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タワマンで首都直下地震が起きたら…高齢者の「在宅避難」を体験!

  • 2022年3月11日

地上24階で首都直下地震が起きたら…。
約30年以内に70%の確率で起こるとされる首都直下地震。東京都は約10年ぶりにその被害想定を見直しています。
家屋の倒壊を免れた人には、自宅で避難生活を送る「在宅避難」が推奨されていますが、都内はマンションなどの共同住宅が7割以上で、高齢化も加速しています。そこで、ディレクターが高層マンションで“高齢者として”在宅避難を体験。何が必要なのか考えてみました。

高齢化が進む高層マンションで検証!

今回、検証にご協力いただいたのは、1000人以上が暮らす25階建てのマンション。24階の部屋を借りました。

設定した状況はこちら。

・震度6強の首都直下地震を想定
・ディレクターは24階の部屋で2泊3日(48時間)の「在宅避難」
・部屋にある食品や非常食と、防災バッグに入った防災用品を使って生活
・動作を高齢者に近づけるため、合計4キロ程度の重りを服や腕、靴に装着
※監修:防災アドバイザー高荷智也さん

在宅避難を体験するのは籾木佑介ディレクター。高層マンションで生活した経験はありません。
部屋に入って、まずは重りを装着します。
上半身がずっしりと重く、素早い動きはできなくなりました。

籾木
ディレクター

体も重くて、関節も曲げにくいです…動きづらい。


防災グッズの中身を見てみました。
持ち出し用の防災セットとして販売されている一般的なもので、マスクや携帯トイレ、懐中電灯などが30点ほど入っています。

在宅避難1日目 あらゆるライフラインが停止

■午後1時 震度6強の地震発生
発生後、電気や水道などのライフラインが停止します。
首都直下地震が起こった場合、東京では電力は7日、上下水道は30日、都市ガスは60日程度使えないおそれがあります。
高層マンションの多くは、水を電気でくみあげています。停電すると、非常用電源がなければ水が使えなくなってしまいます。

IHクッキングヒーターやトイレ、水道、エレベーターなど使えなくなったものにバツ印のテープを貼っていきます。

■午後1時5分 外に出るだけで一苦労
大きな揺れが収まったあと、まず気になるのは外の様子。部屋の窓からは被害の状況がよくわからないので、とりあえず下に降りてみることにしました。

しかし4キロの重りで体が動かしにくく、1階まで降りるのにかかった時間はなんと10分。

 

すでに腰やひざが痛いです。階段を降りるだけでこんなにつらいとは…。体が不自由な方や高齢の方は無理に下まで行くとかえって危ないかもしれません。

さらに20分かけて部屋に戻ると…。
床にはガラス片を想定したビーズが散乱しています。高層階は揺れが大きく、低層階よりも家具などが部屋に散乱する可能性が高いとされています。

ガラスなどが割れてしまった場合、停電で掃除機が使えないので、破片を一つ一つ手で拾っていきます。

片づけのあと、手を洗おうとしますが、水道は使えません。ペットボトルに入った飲用水を使うことに。
地震で配水管が壊れている可能性があるため、排水は流さず桶にためます。
マンションによっては、排水を再開する前に1戸1戸の配水管に問題がないか確認する必要があり、部屋数の多い高層マンションでは復旧にさらに時間がかかる場合もあります。

■午後7時 携帯で通話・通信ができなくなる
防災アドバイザーの高荷さんによると、携帯電話の基地局の非常用電源は、場所によってバラつきはあるものの数時間から半日程度で落ちる可能性があり、その場合、通話・通信ができなくなるそうです。

この時間からは携帯電話を機内モードにし、電話やネット通信を遮断します。

 

ふだんスマホでネットを長時間使っている僕にとって、かなりつらいです。何をして時間を潰したらいいんだろう…

■午後8時 暗い部屋での調理に苦戦
真っ暗なキッチンで夕食の準備に取り掛かります。
電源が切れた冷蔵庫にいくつか食材はありますが、暗すぎて調理ができません。仕方なく非常食のチキンライスとカップ麺を食べます。

調理のため部屋にあったカセットコンロを使いお湯を沸かそうとしますが…。

 

手持ちの懐中電灯では調理がしにくいです…。両手が使えるように脇に挟んでみましたがうまくできません。ランタンのように自立するものだったらよかったのに…

それでもなんとか食事の準備ができました。

 

おいしい!非常食、想像よりもすごくおいしいです。災害時でも自分の家で温かくておいしいものを食べられるというのは、かなり心の支えになります。

■午後10時 就寝

 

お風呂には入れませんが、せめて歯は磨きたいと思います。水を好きに使えないのはかなりストレスです。

在宅避難2日目 尽きていく防災グッズ…トイレがない!

