シュトボー

  • 2022年1月17日

地震火災の初期消火 上原光紀アナが消火器の正しい使い方を学ぶ

キーワード:

死者1万6000人。首都直下地震の「地震火災」による最悪の想定です。 
この被害を防ぐために大事だとされるのが、「初期消火」です。でも地震の後、どうすれば火事を消すことができるの? 
そんな疑問から私、アナウンサーの上原光紀が、本物の炎を消す実験に参加してみました。お話するのが恥ずかしいようなミスも含め、今回の経験を包み隠さずお伝えします! 
(アナウンサー 上原光紀)

本物の炎と消火器を前に…

燃えさかる本物の炎を前に消火器に書かれた使い方を必死で読んでいる人。顔は見えませんが、私、上原です。 
東京 調布市の消防研究センターで行われた、消火器で火を消す実験に参加した際の一コマです。 
私がこの実験に参加するにあたり、何をするかは聞かされていませんでした。 
実際、今、地震が起きて目の前で火災が発生した時を想定したからです。 
これまでに消火器を実際に使った記憶はありません。それにしても、ここまで手間取るとは思っていませんでした。

なぜアナウンサーが消火体験を?

どうして私がこの実験に参加したのか、紹介させてください。

今、私たちNHKのアナウンサーが力を入れているのが、災害時の「命を守る呼びかけ」です。テレビ画面で、避難を呼びかける姿を想像された方も多いと思います。 
私もニュースキャスターとして、災害のたびに“命を守る行動をとってほしい”という思いを込めて、呼びかけをしてきました。しかし、伝え手としてずっと抱えていた思いがありました。 

「本当にこの呼びかけで行動につながるのか」

「私が伝えて、本当にいいのか」

「より届く」呼びかけをするために、アナウンサーも色々な体験をする必要があると考え、今回の実験への参加となったのです。

死者最大1万6000人 減災のカギは「初期消火」

さて、実験の話に戻ります。 
今回、消火を体験することになったのは、首都直下地震が起きると、「火災」による死者が最も多くなると想定されるからです。その数、最悪の場合1万6000人。その被害を減らすカギが、「初期消火」とされています。

指導してくれるのは、消防庁消防研究センター主幹研究官の鈴木恵子さん。 
日本の火災研究の第一人者です。 
鈴木さんの指導のもと、ヘルメット、防塵マスク、不燃性の高い服と作業用手袋をして、万全の準備で臨みました。

「火事だー!」あれ?消火器の使い方が…

「火事だー!!」という声を合図に、実験開始です。 
私の目の前には、段ボールに着火し、燃え上がる「真っ赤」な炎が。

手渡されたのが消火器です。よし、これで火を消せばいいんだな。そこで、ふと思います。

「あれ?使い方が分からない…」

黄色い栓を外してみますが、消火剤がどこから出てくるのか分かりません。ふと、消火器に使い方が記載されていることに気付き、しゃがみ込んで夢中で読みました。 
この間にも、火はどんどん大きくなるのを熱さで感じ、さらに焦りが募ります。

説明を読んでいて、ようやくホースの存在に気づきました。「ここから出るのか!」と分かるや否や、消火を開始しました。

ちなみに実験で使った消火器の重さは5.8キロ。かなり重いのですが、必死のあまり消火中は重さを感じませんでした。

勢いを増す炎を前に「思考停止」

「火を消すには、火の根っこの方を狙えばいいのかな」

そんなおぼろげな知識をもとに、燃え盛る炎の下の方をねらい、消火剤を噴射していきます。でも勢いは弱まるどころか、逆に増していくばかり。

この時の私は、炎の全体像が見えなくなっていました。視野が完全に狭まり、炎に覆われている感覚です。イメージで言うと、炎のどアップが常に見えている感じ。

思考が停止し、体が固まったかのように、ただ一か所に立ち止まって消火を続けていました。もし、このとき自分の足元や背後に炎が迫ってきていても、気付かなかったでしょう…。

消火器の使用時間は、あっという間!

