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「相模トラフ」津波まで数分 家族と避難するため4つのポイント

  • 2021年12月17日

「100%成功する避難訓練は、ほとんど成果がないに等しい」と話す研究者。
 

相模湾から、房総半島南東沖にかけての「相模トラフ」で起きる大地震では、神奈川県の沿岸に数分で津波が押し寄せる可能性があります。
高齢者や障害者など、1人で逃げるのが難しい人たちにどのように避難してもらうのか。全国の訓練を解析して、答えに迫ろうとしています。

命を守るために、知っておきたいポイントです。
(横浜放送局/記者 山田友明)

「相模トラフ」の巨大地震 津波まで数分

相模湾から、房総半島南東沖にかけての「相模トラフ」は、陸のプレートの下に、フィリピン海プレートが沈み込んでいる場所です。1923年の関東大震災を引き起こした地震も、この場所で起きました。ここで、最大クラスの地震が起きた場合、神奈川県の沿岸には数分後に津波が押し寄せる可能性があります。

東日本大震災 死亡者の少なくとも16%「要支援者」

消防大学校消防研究センターの大津暢人さんは、わずかな時間しかない中で、高齢者や障害者など、1人で逃げるのが難しい「要支援者」の人たちにどうやって避難してもらうのか研究しています。
元は消防士でしたが、東日本大震災の被災地で救助活動にあたったのがきっかけで、研究の道に入りました。

消防大学校消防研究センター 大津暢人 主任研究官
「東日本大震災では1万数千人が亡くなりましたが、少なくとも16%が要支援者だと言われています。要支援者の避難を研究して、安全な地域を目指したいと考えました」

訓練分析し避難のヒント見つける

注目しているのは、全国で日々行われている避難訓練です。
細かく解析していくと、避難を阻む要因や、迅速な避難のためのヒントがたくさん見つかるというのです。

11月、神奈川県藤沢市で、相模トラフの巨大地震と津波を想定した避難訓練が行われました。地震から10分以内に津波が押し寄せるという想定です。

大津さんも訓練に参加し、足が不自由な89歳の男性と、78歳の妻の夫婦に注目。一部始終を撮影しました。

男性は玄関先で急いで車いすに乗り、妻が押して自宅からおよそ200メートル離れた避難場所に向かいます。

避難場所の幼稚園までは順調に着きましたが、屋上までのスロープを上がるのが大変でした。その先にはさらに階段があり、地元の男性たちが4人がかりで持ち上げ、なんとか10分以内に避難することができました。

分析から見えた4つのポイント

避難ポイント(1) 靴ははかなくてもいい

避難訓練で靴を履く男性

訓練が終わって、動画を詳しく分析した大津さんが注目したのは、逃げる際に靴を履いた場面でした。

大津暢人さん
「この男性が靴を履くのにふだんは2,3分かかるということでした。津波の危険性を考えると、できれば靴を履かずに、車椅子に乗っていただきたい。靴を履かないことで、小さなけがはするかもしれませんが、避難を重視していただければと思います」

避難ポイント(2)小さな段差も避難を阻む
大津さんは、全国各地で行われている避難訓練も同じように細かく解析しています。
高知県の中土佐町で平成27年に行われた地域防災訓練では、車いすが津波避難タワーに向かう途中に動かなくなりました。

前輪が防潮鉄扉のレールに引っかかり、乗り越えようとしてもうまくいきません。周囲の人が手伝ってなんとか動かしましたが、30秒ほど時間がかかってしまいました。
たとえ小さな段差でも、乗り越えるための板を近くに置いておくなど、対策が必要だと分かりました。

避難ポイント(3)狭いスロープでは渋滞
たどりついた津波避難タワーでは、スロープで車いすの渋滞が起きました。
車いすを押す人も高齢者が多く、長い距離や急な坂道では、疲れて立ち止まってしまいます。スロープを作る時には、車いすがすれ違える幅を確保すること。難しければ、交代で車いすを押す人を確保することが必要だと分かりました。

避難ポイント(4) 地域の人たちの手助けが重要
住民の協力で無事に避難できたケースもありました。
急な坂が多いこの地区では、当初2人で車いすの高齢女性を運ぶ予定でしたが、坂の途中で押すことができなくなりました。

4人がかりでなんとか

様子を見かねた住民が次々に協力し、避難所に到着することができました。

100%成功の訓練は成果ない

大津さんはこうした訓練の積み重ねが実際の避難で命を守る一歩になると訴えます。

大津暢人さん
「100%成功する避難訓練というのはほとんど成果がないに等しく、どこを改善したらいいかというのを見つけるためにやるのがいい避難訓練です。訓練で失敗したことを実際の災害までに改善することが大切だと思います」

取材後記

大津さんは今後も各地の避難訓練に参加し、「要支援者」の避難行動をおよそ200例ほど撮影、年齢や障害の特徴、避難にかかった時間などを詳細に解析していくことにしています。得られたビッグデータを活用することで、いずれは「要支援者」が住んでいる地域や体の状態などを入力すると、自動的に最適な避難経路や、必要な支援要員の数などが分かるシステムを作りたいと話していました。

  • 山田友明

    横浜放送局 記者

    山田友明

    神奈川県警担当として事件事故に加え、防災分野を取材。

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