■午前7時 携帯トイレが足りない
起床し、トイレに向かった籾木ディレクター。

 

防災グッズの中にあった携帯トイレは3回分だけでした。しかも全て「小便」用…。昨晩からできるだけ我慢していたのですが、このままだと足りないかも…

在宅避難2日目、最大の課題はトイレでした。

■午前7時30分 朝食の準備
気を取り直して朝ごはんの支度をします。
昨晩は暗くて見えませんでしたが、キッチンにはインスタントコーヒー、冷蔵庫には卵やキュウリ、ミニトマトなどを発見。
カセットコンロで沸かしたお湯でコーヒーとゆで卵を作り、防災バッグに入っていた乾パンと合わせると…豪華な朝食が出来上がりました。

サラダ、ゆで卵、乾パン(デニッシュ)、インスタントコーヒー

野菜が傷んでしまう前に活用することができました。検証2日目にして在宅避難中の料理のコツをつかんだと思いきや…

 

コーヒーを飲んだせいか、もっとトイレに行きたくなってしまいました…

■午後1時 再び階段で…
とうとう携帯トイレを全て使い切ってしまった籾木ディレクター。
同じマンション住民の福田さんから、備蓄している携帯トイレを分けてもらうことにしました。しかし、福田さんの部屋は別の棟の21階。また階段の登り降りです。
約30分かかって、福田さんの部屋にたどりつきました。

いただいた携帯トイレは大小便どちらもOKのもの

 

もしこれが水など重たいものだった場合、荷物を持って階段を移動するのはかなり厳しいですね。

疲労困ぱいしましたが、トイレがあることの安心感は格別でした。排せつについて考えておくことは本当に重要だと痛感させられました。

 

昨晩トイレに行く回数を減らさなきゃと考えていたらよく眠れませんでした。もう我慢しなくていいと思うととても気が楽です。

在宅避難3日目 さらに尽きる防災グッズ…ガスが切れるとつらい

■午前7時 起床
検証中、初めて晴れた最終日の朝。

 

ふだんなら朝のニュースの時間なのに…。
ネットもニュースも見られず、外がどうなっているのか気になります。高層階にいると外の様子があまり分からないので、なおさら下に降りて地上の様子を見たい…。

■午前8時 朝食の準備
カセットコンロを付けようとすると…なんとガスが切れてしまいました。
使用する時の気温やコンロの種類、メーカーにもよりますが、カセットボンベ1本の使用時間は強火でおおよそ1時間。1週間で6本程度の備蓄が推奨されていますが、家にあったのは1本だけでした。

お湯があれば15分でできる非常食も、水で戻すと1時間かかります。寒さと空腹に耐えながら防寒具にくるまって待ちます。

室内の気温は13℃

 

まさか2日足らずでガスボンベが切れるとは。温かいご飯はもちろんですが、部屋が寒くてもコンロの火に手をかざすだけで心が満たされていたのに…。検証が始まってから今が一番つらいです。

■午前10時すぎ ようやく朝食
ようやく食事にありつけました。冷たいお米や缶詰、ビスケットなどを食べました。
その後地震発生から48時間が経過し、在宅避難生活体験は終了。

「在宅避難」を経験して…

実際に在宅避難をしてみて、想像以上に不便なことがたくさんありました。
ライフラインが使えなくなるのは理解していたつもりでしたが、具体的にどんな生活になるのかはイメージが足りていなかったと感じます。
手が思うように洗えないこと、暗くて視界が悪いことなど、不便さがだんだんイライラにつながっていくことも分かりました。

特に反省したのは、今回用意した防災バッグが、一般的な「持ち出し用」のセットだったことです。この防災バッグとは別に、ガスコンロや携帯用トイレなど「在宅避難用」の備蓄を用意して、事前に使えるようにしておくことが必要だと感じました。

在宅避難の落とし穴 (籾木D調べ)
●水道・電気・ガス・ネットが使えない生活をイメージできていなかった
●持ち出し用のグッズと、在宅避難用のグッズは別で準備を
●排水は流せない。配水管の復旧まで容器に入れて保管
●非常食は家族構成を考えて準備する
●懐中電灯だけでなく自立するランタンがあると便利。乾電池が多めにあると安心
●カセットコンロ&ボンベは必須!(ボンベは1週間で6本が目安:農林水産省HPより)
●簡易トイレは事前に使い方を確認、多めに備蓄を!(個人的には1日5回分あると安心)
●汚物やごみなどの置き場所に困る(比較的においが気にならない風呂場などがいいかも)

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