ことし10月、関東地方で発生した地震で、埼玉県川口市では震度5強を観測し、ブロック塀が倒れる被害が出ました。地震によるブロック塀の倒壊ではこれまでにたびたび犠牲者が出ていますが、対策は思うように進んでいないのが現状です。その課題を取材しました。
(さいたま放送局/記者 佐藤惠介)
10月7日の夜遅く、埼玉県では東日本大震災以来となる震度5強を観測する地震が発生し、川口市安行地区では、住宅のブロック塀が道路に倒れる被害が出ました。けが人はいませんでした。
12月、私が取材で訪れると、ブロック塀はきれいに片付けられて、新しくフェンスに建て替えられていました。被害があった家に住む80代の男性は地震で倒れるまで、ブロック塀の危険性には気づかなかったといいます。
東日本大震災の時の揺れでいくらかヒビがはいっていたんですよ。でも触ってもちゃんとしていたので大丈夫だと思ったんです。
この被害を受けて川口市は、通学路でブロック塀の調査を始めました。一方、川口市の隣のさいたま市では、昨年度からこうした調査を行いましたが、課題が浮かび上がっています。
さいたま市は、公立のすべての小学校の通学路にある4万2000か所のブロック塀で調査を行いました。その結果、ヒビが入っているなど問題のある場所が2300か所も見つかりました。
「特に改善が必要」と判断した500か所については、所有者に安全点検や補修工事を行うように求める文書を通知。合わせて、ブロック塀改修の補助制度を紹介しました。
しかし、今年度、助成金が申請された件数は12月中旬時点で70件ほどにとどまっています。
さいたま市 建築総務課 加藤隆司課長
「所有者の方も自らのブロック塀が地震の際に倒れるという危険の認識がないことが多いので、意識を改革していただくということでは、必ずしも計画通りに進められないことが非常にもどかしい点となっております」
地震の時のブロック塀の危険性が注目されるようになったのは、40年余り前に発生した宮城県沖地震でした。倒壊が相次いで子どもも犠牲になり、東北地方では対策が進められてきました。
宮城県石巻市は、さらに踏み込んだ対策に取り組んでいます。20年ほど前からスクールゾーンを調査して、ブロック塀の所有者に改善を求めてきました。
しかし、相手に改善・改修が見受けられなかった場合は、子どもの命を守るために、3年前から危険なブロック塀の位置をホームページで公表しています。
こうした取り組みを始めると、改修に応じるケースもありました。当初は12か所が公表されましたが、今では半分以下に減りました。
宮城県石巻市 建築指導課 三浦武宏課長
「個人の財産であっても危険な箇所ということで、周囲の安全を優先して公表しています。被害を完全に防ぐことはできないと思いますが、少なくとも被害を少なくすることはできると考えております」
こうした行政の取り組みで住民の行動に変化がみられています。石巻市に住む70代の男性は、近くに学校と保育園があることから市の補助制度を利用して、おととし、フェンスに建て替えました。
金がかかることだけれど、子どもたちが朝晩通るのでやってよかったです。今はとても安心しています。
ブロック塀診断士の小林徹さんは行政が中心となって、さらに対策を進めるべきだと指摘しています。
ブロック塀診断士 小林徹さん
「ブロック塀のせいで誰かに何かが起きてしまうのはあってはいけないことです。もし何かありそうなものがあれば、それに対してしっかり補修をしましょうねと、そういう流れを作るのは行政ではないでしょうか。自治体が先頭になってやるべきだと思います」
ブロック塀については、目視でもできる点検のチェックのポイントがあります。
国土交通省ホームページより
点検のチェックポイント(国土交通省ホームページより)
□ 高すぎないか。(地盤から2.2m以下か)
□ 厚さは十分か。(10cm以上か・塀の高さが2m~2.2mの場合は15cm以上か)
□ 控え壁はあるか。(塀の高さが1.2m超の場合)
□ コンクリートの基礎があるか。
□ 傾きやひび割れはないか。
ブロック塀診断士の小林さんは、これまでの地震で倒れなかったからといって油断はできないといいます。
ブロック塀診断士 小林徹さん
「地震がくるとちょっとみんな心配するんですよね。でも倒れなかったらすぐに忘れてしまう。そうではなくて、その地震の影響でちょっと前よりもぐらぐらしている可能性は結構あるんです。しっかり検査調査をして、ちゃんとしたものに是正することは必要だと思います」
自治体の中には、工事にかかる費用を助成しているところもあります。もし不備がある場合は、お住まいの自治体などに問い合わせてみてください。
あなたのその行動が次の災害で命を守ることにつながるかもしれません。