ホースを持っている左手が火で熱くなってきたけれど、持ち変える余裕もない。このまま頑張るしかないと思っていると、突如、噴射の勢いが弱まって… 
「えっ、終わった??」思わず声が出ました。

消火器を振って残りを絞り出そうとしましたが、もう何も出てきません。(あとで聞くと、使用時間は一般的に、粉末消火器で15秒程度、強化液消火器で30秒~50秒程度とされているそうです。) 
これであえなく、実験終了。

目の前の炎は、私の背丈(155センチ)をはるかに超える高さにまで、燃え上がっていました。 
消火器を使うのに、あんなに手間取るなんて…。 
たくさんかけたのに、消えないなんて…。 
噴射時間が、こんなに短いなんて…。

燃え盛る炎の前で、成すすべなく立ち尽くすしかないショック。実験後もしばらく興奮状態で、心臓がバクバクしていました。 
これが本当の地震のときの火災だったら、「初期消火」失敗です。 
 

専門家に聞いた 消火器で火を消すコツ

実験の後、鈴木さんから、消火器を使った消火のコツを教わりました。 
まず、消火器の正しい使い方です。

消火器の正しい使い方 
(1)大声で周囲に知らせる 
(2) 黄色い安全栓を真上に引き抜く 
(3) ホースを外し、火元に向ける 
(4) レバーを強く握って噴射  

次に、消火のポイントも教わりました。

消火のポイント 
□ 立ち上っている炎ではなく、燃えている物体そのものに向けて放射 
□ 一か所に集中せず、手前からホウキで掃くように消火剤をかける 
□ 炎が背丈を大幅に超えるなど恐怖を感じたら逃げる 
□ 消防への通報も忘れずに!

消火に当たっては、火災を目の当りにしたら、自分の逃げ道を確保する必要があります。地震の場合は、揺れがおさまるのを待ってから、焦らず対応することも大切です。

2回目は「火を抑えられた」と評価

このコツを聞いた上で、2回目の実験に臨みます。

消火器を使う手順に迷うことなく、消火剤も全体にかけるよう意識。1か所に立ちすくまず、動きながら消火することで視野が広くなり、炎の全体像を把握できました。

その結果、鎮火には至りませんでしたが、1回目よりも火の勢いを弱めることができ、背丈を超えるような炎上もありませんでした。

鈴木さんからは「炎を抑えることが出来たという点で評価できると思います。2本目の消火器があれば、消し止めることができたでしょう」との講評をいただきました。 
火の勢いをしっかりと弱めることが出来れば、周囲への延焼を遅らせ、避難の時間を稼ぐことができるそうです。

「実感」から命を救いたい

今回の実験に参加してみて、消火器の使い方をあらかじめ知っておくことの大切さを、心の底から痛感しました。 
私は、いざ炎を前にすると、焦りや恐怖で自由が利かなくなりました。そして「とにかく消す」ことで頭がいっぱいになり、本当の災害だったら危険な状況になりました。 
でも、消火のポイントを理解しておくことで、命を守れる可能性が高くなるのです。 
是非、自宅や職場に消火器がある場合は、一度手に取ってみてほしいと思います。

消防への通報も忘れずに!

そして、今回の経験は、アナウンサーとしての「命を守る呼びかけ」に生かせると思いました。 
いま私は、もし大地震が起きてスタジオを担当することになったとき、「火が出た場合は、可能な範囲で、初期消火につとめてください」などといった呼びかけのあとに、次のようなことばを添えようと思っています。 

「怖さを感じたら、決して無理をせず逃げてほしい」

少し不格好で、整った言葉ではないかもしれませんが、「実感」から出たこうしたことばが、いざというとき、命を守ることにつながってくれればと思います。

NHKアナウンサー どんどん防災体験します

私が参加した今回の実験は、NHKアナウンサーの「命を守る呼びかけ」を考えるプロジェクトがことし開始した新たなシリーズの第一弾です。

あわせて17人のメンバーで議論した結果、災害から命を守るためにできることのひとつが、『アナウンサー自ら、災害時に起こりうる様々な事態を体験し、率直な実感と共に伝えること』だと考えました。

プロジェクトメンバーの会議 次は誰が?

私たちが色々な現場に赴き、防災の体験をしてみます。そして、リアルに困ったこと、出来なかったことを包み隠さず、動画や記事で発信していきます。 
是非、皆さんの備えへの参考にしていただければと思います。

私・上原のあとは、どのアナウンサーが、どんなことをするのか、楽しみにしていてください。 
災害から命を守るにはどうすればいいのか、皆さんと一緒に考えられればと思います。今回の記事へのご意見や「こんなことを体験してほしい」といったご要望も、是非お寄せください。

ご意見・ご要望は こちら から

あわせて読みたい

ページトップに戻る