと、「何からしよう?」というところから始まるので、あれよあれよと状況が悪化していくという形になっていました。玄関ドアの所に行っていましたが、すでに水圧で開かなくなっていましたので、逃げ遅れてしまった。最後、2階へ避難しましたが、家の裏は崖になっているので、2階や3階で安全が確保できたかどうか、疑問が残ります。
悔いの残る結果でしたが、体験を通して、水害時の避難に大切なポイントがいくつか見えてきました。
まず、大森さんに指摘されたのが「ハザードマップの確認」でした。
実は家の中にもあったのですが、見落としていました。
ハザードマップを見ると、この家の場所が
▽50cmから3mの浸水の可能性があること
▽土砂災害の警戒区域であること
だとわかりました。自宅周辺にどのような危険性があるかを示すこの情報を元に、自分の防災行動計画=マイタイムラインを作っておくことができれば、 “すぐに家の外に避難する”という行動が取れていたかもしれません。
今回の体験で一番驚いたのは、逃げようにも玄関のドアが開かないという事態でした。
どの程度の浸水でドアは開かなくなるのか。「早めの避難」を強く意識してもらうために、本物の“水”を使った装置で体験してみることにしました。
扉の外に水深50cm、膝の上くらいの水がたまっているという想定では…。
体重60キロの私が全力で押してみましたが、全くびくともしません!
大森さんによると、水深50cmでは、約100kgの水圧がかかるということで、ほとんどの人が開けることはできないといいます。
続いて、水深を30cm、すねの高さくらいまで低くしてもらいました。
今度は、なんとか開けることができましたが、足元には大量の水が流れ込み、足を取られそうになりました。
実際、もっと流れが速かったりすると水深30cmをキープしているわけではないので、体験で開けられた人でも開かないこともあります。
何よりも大切なのは、「早めの避難」だということが分かります。避難行動が遅れる要因の1つは「今まで大丈夫だったから、今回も…」という思い込み。
早めの避難をするために、天気予報などで正しい情報を得て、状況が悪化する前に「もしかしたら、悪化するかもしれない」と考えて行動することが重要になります。
さらに、浸水が始まった状況でも避難をするべきなのか聞きました。
扉を開けて避難ができる状況であれば、避難したほうがいいです。ただし、自宅や近隣の状況によって“避難するほうが危険”な場合は、2階以上の高い所への垂直避難となります。しかし状況が悪化すれば、そういった場所も危険になる可能性がありますので、やはり早めの避難ということにつながっていきますね。扉まで水が迫ってくる前に避難しておくことが大事です。
避難する途中で、冠水した道を歩く可能性もあります。
水深30cm程度の冠水を再現した道を実際に歩いてみました。
思っていた以上に歩きづらいことに驚きました。水が流れてくる方向に向かって歩いているときは“ふんばりながら歩く”という意思が働き歩くことができるのですが、流れが後ろからきているときはバランスを崩しそうになりました。
実際は濁っていたり、水の流れも見えなかったりすると思うので、より想像がつきづらいと思います。また、漂流物が流れてくる可能性もあります。自転車が落ちていたり、マンホールが開いてしまっていて、気づかずにそこに落ちてしまったりすることも実際にあります。
もし、地面が見えない時や、暗くなった時に浸水した道を歩かなければならない場合には…。
(1)足元や前方に何があるか確認できるよう、傘をつえ代わりに使う
(2)長靴よりも足に密着するスニーカーなどの靴で避難
これが大切だと教えてくれました。
横浜市民防災センターが、こうした体験装置を新設した理由は、近年の水害の激甚化です。
横浜市内でも、令和元年の台風19号や昨年7月の活発な梅雨前線などによって、住宅の破損や、浸水被害が多発しました。そのため、対策の必要性を訴えて企業から約1100万円の寄付を募り、水災害に関する設備の大幅な拡充に取り組んだのです。
横浜市民防災センター所長 渡邉史子さん
「これまでも風水害に対するツアーは行っていたのですが、実際に体を使って体験するものは今回が初めてです。体験して自分事として捉え、それを今後に生かしていただくことが大切だと思っています。きっと来た方には何かを学んで帰っていただけるし、それが自分の命を救うことにつながっていくと思っています」
※横浜市民防災センターでの体験は、事前の予約が必要です。
これまでこうした体験は、地震なら揺れたときに身を守る方法、火事なら火が出たときに消火する方法など、「まさにその時」にどう行動するのを学ぶものだと思っていました。
しかし、今回の水害体験は知らない間に追い詰められ、気が付いた時には時すでに遅し、という大きな「後悔」を感じるものでした。そうならないためにも大切なのが「早めの避難」。
私自身、体験して感じたこの「悔しさ」を原動力にして水害への備えをしていきたいと思いました。